こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は、子どもの1型糖尿病の患者さんに関するランダム化比較試験の論文を紹介したいと思います。
まず、1型糖尿病のお子さんは普通の体格の子が多いです。糖尿病サマーキャンプに集まるお子さん達も、正常な体格の方が多いです。
しかし、1型糖尿病のお子さんでも太ってしまうことがあります。
必要以上に食べると、もちろん血糖値がすごく高くなってしまうので、血糖を下げるために、たくさんインスリンを打つことになります。
インスリンは血糖値を下げるホルモンであるのと同時に、「体のタンパク合成を助ける=体を作る」ホルモンなので、たくさん打てば必要以上に体に肉がついてしまい、太ってしまいます。
1型糖尿病のお子さんが、肥満になるとどんなことが起こるのでしょう。
実は、大人の2型糖尿病の体質、つまり「インスリンが効きにくい体質」になってしまいます。
そうすると困ったことが起こります。いつも投与しているインスリンの量では、いつも通りの血糖が上手く下がらなくなってしまいます。いつも通りの血糖コントロールを達成するために、インスリンの投与量を増やさざるを得なくなります。
1回のインスリンの注射量が増えればもちろん痛みも増しますし、そんな状態でさらにたくさん食べる生活が続けばさらにインスリンの量が増えてしまいます。インスリンの投与量が増えれば増えるほど、また体にお肉がついてしまい、悪循環になります。
僕の患者さんで、そんな状況のお子さんがいて、どうしようかと悩んでいた所、今回の論文を見つけました。
まずはいつも通り、主役に登場して頂きましょう。
J Clin Endocrinol Metab. 2017 Dec 1;102(12):4448-4456. PMID: 29040598
Effect of Metformin on Vascular Function in Children With Type 1 Diabetes: A 12-Month Randomized Controlled Trial.
Anderson JJA, et al.
今回ご紹介する論文のテーマは、「1型糖尿病で体重が多いお子さんに2型糖尿病の薬”メトホルミン”を併用すると、血管機能に対して良い効果があるか?」です。
血管機能に関する検討がメインですが、HbA1cや体重などの項目もサブテーマで解析されていて勉強になりました。
2型糖尿病の薬の「メトホルミン」は、インスリン抵抗性改善薬という種類の薬剤です。効きにくくなっているインスリンを効きやすい状態に戻す薬剤と考えてもいいでしょう。またメトホルミンは体重を減らす効果があり、2型糖尿病ではよく用いられる薬剤の一つです。
1型糖尿病で体重が多いお子さんには、2型の要素もあるだろうからメトホルミンが効果があるのではないか?とは本当によく考えられたアイデアですよね。
それでは、見ていきましょう。
スポンサーリンク
目次
背景-Back ground
1型糖尿病の子供は、アテローム性動脈硬化症に先立つ血管機能障害を持っている。
1型糖尿病のお子さんは、子どものころから将来の動脈硬化に通じるような血管機能障害を持っていることが知られています。例えば、大動脈の動脈の壁の厚さは動脈硬化と関連していますが、
1型糖尿病の小児は、対照小児と比較して、大動脈内皮厚が有意に厚かった。
J Pediatr. 2010;156(2):237–241.
とする報告もあり、病気のないお子さんに比較すると1型糖尿病のお子さんは、血管機能障害を持っていることが明らかとなっています。
このような背景から、著者らは、早期に血管機能障害に対して介入していくことが必要だよね!という考えを持つに至り、今回の研究を計画しました。
目的-Objective
メトホルミンは、そもそも2型の糖尿病に用いる薬剤です。成人領域ではエビデンスが蓄積されている薬剤です。
2型糖尿病の成人において、心臓血管イベントを減少させ、体組成および血糖コントロールを改善する。
Lancet.1998;352(9131): 854–865. Obes Res. 1998;6(1):47–53.
メトホルミンは、心血管イベント=いわゆる急性心筋梗塞などを減らす効果がある薬剤ということです。
前述の通り、これを小児の1型糖尿病児に用いてみたらどうか、という考えが今回の研究のスタート地点です。
ということで、目的は以下のようになります。
この論文の目的
1型糖尿病の小児における血管機能に対するメトホルミンの効果を評価する
設計と設定-Design and Setting
三次小児糖尿病クリニックにおいて、12か月間の二重盲検ランダム化プラセボ対照試験
1型糖尿病のお子さんに対するメトホルミンの研究は、この論文の前にもあるのですが試験期間が短かったりすることが問題点でした。
今回の研究の1年間研究を行う点は、先行研究にはない優れた点でした。
参加者-Particiants
どんな患者さんが含まれているかは、この論文の結果を自分の患者さんに当てはめてよいかを考える上で最重要ポイントです。
対象患者の条件
・8-18歳
・BMIが50thパーセンタイルより上
・基礎疾患に1型糖尿病をもつ
上記を満たす小児90人が今回の参加者になりました。
”BMIが50tnパーセンタイルより上”というのが分かりにくいかもしれませんが、50thパーセンタイル=平均という事なので、今回の研究の参加者は平均より上の体重の子ども達が対象になっていると考えてください。
90人の年齢は平均13.6歳(SD=2.5)、男児が41人でした。45人がメトホルミン群、45人がプラセボ群に割り振られました。
介入が中断されたのが10人、フォローアップ中に追跡できなくなったのが1人でした。
また、対象となった子ども達は、多くが肥満の症例ではありませんでした。平均より上の体重だけど肥満児ではないレベルのお子さんが多かったということですね。
介入-Intervention
メトホルミン(1g×2回/日まで=1日最大2000mg)またはプラセボ
患者さんの定義も大事でしたが、薬とその量も大事です。とんでもない量を使用していたら、そもそも日本では使えないよね~でこの論文に対する議論がお終いになってしまいます。
日本で処方できる薬剤でメトグルコ®の添付文書にはこのようにあります。
10歳以上の小児にはメトホルミン塩酸塩として1日500mgより開始する。維持量は通常1日500~1,500mg。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日最高投与量は2,000mgまで。
メトグルコ錠250mg / メトグルコ錠500mg 添付文書より転記
今回の研究でのメトホルミンの投与量はちょっと日本での投与量よりは多い、という印象は持った方が良いでしょう。
測定したもの-Main and Secondary Outcome
メインテーマとしてこれを調べています。
メインテーマ
上腕動脈超音波によって測定される血管機能[フロー媒介性拡張(FMD)/ニトログリセリン媒介性拡張(GTN)]
フロー媒介性拡張=FMDは、血管に流れる血液量が増加⇒血管の壁から血管拡張性物質が出てきて血管が拡張する反応を利用した検査で、血管内皮機能の評価方法です。詳しい検査方法についてはこちらをどうぞ。
ニトログリセリン媒介性拡張=GTNは、血管拡張性物質であるニトログリセリンを投与して起こる血管拡張度を評価する検査で、血管内皮機能ではなく、血管平滑筋機能を見る検査です。
その他サブテーマとして色んなものを測定しています。全部列挙すると、読むだけで嫌になるのでキモの部分だけ書きますと、
HbA1c、インスリン投与量、BMI、体組成、ウエスト周囲径、血圧(連続測定で3回の平均値)、空腹時脂質プロファイル、高感度CRP、アディポネクチン、レプチン、早朝尿アルブミン/クレアチニン比
などを評価していました。
結果-Results
結果を見る前に、まずはメトホルミンにせよ、プラセボにせよ、予定通り飲めていたのでしょうか?この点についてはしっかり論文中に記載がありました。
電子的モニタリングで評価したアドヒアランスの中央値(95%CI)は75.5%(65.7,81.5)であり、群間で違いはなかった。
薬剤が処方箋通りどれくらい飲めていたかの程度をアドヒアランスと表現しますが、アドヒアランスはメトホルミン群・プラセボ群で差はありませんでした。
さて、まずはメインテーマに関する結果です。
メトホルミンは、HbA1cとは独立してGTNが3.3%単位[95%信頼区間 (0.3,6.3) P=0.03]改善した。
メトホルミンは、FMDに関しては効果が認められませんでしたが、GTNに関しては改善を認めました。
あとはサブテーマに関する結果です。まずインスリン投与量、HbA1cに関する結果です。
メトホルミン群では、インスリンの投与量が0.2 U/kg/d[95%信頼区間 (0.1, 0.3) P=0.001]減少した。インスリン投与量の減少はメトホルミン投与開始3か月から12か月目まで(試験終了)効果が継続した。
メトホルミンは3か月でHbA1cに有益な効果を有し(P = 0.001)、12ヶ月間の群間の調節されたHbA1cの差は1.0%であった[95%信頼区間(0.4, 1.5)P=0.001]。
メトホルミンを投与することで、1年間を通じてインスリンの投与量が減って、HbA1cも改善したことが分かりました。
頸動脈/大動脈の血管内皮の厚さ、BMI、脂質、血圧、他の心臓血管のリスクファクターに関して、メトホルミンの影響はなかった。
上記の要素に関しては、メトホルミンの効果はないとの結果でした。
メトホルミン内服群で、より多い消化器症状の副作用が認められ、発症率比1.65[95%信頼区間(1.08, 2.52)P=0.02]であった。低血糖と糖尿病性ケトアシドーシスは有意な差がなかった。
メトホルミン自体の副作用はやはりゼロではないようですが、低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスに関しては問題ないという結果でした。
結論-Conclusions
メトホルミンは、血管平滑筋機能およびHbA1cを改善し、1型糖尿病の子供のインスリン投与量を低下させた。これらの利点と安全に使用できた記録は、1型糖尿病の子供に対するメトホルミン治療を考える契機になる。
今回の論文の結果を信じれば、メトホルミンの副作用について理解と対策が出来ていれば、平均体重以上ある1型糖尿病の患者さんに対するメトホルミン治療は、選択肢の一つになるかもしれません。
同じテーマの論文の結果はどうか?
1型糖尿病のお子さんにメトホルミンの効果がどうか?に関してはいくつか先行研究があります。それらも供覧しておきましょう。
JAMA. 2015 Dec 1;314(21):2241-50.
Effect of Metformin Added to Insulin on Glycemic Control Among Overweight/Obese Adolescents With Type 1 Diabetes: A Randomized Clinical Trial.
Libman IM, et al.
これは、1型糖尿病の青年へのメトホルミン投与に関するランダム化比較試験です。
患者は全員思春期後で、罹病期間が長く、全員過体重/肥満でインスリン投与量が高い集団でした。6か月間の試験期間で今回の論文と比較して短い試験でした。
⇒結果としては、インスリンの投与量の減少効果、肥満度減少効果はあったけれど、HbA1cの改善なし。胃腸関連の副作用が増えたというものでした。
この論文では、メトホルミンの使用は推奨されないとの結果であったが、今回の論文とはpopulationや試験期間が異なるところが重要です。
もう一つ供覧しましょう。
Int J Endocrinol. 2016;2016:3854071.
The Effect of Metformin on Adolescents with Type 1 Diabetes: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials.
Liu W, et al.
これは、1型糖尿病の青年でのインスリン治療+メトホルミン治療のsystematic reviewです。
PubMedおよびEMBASEオンラインデータベースを検索し、1型糖尿病をもつ301人の青年を含む、5つのランダム化比較試験が同定され、結合されたものです。
⇒結果としては、インスリンにメトホルミンを追加すると、HbA1c、インスリン投与量、BMI、体重が減少するというものでした。しかし、過体重/肥満の集団と、非肥満の集団では、効果に違いがあるかもしれないとの記載も見られました。
それで結局何が分かった?アシュアの思うこと
色々と関連文献まで手を広げてみると、”1型糖尿病のお子さんで、太ってしまった患者さんに対してメトホルミンを追加して治療することの意義”は、色々と研究されておりまだ結論が出ていない状況と言えるでしょう。
そんな中でも、HbA1cが良くなるかについては特に結論が出ていないという事は記憶しておいた方がよいでしょう。しかし、メトホルミンを投与することで、減量の効果、インスリン投与量減少効果はありそうです。
メトホルミン自体は、消化器系の副作用が目立つ薬剤ですが、その他にも気を付ける副作用があります(乳酸アシドーシスなど)。また、造影剤検査を行うときには休薬期間を置かなければいけないなど、少し不便なところがある薬剤でもあります。
実際に自分の患者さんに使用する際には、保健適応という大きな壁があり難しいとは思いますが、今後研究が積み重なり適応が1型糖尿病へ広がることを望むばかりです。
今回は以上となります。何かのお役に立てば幸いです。