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扁桃腺ってどこにあるの?
扁桃腺は、のどの奥、両側にある梅干しのような臓器です。普通に口を開けた状態では舌が邪魔して良く見えませんので、我々小児科医はアイスの棒みたいな道具=舌圧子(ぜつあつし、と言います)を使って舌を押し下げて観察します。
舌圧子を喉の奥まで入れると嘔吐反射(=『オエっ』と吐きそうになってしまうあれです)が起こるため、子どもから大人まで医者が嫌われる理由の一つになっています。
扁桃腺がある意味って?
この扁桃腺という臓器は、2つの意味を持っています。
1.細菌・ウイルスから体を守る『良い役割』
2.感染症のもとになったり、大きくなって閉塞症状を起こす『悪い役割』
1.細菌・ウイルスから体を守る『良い役割』
扁桃腺は、のどの奥に位置しており、外から入ってくる細菌・ウイルスに対しては門番のような役割をしています。細菌・ウイルスによる感染を防御する粘膜免疫としての機能を持っているとされています。
2.感染症のもとになったり、大きくなって閉塞症状を起こす『悪い役割』
扁桃腺が腫れる、急性扁桃腺炎という病気は、高熱、頸部リンパ節の腫脹が起こる感染症です。扁桃腺炎は、このような感染症を起こす『場所』になってしまうのです。
また、扁桃腺は成長に伴い6-7歳をpeakに大きくなります。大きくなりすぎると、呼吸をするときに邪魔になり、お子さんでも睡眠時無呼吸を起こす原因になる可能性があります。
扁桃腺炎はどんな原因でおこるの?
色々な細菌・ウイルスが原因になりますが、多くはウイルス感染です。有名なものは『アデノウイルス』ですね。そのほかにも、インフルエンザウイルス、EBウイルスも原因となります。細菌では『溶連菌』が主ですが、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジアなどの病原体も原因になることがあります。
扁桃炎の原因の病原体を調べた論文を見つけてきました。
滲出物を伴う扁桃炎を呈した110人の小児の起炎菌に関して調べたデータでは、
- ウイルス性 42%(アデノウイルス 19%⇒ウイルス性の45%を占める)
- GAS 12%
- マイコプラズマ 5%
- 原因不明 35%
Putto A et.al pediatrics 80:6-12, 1987
ちょっと古いので、参考程度だと思いますが、アデノウイルスが多いようです。またこの論文では
・3歳未満はウイルス性が多い
・6歳以上は溶連菌が多い
原因の病原体を決めるのに採血検査はそれほどあてにならなかった。と論じていました。
また、とても大事な事なので書かせて頂きますが、多くはウイルス感染なので、抗菌薬の投与は不要です。
唯一、溶連菌が検出された場合には抗生剤を内服して加療したほうがよいです。
溶連菌は合併症としてリウマチ熱や急性腎炎を起こすことがあるので、予防のためにも治療は最後まで行うべきだと思います。
扁桃腺炎はどんな状態の時に起こりやすいの?
前に書いたように、扁桃腺は感染からの防御機能を持つとともに、感染の温床になるという二面性を持ちます。普段は扁桃腺炎を起こさないようにバランスをとっているのですが、なんらかの要因によってバランスが崩れると感染を起こし扁桃腺炎に至ります。
免疫能を左右する因子として、免疫臓器としての未熟性、過労・ストレスなどの非特異的因子、喫煙、大気汚染、アルコールなどの刺激、アレルギーなどが考えられています。
扁桃腺炎を何度も起こす、習慣性扁桃炎の患者さんの免疫能を調べた論文を紹介します。
習慣性扁桃炎患者の血中免疫グロブリン量や細胞性免疫には異常は認めないが、
扁桃の機能低下や細菌に対する全身的な免疫反応発達遅滞が関与している
原淵ら 口腔・咽頭科9:223-228, 1997
年4回以上起こしている扁桃では、それ以下の扁桃に比べて、免疫機能が落ちている
扁桃において免疫能の低下を示している副刺激因子を介した第2シグナルが低下している。
後藤ら 和歌山医学52:346-352, 2001
難しく書いてありますが、要は急性扁桃腺炎を繰り返すお子さんの場合、大きな免疫異常はないにしても、扁桃腺そのものの免疫機能が低下していると考えられています。
どんな時に困るの?
扁桃炎は3歳から多くなり、5-6歳がpeakです。集団保育や、兄弟間でうつしあったりするのが繰り返す要因です。
家族内で広がると大人も仕事を休まなければいけない
扁桃炎で扁桃腺が腫れると、寝ている時に呼吸が苦しくなることがある
と言ったことが『困ること』として挙げられます。
普通の風邪でも全く同じ状況が起こるので当たり前と感じる方も多いでしょうが、もし何度も急性扁桃炎を起こすとしたらどうでしょうか。
かかった本人ももちろん高熱がでてつらいですが、周りの大人も看病などとても大変です。学校を何日も繰り返して休むことになってしまうと、学業への心配も出てきます。
単発で急性扁桃炎を起こす場合には、普通の風邪と変わりない困り感でよいのですが、何度も繰り返す場合は社会的にも非常に困ることになります。
まとめ
・扁桃腺は、免疫の臓器であり、かつ感染臓器でもある。二面性があります。
・扁桃腺炎の原因はたくさんありますが、多くはウイルス性です。溶連菌以外には抗生剤は必要ありません。
・時に扁桃腺炎を繰り返すお子さんがおり、色々困る点があります。