こんな症状、あなたならどうする?

妊娠中にビタミンDを飲むと、赤ちゃんの死亡リスクが下がり大きく生まれるかもしれない

こんにちは、Dr.アシュアです。

皆さんは、ビタミンDについてご存知でしょうか。ビタミンD製剤は、ビタミンD欠乏性くる病を代表とするビタミンD、カルシウム関連の疾患で治療薬としてよく使用されている薬剤です。そして最近では、天然型ビタミンDのサプリメントなども登場しています。

学会などではサプリメントを使用して患者さんを治療した発表がされていますし、成人領域でもビタミンD不足が色々な疾患の発症に関与しているなど良く目にします。最近注目を浴びている栄養素の一つと言えましょう。

今回は、妊婦さんにビタミンDを投与することが、生まれてくるお子さんにどのような影響を与えるのか、という質問に対する答えを探すべく行われたレビューを読んだので共有しようと思います。

主役に登場して頂きましょう。

JAMA Pediatr. 2018 Jul 1;172(7):635-645. PMID: 29813153

Association Between Vitamin D Supplementation During Pregnancy and Offspring Growth, Morbidity, and Mortality: A Systematic Review and Meta-analysis.

Bi WG, et al.

 

では見ていきましょう。

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背景と目的-Background and Objective

妊娠中のビタミンD補給が、生まれてくる子どもにとって有益なのか、安全なのかは、現在はっきりしたことは分かっていません。

筆者らは、こういった背景から『妊娠中のビタミンD補給が、生まれてくる子どもの成長・死亡率にどういった影響を及ぼすのかを調べる』という目的をたて、関連する研究を多数集め、系統的レビューを行うことを計画しました。

 

方法-Method

データベース

2017年10月31日までMedline、Embase、およびCochrane Database of Systematic Reviewsの検索が実施されました。

RCTをもれなく検索するため、該当した文献の参考文献まで手動で検索されています。

主要な検索用語は、ビタミンD、妊娠、無作為化比較試験、および子孫のアウトカムでした。

 

適格基準

下記の研究が今回のレビューに適格な論文とされました。

適格基準はこれ!

・研究デザインが、ランダム化比較試験(RCT)である

・対象が、事前にビタミンD補給をしていない、健康な妊婦である(400 IU/d未満のビタミンDの補充は許可)

・治療群で、ビタミンD投与プロトコールが設定されている

・アウトカムが、出産した子どもの成長、罹患率、および死亡率である

・効果の大きさ(信頼区間)を計算するためのデータがそろっている

・RCTの方法論的品質評価基準を満たしているもの

RCTのみを対象としていることは、レビューの信頼性を高めると思いました。

 

ちなみにこれらの条件で研究を除外しました。

除外基準はこれ!

(1)レビュー、観察研究、症例報告、レター、またはコメントであった場合

(2)適切な対照群がない場合

(3)介入群のビタミンD投与量は400 IU /日以下だった場合

(4)データが不完全または矛盾していた場合

728件の可能性がある研究が検出されましたが、様々な除外を経て最終的に24件の研究が適格基準を満たしました。

 

評価項目

『SGA、胎児・乳児の死亡率』を主要評価項目としました。

SGAというのは、ちょっと難しいですが、『週数に比して身長・体重が小さく出生した子ども』のことを指します。

例えば37週0日に生まれた赤ちゃんを100人集めてくると、小さい赤ちゃんから大きい赤ちゃんからいますよね。その中で、正常範囲を逸脱して目立って小さいお子さんのことをSGA児と言います。細かい定義はありますが、複雑になるので今回は割愛します。

ご興味のある方は以前ブログにも書いていますので参照ください。

CHECK
SGA性低身長のお子さんをもつお母さんとの会話から思う『低身長』

  『学校の保護者会とかで、この子の体が小さいから、私の栄養の管理がしっかり出来ていないんじゃないかとか、他のお母さんたちに言われたんですよね…』 こんにちわ!アシュアです。 最近の外来で、 ...

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『新生児25-ヒドロキシビタミンD(25 [OH] D)レベル、先天性奇形、新生児集中治療室(NICU)への入院』などなど14項目が副次評価項目とされました。

新生児25-ヒドロキシビタミンD(25 [OH] D)レベルは、ビタミンDの充足状態を評価する血液検査マーカーです。

 

データ収集と分析

2人の著者が独立してデータを抽出し、コクランリスク評価ツールを使用して、研究の質を評価しました。

リスク比(RR)、リスク差(RD)または平均差(MD)、および95%CIは、固定効果またはランダム効果のメタ分析を使用して計算されました。

 

結果-Results

前述のように、24件のRCTが選択基準を満たしましたが、それらには5405人の参加者を含んでいました

目的に応じて、24個のRCTを組み合わせながら結果を導き出していました。

 

結果を以下に示します。

結果①

妊娠中のビタミンD補給は、胎児・新生児の死亡率のリスク上昇を起こさず、SGAのリスク低下と関連していた。

SGA出生のRR 0.72; 95%CI: 0.52~0.99, I2=0%

       RD -5.60%; 95%CI: -0.86~-10.34

胎児・新生児の死亡のRR 0.72; 95%CI: 0.47〜1.11, I2=0%

先天異常のRR 0.94; 95%CI: 0.61〜1.43

SGA出生の結果は、898人の患者さんを含んだ6件のRCTから算出されました。I2も低く、研究のばらつきは小さいのかなと思いました。

繰り返しになりますが、SGAは”週数に比して目立って小さく出生した赤ちゃん”のことを指します。

また論文のおまけの表には書いてありましたが、ビタミンD補給のタイミング(在胎20週未満or在胎20週以上)、および方法(定期的またはボーラス投与)はSGAのリスクと関連がないという結果でした。

大事なことは、ビタミンDの内服と胎児・新生児の死亡率とが関連していなかったということですね。こちらの結果は、3780人の患者さんを含んだ10件のRCTから算出されていました。こちらもI2が低く、選ばれた研究のばらつきは小さいのかなと思いました。

またビタミンDの内服と先天異常のリスクとも関連はなかったようです。安全性は大事ですね。

 

結果②

出生前ビタミンD補給の新生児では25(OH)Dレベルがより高く、カルシウムのレベル、出生時体重および出生後の体重が高かった。

25(OH)DのMD 13.50 ng/mL; 95%CI: 10.12~16.87 ng/mL

カルシウムレベルのMD 0.19 mg/dL; 95%CI: 0.003〜0.38 mg/dL

出生時体重のMD 75.38 g; 95%CI: 22.88~127.88 g

3か月での体重のMD 0.21 kg; 95%CI: 0.13~0.28 kg

6か月での体重のMD 0.46 kg; 95%CI: 0.33〜0.58 kg

9か月での体重のMD 0.50 kg; 95%CI: 0.01〜0.99 kg

12か月での体重のMD 0.32 kg; 95%CI: 0.12〜0.52 kg

身長と頭囲についての検討も書かれていましたが、頭囲については特に明確な持続する有意差はなかったようでした。

身長については、3か月、9か月、12か月において有意に大きくなったとの結果でした。

 

結果③

用量によるサブグループ分析により、低用量のビタミンD補給(≤2000 IU/d)は胎児または新生児の死亡リスクの低下と関連していたが、より高い用量(>2000 IU/d)では、胎児・新生児の死亡リスクの減少は認められなかった。

低用量のビタミンD補充(<2000IU/d)

 →胎児・新生児の死亡リスクRR 0.35; 95%CI: 0.15〜0.80

高容量のビタミンD補充(>2000IU/d)

 →胎児・新生児の死亡リスクRR 0.95; 95%CI: 0.59〜1.54

結果①での胎児・新生児の死亡リスクを検討した所でのサブグループ解析になるため、同じく3780人の患者さんを含んだ10件のRCTから算出されたものになります。こちらもI2が低く、選ばれた研究のばらつきは小さいのかなと思いました。

 

結論-Conclusions

結論を以下に示します。

ポイント

妊娠中のビタミンD補給は、胎児または新生児の死亡または先天異常のリスクに影響を及ぼさずに、SGAのリスクの低下と乳児の成長の改善と関連していました。

妊娠中に2000 IU / d以下の用量でビタミンDを補給すると、胎児・新生児の死亡リスクが低下する可能性があります。

また、研究の限界として観察期間が短いこと、成長関連(体重、身長、頭囲)に関するデータがあったRCTが2件のみであったこと、などが挙げられていました。成長関係のデータの解釈に関しては、慎重に判断したほうが良さそうですね。成長関連の結果は、論文中の結論にも載せられていませんでした。ここはむしろ信頼性が上がる印象です。

 

なにが分かったか

繰り返しになりますが、

筆者らは『妊娠中のビタミンD補給が、生まれてくる子どもの成長・死亡率にどういった影響を及ぼすのかを調べる』という目的をたて、関連する研究を多数集め、系統的レビューを行いました。

その結果、

結局何が分かった?

お母さんが妊娠中にビタミンDを内服すると、子どもが小さく出生することを防いでくれる可能性がある。

2000 IU / d以下の用量でビタミンDを補給すると、赤ちゃんが妊娠中や出生早期に死んでしまうリスクを下げる可能性がある。

ということが分かりました。

さらに、今回の研究のデータから、Number needed to treat(NNT)も算出されていまして、

『18人の妊婦さんを今回の研究の量のビタミンD製剤で治療すると、1人のSGA児の出生を予防できる』

とされていました。

NNTが出されていると、実際の臨床上でもどれだけ費用対効果がありそうかの目安になるため、非常に有用ですね。

 

今回は以上となります、何かの役に立てば幸いです。

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