『お母さん、お子さんの病気を診断するためには、〇〇という検査が必要です』
『検査のために、睡眠薬を使う必要がありますから、これから同意書を説明しますね・・・』
今サイトをご覧になっているご両親の方にも、こんなやり取りを小児科医としたことがある人がいらっしゃるかもしれません。まず大前提として、小児でも年齢が大きく、検査の内容が理解でき、自分で検査に協力できるようなお子さんでは下記の検査でも睡眠薬を使うことはありません。しかし、年齢が小さかったり、年長児でも発達の問題で検査への協力が難しかったりする場合には、睡眠薬を使用して検査を行うことは稀ではありません。こどもに睡眠薬を使うなんて…と思われるかもしれませんが、むしろ小児科医としては『ある検査が必要だ!』と考えた時に、睡眠薬を使用すべきか否かを判断するスキル、睡眠薬を使用する場合は検査を終了まで安全に導けるスキルは、今や大事な能力の一つと言えると思います。今回は、睡眠薬を使用することがある検査について簡単に説明していきたいと思います。
睡眠薬を用いる検査は以下の2タイプが主になります。
- 体を動かすことが検査結果に強く影響するもの
- 睡眠の前後を評価するもの
1.体を動かすことが検査結果に強く影響するもの
これは、MRIや超音波が代表的な検査です。MRIは痛みのない検査ですがお子さんが怖がる要素が一杯の検査です。理由は検査の特徴にあります
・ドーナツ型の大きな機械の穴の部分に寝たまま入る必要があり、閉塞感がある
・お父さんお母さんと一緒に検査室には入れるが、密着したまま検査はできない
・なるべく動かないで20-30分(撮影の条件によってはさらに長時間)寝ている必要がある
・金属と金属をぶつけるような音がずっと響いている(大人でもかなりうるさく感じます)
このような特徴があるため、年少のお子さんはかなり深く眠っていないとMRI検査は失敗します。飲み薬の睡眠薬だけでは検査が難しいことも多く、多くの病院では点滴での睡眠薬を併用して検査を行っています。
超音波検査は、プローベと言われる太いしゃもじのような形状のものを体に当てて超音波を流す検査です。超音波が体内の臓器に反射する程度をプローベで感知し、画像を作成し、体内の輪切り写真を画面に出す検査です。MRIと同様に体を動かすことが検査の結果に影響を与えますが、通常は睡眠薬は使いません。その理由は超音波検査の特徴にあります。
・痛みは伴わず大きな音もしない検査
・お父さんお母さんと密着していても検査は可能
・医者がその場で超音波の動画・静止画を撮影することが可能であり、その場で医者が検査の質を評価できる(MRIは検査が全部終わって画像が完成しないと検査が上手にできたか、できなかったか判別できません)
ある程度お子さんが動いてしまっても、その場であやしたり、おもちゃで気を引いたりしてお子さんが短時間でも止まっていてくれれば、その間にさっと動画・静止画を撮影することができます。時間はかかれど、睡眠薬を使わなくても大抵は十分な精度で検査が可能です。
ただし、大騒ぎで全くじっとできない場合や、お腹の中のちいさな病変をじっくり探したい時などは、必要に応じて睡眠薬を使うことがあります。
2.睡眠の前後を評価するもの
脳波が代表的な検査です。もちろん自然な睡眠の際に脳波が検査できればいうことはないのですが、頭にたくさん電極を張り付けた状態(クリームを使って頭に張り付けるので痛みはありません)で一晩過ごすというのは現実的ではありませんので、日中に睡眠薬の力を使って眠ったところを検査することが一般的です(※一晩脳波検査を行う終夜脳波検査というものもあります)。
次回は、検査の際に使用する睡眠薬の注意点や、上手く検査を成功させるためのコツなどを書いていきます。