前回、小児の検査のために睡眠薬を使うことがあることをご説明しました。
この項では、実際に検査に用いる一般的なお薬とその特徴などを示していきたいと思います。
小児の検査に用いる一般的なお薬としては、
・トリクロリールシロップ(内服)
・エスクレ座薬(座薬)
・ドルミカム(静脈投与)
・そのほか
上記の3つが一般的だと思われます。そのほか、病院によってはラボナール、プロポフォールといった薬剤を用いるところもあると思われます。それぞれ見ていきましょう。
トリクロリールシロップ
体内で代謝される(薬剤が肝臓などで酵素の働きで形が変わることです)ことで、トリクロロエタノールというアルコールに似た物質に変化し薬効を示します。甘いドロドロとしたオレンジ色の水薬で、後味が特徴的です。苦手なお子さんは飲めないことあります。。
特徴として体重が増えると飲む量がぐっと増えるので、20kg近いお子さんの場合はかなり量が多くなり飲みにくいです。
エスクレ座薬
成分としてはトリクロールシロップと同様ですが、肛門から入れる涙型のカプセルの中に薬液が入っています。座薬として投与して肛門で溶けて薬剤が体内に吸収されます。カプセルがゼラチンで出来ているので、ゼラチンアレルギーがあるお子さんには禁忌(使ってはいけないということ)になります。
飲まなくてもいいので、トリクロールシロップが飲めないときに使用されることがあります。
ドルミカム
点滴で静脈投与する睡眠薬です。そもそも抗けいれん薬として広く使用されている薬剤です。抗けいれん薬は、その作用から眠気がでたりするものが多く、ドルミカムは比較的体に入れても短時間で効果が切れる(半減期が短いと表現します)薬剤であるため、検査に使用されることが多いです。
前述のお薬よりも深く眠ることが多く、呼吸抑制(=呼吸が弱くなること)が副作用として起こり得るため、通常酸素のモニターをつけて、酸素投与ができるような状況下で使われます。使用するときは医師が付き添って行うことが基本と考えます。
その他のお薬
・ラボナール
ドルミカムと同様に昔からある抗けいれん薬ですが、ドルミカムよりも抗けいれん作用がかなり強く、つまり眠らせる力もかなり強い薬です。さらにドルミカムよりも切れ味が断然よく、スパッと眠り、薬が切れればスパッと起きてくれます。
ただし作用が強いということは、副作用もこわい薬剤です。呼吸抑制だけではなく、血圧の低下も起こる薬剤ですので、入念な準備を行い使用する薬剤です。そして血管からもれる(よく病院ではこの表現をしますが、皮膚の下で血管の外に薬液がもれることです)と、強アルカリ性の成分のため皮膚が強く障害されるので、要注意の薬剤です。
酸素のモニターだけではなく、心電図モニターもつけた上で、かならず医師が付き添います。
お子さんにもともとADHDなどの発達の問題があったりする場合、前述の薬剤ではなかなか眠ってくれないことがあります。そのようなとき、ラボナールの危険性と検査の必要性を天秤にかけて、検査の必要性がより高いと判断したとき、ラボナールが選択されることが多いです。
安全に使えばかなり有効な薬剤ですが、使用には準備と経験が必要です。
・プロポフォール
この薬剤については、手術の時に麻酔のはじめに投与することが多く、成人領域では多く使われており有名ですが、逆に小児領域では東京女子医科大学ICUにてプロポフォールの過量投与により小児患者さんが複数名亡くなった事件から、現在はほぼ小児領域では使用されていないと考えられます。一時かなり有名になった薬剤です。
病院によっては過量投与事件を契機に使用しなくなったという話も聞きますが、さきの事件からの教訓である、血中濃度のモニタリングを行う、短時間の使用に限定すれば、ラボナールと同様に切れ味のよく有効性の高い薬剤と言えます。
特にMRIなどの短時間の使用であれば血中濃度をモニタリングする必要性もなくなるため、現時点でも多数の病院で慎重に使用されています。
これ以外にも検査の鎮静に使用される薬剤はまだありますが、今回は代表的なものを記載してみました。次回は、お子さんが鎮静を必要とする検査を前にして、ご家族が注意しておきたいことを書いていきたいと思います。