こんにちは、Dr.アシュアです。
低身長で来院されるお子さんを診療している小児科医としては、“思春期のタイミング”はとても重要です。
なぜなら、大人になった時の身長を決める上で、「思春期の成長のスパートがくる時に身長が何cmに至っているか」が、とても重要な因子だからです。
大人になった時の身長を決める因子については以前にブログで書いたことがありますので、ご興味のある方はどうぞご覧ください。
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思春期のタイミングが遅い子は、思春期の成長のスパートが来るときに身長が高めのことが多いので、成人身長は高くなりやすいです。
思春期のタイミングが早い子は、思春期の成長のスパートが来るときに身長が低めのことが多いので、成人身長は低くなりやすいのです。
そんなわけで、“思春期のタイミング”は、一部の小児科医にとっては興味のある話題です。
今回は、『早産で生まれたお子さんが、思春期のタイミングが早いのか?』という臨床的疑問に対するシステマティックレビューをご紹介します。
まずは、主役に登場してもらいましょう。
BMC Pediatr. 2018 Jan 8;18(1):3. PMID: 29310614
Preterm birth and the timing of puberty: a systematic review.
James E, et al.
早産で生まれたお子さんは生まれつき身長・体重が小さいお子さんも多いため、身長に関して心配を持たれる親御さんも多い印象があります。
そんな中、早産で出生したことが思春期のタイミングにまで影響するとしたら…。さらに親御さんの不安は大きくなるのではないでしょうか。
それでは見ていきましょう。
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背景と目的-Background and Objective
全出生のうち、推定11%が早産であり、早産児の生存率は向上しています。
以前の研究では、早産で出生すると思春期のタイミングが早くなる可能性があると報告されていました。思春期が早くなることに関連する有害な効果を考えると、公衆衛生に重大な影響を及ぼす可能性があります。
こんな背景の中、著者らは『早産児の思春期のタイミングを評価すること』を目的として今回のシステマティックレビューを行いました。
方法-Method
検索方法
Pubmed、Embase、Popline、Global HealthおよびGlobal Health Libraryというデータベースに対して、
「早産」、「初潮」、「思春期」、および「追跡調査」に関連する用語を使用して検索が行われました。
包含基準
研究の包含基準は以下の通りでした。
研究の包含基準はこれ!
・対象者が思春期または思春期後の青年および成人からなる集団であること
・参加者の早産が定義され測定されていること
・早産出生の群と、正期産かそれ以降の出生の群との比較研究であること
・思春期発症の定量的評価がされていること
バイアスのリスクの評価は、批判的評価研究プロセスの原則を用いて行われていました。
結果-Results
データベースの検索により、1051件の研究が見いだされ、そのうち16件が包含基準を満たしていました。
女性での結果を示します。
女性での早産児であることと思春期の関連
・8件の研究で早産と初潮のタイミングの間に関連性は見られなかった
・出生時体重に応じて、5件の研究が早産児が初潮が早くなると報告し、1件の研究が初潮が遅くなると報告し、1件の研究が初潮は遅くも早くもなると報告した
初潮が早くなると報告した研究の効果の範囲は、早産児群で -0.94〜-0.07 歳、中央値は -0.3 歳でした。
男性での結果を示します。
男性での早産児であることと思春期の関連
・2件の研究が早産群で思春期が早くなると示した
・5件の研究では早産群と対照群の差が示されなかった
・1件の研究が早産群で思春期が遅れると示した
ほとんどの研究では、結果を平均値(標準偏差)という形で提示していなかったため、メタアナリシスは不可能でした。
潜在的な交絡因子に対処するためのデータが不十分でした。
結論-Conclusions
公表されている論文を集めてみると、早産であることが思春期の発症を著しく加速させることを示すものではありませんでした。
これは公衆衛生上の目的、および早産児の両親の相談を受ける臨床医において、安心できる結果だったと言えるでしょう。
なにが分かったか
以前は、早産で出生すると思春期は早く来るだろうと言われていましたが、今回のレビューは、早産で出生しても思春期が著しく早くなることはない、という結論となりました。
一般的に、思春期のスタートについては、しっかりした定義を使って明確にそれを把握するということが難しいです。ですからこういった研究の方法論が、研究によって色々ばらついてしまうのはやむを得ず、研究結果の示し方も研究によってまちまちでした。
そういった理由から、今回は研究結果を1つに統合するメタアナリシスはできませんでした。
言い換えれば、著者らは、早産で生まれたとき、思春期の開始だったり、初潮の発来の時期が”どれくらい変わるか”という”効果の大きさ”を、論文を統合することで示したかったのですが、それが難しかったということです。
思春期に関わる用語の国際的な定義が統一され、思春期の開始や初潮の発来の時期の把握がより明確で簡単になると、研究は一気に進み、たくさんの研究結果が蓄積することで、真実に近い事実が判明することでしょう。期待したいところです。
今回は以上となります。何かの助けになれば幸いです。