こんにちは、Dr.アシュアです。最近Twitterでこんなつぶやきをしました。
【熱性けいれん時における解熱剤の投与】
いまだに、熱性けいれんを起こしたお子さんに対して、熱が上下する時に再度痙攣するため解熱剤を投与しないよう指導されていることがある。現在のガイドラインでは明確に記載がある。
『解熱剤使用後の熱の再上昇による熱性けいれん再発のエビデンスはない』— Dr.アシュア (@reassure2001) 2018年11月3日
”熱性けいれん”そのものは、怖い合併症は起こさない病気ですが、やはり目の前でけいれんされてしまうと、親御さんたちは本当にびっくりしますし、救急車を呼んでしまうと思います。
実際病院で勤務していると、子どもがけいれんしている所に出くわすことはありますが、医者でもけいれんしている所をみるのは怖いものです。
今回は、この熱性けいれんに関して発表された論文を紹介したいと思います。Pediatricsという小児科では世界的にも有名な雑誌に、日本の大阪のある市民病院でのランダム化比較試験の結果が掲載されていました!もちろん著者らは日本人です。本当に誇らしいですし、素晴らしいですね!
自分もいつかこんな研究ができたらいいなぁ(もしくは協力施設としてでもいいので)、とうらやましくなります。
それでは主役に登場して頂きましょう。
Pediatrics. 2018 Oct 8. PMID: 30297499
Acetaminophen and Febrile Seizure Recurrences During the Same Fever Episode.
Murata S, et al.
今回の研究のテーマは、熱性けいれんを1回起こした後に、解熱剤をしっかり投与したら、同じ熱の間の2回目の熱性けいれんを防げるか?というものです。面白い結果が出ていますので、見ていきましょう。
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目次
目的-Objecitve
熱性けいれんを来たした小児の家族に対して「解熱剤の使用は再度けいれんしてしまうリスクを高める」とされてきましたが、明らかなエビデンスは少ない。一方で熱に対してアセトアミノフェンを投与することで子供の症状が軽減されるという意見もある。
ツイートでも書いたように、日本小児神経学会が発行する『熱性けいれん診療ガイドライン2015』にも明確に、「解熱剤使用後の熱の再上昇による熱性けいれん再発のエビデンスはない」と記載があります。ソースはこちらを参照ください。
そういった背景から、今回著者らは以下の様な目的を立てました。
これが目的
熱性けいれんに対してアセトアミノフェンを投与することで、同じ発熱エピソード中にけいれんの再発を予防する効果があるかどうか
そしてそれを検証するために、ランダム化比較試験を計画しました。
方法-Methods
2015年5月1日~2017年4月30日の間に、大阪府の枚方市民病院の救急外来に受診した熱性けいれんを起こした小児が対象とされました。
この研究は、枚方市民病院の倫理委員会に承認されており、全ての親は研究参加に関して、書面でインフォームド・コンセントをとられている。
研究は、倫理委員会の承認を受けており、介入研究であることから”書面”で親の了解を取る形をとり、臨床研究における倫理指針をしっかり守っている形です。
そして、下記のように介入群、対照群に対象者をランダムに割り付けしています。割り当て順序は、著者のうち2人が乱数表を用いて決めています。
介入群・対照群の定義
介入群:熱性けいれん後24時間の間、6時間ごとに体温を計測し38.0℃以上あるときに、10mg/kgのアセトアミノフェン座薬を繰り返し投与した
対照群:熱性けいれん後、解熱剤を全く投与しなかった群
介入群に割り振られたらすぐに救急外来の担当の小児科医によって、アセトアミノフェン座薬が投与されました。
また、患者さんの参入基準・除外基準についても細かく示されています。ここは、研究結果がどんな患者さんに適応できそうか判断するためにも、大事な部分ですね。
どんな患者が対象になった?=参入基準
・2015年5月1日から2017年4月30日の間に、大阪府の枚方市民病院の救急外来に受診した熱性けいれんを起こした小児
・熱性けいれんの定義を満たすもの
※熱性けいれんの診断基準は、日本小児神経学会の基準に基づいて「6か月-5歳の乳児or小児に生じる中枢神経系感染のない発熱(体温≧38.9℃)を伴うけいれん発作」と定義された。
参入基準については特に補足は必要ないでしょう。
どんな患者が除外された?=除外基準
・すでに現在の発熱エピソード中に2回以上けいれんしている場合
・15分以上持続するけいれん発作の場合
・てんかん、染色体異常、先天性代謝異常、脳腫瘍、頭蓋内出血、水頭症をもつ患者、または頭蓋内手術をしたことがある患者
・けいれん予防のためにジアゼパム座薬(ダイアップ®)を使用した患者
・抗ヒスタミン薬を使用していた患者
・下痢がある患者
除外基準については少し補足が必要だと思います。除外基準については、”純粋な熱性けいれん”の患者のみを対象にしたかった著者らの意図を感じました。
まず、すでに2回けいれんしていたり、15分以上持続するけいれんの場合は、単純な熱性けいれんではなく、複雑型熱性けいれんと言われる類に分類されてしまうので、これらの患者さんを除外しています。
また、もともとけいれんを起こしやすい病気を持つ人は、熱が出た時にけいれんするリスクが高く、その場合は発熱時のけいれんだとしても必ず”熱性けいれん”と診断されるわけではありません。そのため複数の病気を指定して、それを持っている患者さんを除外しています。
さらに、けいれんのしやすさに影響する薬剤を使用している患者さんも除外しています。ジアゼパム座薬はけいれんを予防するお薬ですし、抗ヒスタミン薬(鼻水止めのお薬です)はけいれんの閾値を下げます(けいれんしやすくなるという意味です)。
最後に、下痢がある患者は、2つの理由で対象患者から除外されています。1つ目は、下痢中には座薬が投与しにくいこと、そして2つ目は「ウイルス性胃腸炎に伴う無熱性けいれん」という概念があり、下痢中にけいれんを起こした場合に熱性けいれんだけを見ていると断言しにくい(ウイルス性胃腸炎に伴うけいれんの要素がないとは言いにくいと言い換えてみてもいいでしょう)ということです。
主要評価項目-Main Outcomes
主要評価項目は、同様の熱エピソード中の熱性けいれんの再発としていて、その「再発」をもれなく把握するために、両親にいくつか指示が出ていました。
両親に出ていた指示
・もう一度けいれんしてしまった場合は、親は枚方市民病院へ戻ってくるよう指示
・熱が下がるまで何回解熱剤が使用したかを記録し、解熱後にハガキを郵送するよう指示
⇒ハガキが到着しなかった家庭へは、後日著者らが電話して情報を集め、どれくらい介入群のプロトコールが遵守されていたかの情報を補完するようにしたとのことです。
また、けいれんを起こして外来を受診した際に、ベースとなる様々な患者特性(年齢、性別、過去の熱性けいれんの病歴などなど)と採血検査が行われています。採血はアセトアミノフェン座薬の投与前に行われています。
統計解析-Statistical Analysis
色々な患者特性・採血データを用いて、まずは介入群・対照群で二変量ロジスティック回帰分析を行い、“熱性けいれんの再発”と有意差が確認できた変数を出します。その後、有意差が出た変数全てを用いて多変量ロジスティック回帰分析を行いました。
著者らは、5つの変数を用いて多変量ロジスティック回帰分析を行う場合には、400例のデータが必要だと試算しており、結果的には対照群が204例で多変量ロジスティック回帰分析では、4つの変数を入れて解析していました。
一般的には二群どちらか少ない方の10分の1個の変数が調整可能と考えることが多いので、ここは少し調整した変数が多すぎるのかな?という印象を持ちました。
結果-Results
794人から諸々の事情で除外され、最終的に研究に参入できた小児は423人でした。
ジアゼパム座薬や抗ヒスタミン薬を使っていたため除外されたケースが多かったようです。
219人は介入群(解熱剤使用群)に属し、204人は対照群(解熱剤なし群)でした。
6-21か月、22か月-60か月(5歳)、全患者で、層別化して患者特性or検査データを見てみたところ、特に有意差はなかったようです。
全例見てみると、同じ発熱エピソードでの熱性けいれん再発率は16.0%(68例/423例)でした。これは、全国的にみた熱性けいれんの再発率としてはあまり違和感のない値と言えます。
全ての患者を含めた場合、熱性けいれん再発率は解熱剤使用群 9.1%、解熱剤なし群 23.5%でP < 0.001と、解熱剤使用群が有意に低いという結果でした。
アセトアミノフェンに関連する深刻な合併症、例えば低血圧症、低体温症またはアナフィラキシーは起こりませんでした。熱性けいれん再発を経験した患者のいずれも神経学的後遺症を残しませんでした。
二変量解析で、熱性けいれん再発と、アセトアミノフェン座薬の使用、年齢、発作の持続時間との間に有意な関係があることが確認されました。熱性けいれん再発群において、月齢がより若く、発作の持続時間はより短かかった。
多変量ロジスティック回帰分析では、二変量解析の結果を受けて、直腸アセトアミノフェン使用、年齢、発作の持続時間、および直腸アセトアミノフェンの使用および年齢の4変数を用いて、多変量ロジスティック回帰分析を行っています。
変数の中で、直腸アセトアミノフェン使用は、同じ発熱エピソード中の熱性けいれん再発予防への最大貢献者でした。
オッズ比:5.6; 95%信頼区間(2.3-13.3)
討論-Discussion
以前の”同じ”テーマの研究との比較
Schnaidermanらの研究では、アセトアミノフェン座薬の予防投与は、熱性けいれん再発の予防にはならないと結論づけられた。
介入群(4時間間隔でアセトアミノフェンを使用する; n=53)
熱性けいれん再発率=7.5%
対照群(37.9℃を超える場合に適当にアセトアミノフェンを使用する; n=104)
熱性けいれん再発率=7.8%
Eur J Pediatr. 1993;152(9):747–749
Schnaidermanらの研究と、本研究との違いは、対照群の違いです。Schnaidermanらの研究では対照群で散発的にアセトアミノフェンを使用していたため、アセトアミノフェンのけいれん予防効果が過小評価されていたのではないか、と著者らは指摘していました。
以前の”似た”テーマの研究との比較
違う熱のエピソードにおいて解熱剤の予防投与が熱性けいれんを予防するかどうかを調べたランダム化比較試験があります。
Uhariら、Strengellらが別々にランダム化比較試験を行い、その結果をRosenbloomらがメタアナリシスで統合しているが、アセトアミノフェンは、別の発熱時に熱性けいれん再発を予防するのには効果がないと結論している。
Eur J Paediatr Neurol.2013;17(6):585–588
本研究の結果を拡大解釈しないようにする必要があると、著者らも指摘していました。
研究の限界
著者らは以下の点について研究の限界点と書いていました。
・熱のモニタリングが不十分だったので、アセトアミノフェン座薬の解熱効果についての評価が出来なかった
・ジアゼパム座薬使用者は除外されていたので、ジアゼパム座薬+アセトアミノフェン座薬の効果は検証できなかった
・原因病原体と発熱の原因は、今回の研究では考慮されていなかった。熱性けいれんの再発率はこれらの要素に影響を受けるので理想的には、これらの要素を含めた研究が好ましい
結論-Conclusions
論文から結論を引用します。
アセトアミノフェンは、熱性けいれんに対する安全な解熱薬であり、同じ発熱のエピソード中に熱性けいれんの再発を予防する可能性がある。
それで何がわかったか
現状では、別の熱性けいれん1発目を予防するのにアセトアミノフェン座薬の予防投与は効果がないということは前提として理解しておいた上で、
今回の研究をうけて、1回熱性けいれんが起こった場合、同じ熱エピソード内であればアセトアミノフェン座薬の予防投与は、2回目のけいれんを予防する効果があるかもしれない、と理解すべきです。
安全性の面を考えてもアセトアミノフェン投与を控えるというのは間違った判断なのだと感じました。
著者らも書いていましたが、このリサーチクエッションではこれが初めてのランダム化比較試験なのだそうです(それが日本発というのは本当にすごいですね!)。今後のランダム化比較試験や、それを受けたシステマティックレビューの結果を待つべき、とは思いますが、もしかすると今後の日本の熱性けいれん診療ガイドラインにも一石を投じる論文なのでは、、と感じました。
今回は以上となります。何かの参考になれば幸いです。