こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は僕の専門領域の病気”思春期早発症”についての論文をご紹介したいと思います。
この”思春期早発症”という病気、字の通り基準よりかなり早く思春期が来てしまう状態のお子さんのことを指します。今回は細かい思春期早発症の定義は置いておいて、思春期早発症のお子さんが来院した時の検査、頭部MRIについてお話したいと思います。
思春期早発症は、思春期が早くなってしまった原因として、背景に病気が隠れていることがあります。そしてその原因の一つに、”脳腫瘍”があります。
そのため、思春期早発症のお子さんの病歴・症状・身体診察・検査所見を総合して、脳腫瘍が疑わしければ頭部MRIを撮影することになるわけです。
頭部MRI検査は、頭部CTと違って被爆がないため患者さんの体には悪影響がない検査ですが、検査の時間が30分前後ととても長く、患者さんが動いてしまうと画像がぶれてしまいダメになってしまいます。
患者さんの年齢によっては鎮静(お薬をつかって眠らせること)して検査することが必要で、とても手間と時間がかかる検査です。
今回ご紹介する論文は、思春期早発症のお子さんに対して何歳から頭部MRIを撮影したほうがよいか、というテーマに基づいて研究したシステマティックレビューです。
さあ、主役に登場してもらいましょう。
J Pediatr Endocrinol Metab. 2018 Jul 26;31(7):701-710. PMID: 29902155
Prevalence of cranial MRI findings in girls with central precocious puberty: a systematic review and meta-analysis.
Cantas-Orsdemir S, et al.
それでは一緒に見ていきましょう。
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背景と目的-Background and Objective
一部の小児内分泌を専門としている小児科医は、思春期早発症の女児が6歳未満の場合にのみ、脳腫瘍などの可能性を考慮して頭部MRI検査を実施することを推奨しています。
ただし、実践ガイドラインはありません。
こういった背景の中で、今回著者らはこのレビューの目的は、中枢性思春期早発症の女児における頭蓋内病変の頻度を評価することを目的として、システマティックレビューを行いました。
女児におけるという所が大事なポイントです。男児に関しては今回検討をしておりませんのでご注意ください。
※中枢性思春期早発症は、思春期早発症の中でも頭蓋内が原因になって発症しているだろうと推察される場合につけられる病名です。思春期早発症は中枢性と末梢性(中枢性以外)に分けられます
方法-Method
データベース
1990年~2015年12月までの6つの電子データベースが検索されました。
(PubMed、Cochrane、Web of Science、SCOPUS、ProQuest、およびDissertation&Thesesの6つ)
重要な論文の参考文献も検索の対象となっています。
そして、さらに最近の研究を含めるために2017年2月にもう一度論文検索が行われましたが、新たに追加になる研究は見つけられませんでした。
選択基準
・8歳前に二次性徴が生じたという定義を用いて中枢性思春期早発症と診断された女児を含む研究であること
・MRIデータが保存されている研究であること
・1990年以降に発表された研究(この年代以後にMRIが主流になったため)であること
研究は英語で書かれたものに限定されず、広く検索されたとのことでした。
なお、症例報告、症例シリーズ、同じ患者集団を有する同じ著者/グループからの研究、およびCPPを引き起こすような要因を元々持っている患者に関する研究は除外されました。
データの収集・分析
2人の医師が独自に検索結果をレビューしてデータを抽出しました。
ランダム効果モデルを使用して、研究全体で、頭部MRIで頭蓋内病変に関するMRIのプールされた有病率を計算しました。
研究間の異質性はQ統計量で評価しました。
広報バイアスは、ファンネルプロットとEggerの検定で評価しました。
プールされた有病率は年齢層によって計算されました。
線形回帰分析は、頭蓋内病変の有病率と医療の利用可能性との関係を評価しました。
結果-Results
今回の研究では、中枢性思春期早発症について評価された8歳未満の合計1853人の女児を対象とした15件の研究が選択され、システマティックレビューに含まれました。
すべての研究から頭蓋内病変があるプールされた有病率は0.09でした[95%信頼区間(CI); 0.06-0.12]。
有意な異質性があり、プールされた有病率の計算における変量効果モデルの妥当性を示していました。
年齢による層別解析では、プールされた有病率は6歳未満の女児で25%、6〜8歳の女児で3%でした。
結論-Conclusions
今回のシステマティックレビューでの結果は、6歳以上の思春期早発症の女児において、問診・診察で中枢神経(脳・脊髄)に何も問題がないと思われる場合に日常的に頭部MRIを行う事に関しては利益がなさそうだという考えを支持している。
なにが分かったか
もともと思春期早発症の患者さんでも、年齢が低くなればなるほど背景に病気が隠れている可能性が高くなることが言われていますが、何歳から頭部MRIがより必要かという情報はとても重要ですね。
6歳を切ると頭蓋内病変の可能性がぐっと高くなる、ということですから思春期早発症で来院した患者さんの年齢が6歳未満だった場合は、頭部MRIを撮影すべきだと言っても過言ではないと思います。
僕の経験からも、実際に思春期早発症で来院される女の子の年齢は7~8歳くらいが一番多い印象がありますから、6歳未満で来院する患者さんはかなり稀でしょう。
今回は以上となります。何かの助けになれば幸いです。