今回の話は、私の三男坊の話です。自閉症スペクトラム障害、ADHDを含めた発達の障害・遅れを持つお子さんを育てているお母さん、お父さん方に共有したい気持ちが強く、今回簡単に書いておくこととにしました。
いわゆるこうしたら発達が伸びる!という趣旨の話ではなく、「発達の遅れを抱えた子どもを持つ家族として生活していく上で、どんなことに気をつけたらいいか」と言う心構えのような話です。論文の裏付けなどはありませんので、コラム的な位置づけで読んで頂ければ幸いです。
目次
自分の子どもが発達障害と診断された時の親の気持ち
はじめに我が家の三男坊の話をしようと思います。うちの三男坊は今では自閉症スペクトラム障害と診断されていますが、1歳まではとても育てやすい子どもでした。我が家は上2人も男児なので、家の中は毎日子どもの叫び声が響いており、時々ママの怒号も…といった感じで、よくある騒がしいけど楽しい普通の家庭だと思います。その騒がしい中で、黙々と一人遊びをしているのが三男坊でした。
周囲や人に興味が薄い三男坊をみて、一抹の不安を覚えていた私ですが、「ごはんはよく食べるし、運動面は特段問題なく発達しているし、大丈夫でしょ」と、あまり深く考えず楽しく過ごしてきました。
しかし1歳半ごろになって、少しずつ気になることが増えてきました。
まず、言葉が出ない。
1歳半と言えば、普通であれば4-5個は有意語(意味が分かる言葉のこと)が出ていても良い時期です。さらに、奥さんが良く言っていた言葉が印象的でした。
「言葉がひっかからない」
奥さんが三男坊に声をかけても反応が薄く、三男坊の頭にひっかかった印象がない、というわけです。聞いているのか、聞こえているのかも分からない。さらに、視線が合わない、合わせてくれない。
流石にそれを聞いた時には、不安も確信へと変わりました。
「自閉症かもしれない…」
すぐに病院を受診し、小児神経専門医の診察・発達検査などを受けて、診断へと至りました。
その後自分も教科書、文献を読んで自閉症スペクトラム障害の知識を再確認しましたが、今思えば、一人遊びが好きだった一面は、人に対する興味が極めて薄い自閉症の一つの症状・特徴だったのだろうと思います。
我が子が自閉症。
流石にショックでした・・・。が、僕よりショックなのは奥さんだったと思います。
僕の場合、自身が小児科医ですから、仕事柄色んなお子さんを見ています。
発達障害のお子さんもたくさん見てきましたし、今も患者さんとして自分の外来にいらしてくれる方もいます。
先天性の障害を持っているお子さん、不幸にも重症疾患で後遺症によって肢体不自由になったお子さんなども診療し、関わっています。
そういった患者さん達に接していると、たとえ発達障害があろうが、先天性疾患があろうが、後遺症があろうがなかろうが、やっぱり子どもはかわいいですし、本人なりに成長・発達していくんですよね。
それを経験・実感として僕は、知っている。
たくさんある自分の診療経験の中に我が子を位置付けて、受け入れていくことが出来ます。
でも奥さんは違う。医療者ではないので、発達障害の子どもを見たこともないし、先がどうなるのか、この子がどうなるのか、全然想像もできない。まるで目の前に真っ黒な巨大な壁が突然現れたような、そんな気持ちだったのではないでしょうか。
三男坊が自閉症とわかった当初は、奥さんはよく泣いていました。僕はもちろん病気に関する知識や情報を色々奥さんに話したりはしましたが、情報は伝えられても、自分の経験をそのままあげることはできないんですよね。そんな時にできることと言えば、話を聞いてあげること。そして病院の受診やもろもろ、少し先の目的を示してあげて、とりあえず色々こなすことに集中させてあげること、くらいでした。
大先輩のT先生と会い、三男坊について相談
三男坊の診断がつき、発達検査も終え、療育のめどもついたある日、僕は自分の病院で勤務中にT先生に会いました。
T先生は、僕が研修医の時からお世話になっていた小児神経専門医で、今は開業され時々僕の病院の外来に顔を出される先生です。
僕は、居ても立っても居られずT先生に声を掛けました。
不覚にも僕は泣いてしまいました。
自分でも気づかなかったけれど、気を張っていたんでしょうね。診断がついた時も、奥さんに話をして慰めているときも、僕自身は泣いたことはなかったのですが、このときばかりは色んな感情が溢れて、自然に涙が流れてきてしばらく止まりませんでした。
そして、T先生は僕が落ち着くのを待って、ゆっくりと自閉症の子どもを見ていく親の心構えを教えてくれました。
T先生からの教え① 「心配なことと、困っていることを分ける」
自閉症を含めた発達障害のお子さんを育てる親は、色々なことを悩んでいます。
自閉症のお子さんの親としてはまだぺーぺーな僕と奥さんなんかは、特にずーっと先のことまで思い悩んでいました。
悩みすぎると、体も心の動きも鈍くなってしまいます。
まずは、悩んでいることを全て紙に描き出してしまいましょう。
そしてそれを、「心配なこと」「困っていること」に分けて見てください。
私と奥さんでやってみると、
心配なこと
これからどうなっていくのか、幼稚園に入れるのか、普通の小学校にけるのか、働けるようになるのか
困っていること
・・・・今は特にない
という結果でした。
大事なのはここからで、まずは「心配なこと」からです。
心配なことは基本的に未来のことが多いはずです。そして未来のことはわからないし、今はどうしようもない。
心配な事は「親だから」そりゃあ心配ですよ、心配なことが正常ですし当たり前だと認識しましょう。いわゆるメタ認知です。
そう考えてみると、ふっと心が軽くなったような気がしました。
そして、「困っていること」です。これが、今対処しなければいけない、何とかしなければいけない点です。
今現在困っていることが、おそらくお子さんが今越えなければいけない発達の壁である可能性は高いと思います。
その点にフォーカスして、リハビリ・療育をしていく、場合によっては薬剤に頼るということが重要だと思います。
そして漠然と不安な気持ちを、心配なことと困っていることに分けて認知することで、副次的なある効果が生まれます。
整理されていない不安でいっぱいな心には、余裕がありません。
余裕がない状況で日々の子育てに挑んでしまえば、些細なことでイライラしてしまいます。必要以上に子どもを叱りつけてしまったりと、自己嫌悪に陥るような事象が起こり、さらに自らの精神状態を追い詰めることになりかねません。
パソコンのデータを整理すると記憶容量の空きができてスムーズにパソコンが動くのと同様に、不安な気持ちを整理することで心の余裕が生まれます。余裕が生まれれば、子育てにも集中して取り組むことが出来るのではないでしょうか。
私の場合、心配なことは確かにあるけど、今は困っていることはないんだなと認識できたことが、心の余裕・安定につながったと思います。
そして、このことが次の心構えに繋がります。
T先生からの教え② 「こどもに笑顔を沢山見せる」
途中でも書きましたが、障害を持っていようが、先天性疾患を持っていようが、子供はかわいいものです。親でなくても外来で診療をしている僕が思うわけなので、自分の子どもであればなおさらです。だから、笑顔を見せてあげてください。
悩んでいることを「心配していること」「困っていること」に分けて、今やるべき対処が出来ているのならば、、、空いた心の余裕でなるべく育児を楽しむ。
誰かと比較しないで、その子の成長を楽しむ。
そして笑顔を子どもに見せてあげることで、あなたが生まれてきてくれたことは意味があることなんだよ、パパとママは嬉しく思っているんだということを伝えてあげてください。
親が思い悩み続けていると、自然と表情は暗く・固くなります。そうなれば、こども達はママ・パパの曇った顔を毎日見ながら過ごすことになります。
もしかすると、笑顔を見せても、暗い表情を見せていても、子どもの発達の程度は良くも悪くもならないのかもしれません。
でも、、それなら笑って過ごしましょうよ。
あなたの大事なお子さんの今日は、当たり前ですが今日しかありません。同じ一日はもう戻ってきません。
もうこの時間は二度と返ってこないって考えたら、笑って過ごしたいですよね。
T先生は言います。
私の三男坊には、今は僕の言葉は上手く伝わっていないかもしれません。でも、私が大事に想っているということを、今後全身で伝えていこうと思っています。
今回は、以上となります。
最近、自閉症スペクトラム障害のお子さんの子育てについて勉強していると、定型発達のお子さん(発達障害のないお子さんのこと)を育てる上でも有益になることがあるなぁ、と思います。
今後そういったところもブログで紹介していければ、と考えています。