こんにちはアシュアです。今回は小児科医の仕事の内容についてざっと取り上げてみました。興味のある方はぜひ読んでいただけると嬉しいです。診療以外にも実は色々仕事があって、基本的には多忙な職業だと思います。
目次
小児科医の仕事は勤務している病院で大きく異なる
小児科医の仕事は勤務している病院で大きく異なります。診療所や開業医、一般病院の勤務医、大学病院の勤務医という分け方が簡単な分け方になります。小さい病院の方が患者さんとの直接の関わりがメインになり、大学病院の方が診療も行うけれど研究・教育の割合が大きくなります。どういった仕事の内容が自分に合っているかで、勤務する病院の規模を選んで病院に就職する医者もいますが、大学病院に勤務している小児科医の場合は、医局の人事で定期的に色々な病院に派遣されて仕事をしています。
こどもの病気の診療を行う
メインの仕事の内容ですね。こども病気を診断してその治療を行うことが子供の病気の診療を行うこと、ですね。
ます、こどもが困っている症状(発熱、腹痛、嘔吐、下痢、咳嗽、鼻汁、発疹、などなど)と、その症状が出てきた経緯(病歴と言います)を家族から聞きます。そのあと、必要な情報をさらに集めるために診察(視診、聴診、打診、触診)を行います。小児科医は、病歴の聴取と診察をしながら、常に原因と思われる疾患を複数想起して、その可能性を上げ下げしています。
『この症状とこの病歴なら、あの怖い病気は多分ないな~』とか『この症状で子の診察所見なら、この病気の可能性は結構ありそうだな・・・』みたいな感じで、アレコレ考えています(実際にはわざわざ全部言語化していないので、大部分は無意識にやっていると思います)。これを鑑別を挙げると言いますが、最終的に可能性がある病気を複数想定することで、その次にどんな検査をしたら良いかを判断しています。
そして必要があれば検査を行い、病気を診断します。大事なことは、病気を診断するために検査が絶対に必要ということではないと言うことです。例えば、インフルエンザの迅速診断キット(皆さんも鼻に棒を突っ込まれて検査したことがあるかと思います、アレです)も完璧な代物ではありません。インフルエンザに真実に感染している人100人に検査して検査の精度を確かめた場合全例検査が陽性になるわけではないということで、検査が陰性でもインフルエンザの人がいるという意味です。人と一緒で検査も間違うということですね。
ですから、場合によってはインフルエンザでも迅速検査をしない場合だってあるわけです。例えばこんなケースはどうでしょう。
いつも一緒に過ごしている兄がインフルエンザと既に診断されていて、その2-3日後に元気だった弟くんが高熱を出しました。弟くんの症状はインフルエンザだった子と似た症状です。さあ、あなたはインフルエンザの検査をしますか?
検査前確率と言いますが、このケースの場合検査をする前にインフルエンザの可能性がすでにとっても高いわけで、改めて検査を行う意味があまりありません。逆にインフルエンザの検査がたとえ陰性に出たとしても、じゃあそのこどもに治療薬なしで帰宅させますか?させないですよね。こういう場合は検査が診療の邪魔になる可能性もあるということです。
小児科医は、検査の限界を知りつつ、検査そのものもするかしないか判断しながら診療をしているということですね。
さあ、診断がついて次は何をするか。そうです。薬の処方ですね。小児科医の薬の処方は、内科と違って少し特殊です。まず年齢によって飲める薬の形が変わります。乳幼児であれば粉・シロップがメインで、7-8歳くらいから錠剤が飲める子も出てきます。カプセルはさらに年齢が上に行ってからです。さらに、大人と違って体重に合わせて薬の量を調整する必要があります。
基本的に患者さん1人1人に薬剤の量の計算・確認が必要になるため、かなり業務として大変な部分で時に医者も計算を間違うことがあります。こういった時にとても大事な役割を担ってくれるのは薬剤師さんですね。薬の量の再チェックや飲み方の指導、ジェネリック医薬品への変更(薬の中身は同じだけど、後発品といって他の会社が開発したもののことです。総じて先発品よりも安価です。)などなど色々なサポートをしてくれています。
薬の量の調整で、難しいのは12-15歳くらいのお子さんで、錠剤はのめるけれど体重に合わせて計算すると錠剤だと過ぎる、粉だとカサが多すぎる・・・といった形になることがしばしばあります。内科の先生のように『いつものお薬出しておきますね』と言ったさらっとした対応ができるときは少なくて、だいたいは『薬は粉がいいですか?錠剤?シロップ?どれにしましょうか。昼は学校だから飲めない??分かりました。量を調節して朝・夕に飲むようにしましょう』みたいな、かなりオーダーメイドな処方をせざるを得ません。
家族の問題の解決の糸口になる
病院にはこどもの病気を主に訴えて家族が来院するわけですが、その中には問題を抱えている家族もいます。例えば、貧困であったり、家族内暴力であったり、実はこどもを虐待していたり。そういうこどもを取り巻く家族の問題に気付き、適切な部署に繋げるという役目も小児科医のとても重要な仕事です。
小児科医は、良くいるこども、良くある家族をたっくさん診療しています。正常な家族、という定義は難しいですが、少なくとも良くある家族とこどもをよく見ているので、『違和感』に気づきやすいのです。
違和感にも色々な違和感があります。例えばこんなものが挙げられるでしょう。
見た目の違和感・・・こどもの衣服が少し匂う、お母さんの表情がとても暗い
受診の違和感・・・この家族は最近こどもにビー玉を間違って飲みこませてしまったのに、今日は煙草を食べさせてしまってまた受診している
来院の違和感・・・この家族はいつも祖父がこどもを連れてきているが、母親とは一度も来院しない
様々なきっかけから家族の違和感に気づけば、病院内の心理士さんに連絡してみるとか、地域の保健師さんに連絡してみるとか、明らかに虐待が疑われるケースであれば児童相談所に連絡するといった手段で、適切な部署に繋げていきます。
地域医療への貢献(講演活動、学校医としての活動)
医者は勤務している病院だけで仕事をしていればいいわけではありません。属している地域医療全体への貢献も望まれているところです。その意味で、地域の保健師さん向けや、親御さん向けに講演活動を行うのも医者の重要な仕事と言えるでしょう。地域の保健師さんが定期的に行っている勉強会のなかで、講演の演者として病院のドクターが選ばれるという形ですね。
かくいう私も講演を頼まれたことがあり、地域の保健師さん達の前で1-2時間くらい講演会をしたことがあります。その時の内容は『危ない低身長、危なくない低身長』でした。
こういった講演はとても大切で、普段の診療の様子を伝えたり知識のupdateを行うためという意味合いよりも、『こういう患者さんは要注意ですよ!』『こういうときに病院に紹介してください!』という患者さんを迅速に病院に結び付ける“適切な基準”を伝えられることが大きいです。そしてなにより地域の保健師さん達と直接顔を合わせる、それ自体が大きな意味を持ちます。
『あの先生なら、直接電話しても大丈夫そうだわ』と思ってもらえればしめたもので、本当に困った時に直接連絡をくれるようになったりします。
地域医療への貢献としては学校医としての活動も大事です。幼稚園や学校は指定の学校医を置かないといけません。学校の内科検診とかで出てくる先生が学校医です。検診を行う業務がメインですが、特別な医療的ケアが必要なお子さん(例えば人工呼吸器を使っているお子さんや、気管切開を行っているお子さんなど)の入園・入学希望があった際など、専門家としての意見や対応についてアドバイスを求められることもあります。
地域の小児科医と連携して知識のアップデートをする
これは4とも内容が重複している部分もありますが、主に地域の総合病院クラス以上の病院で働く小児科医の仕事になります。
その地域で中心となるような病院の小児科医が、地域医療の最前線で働く開業医の先生たち向けに開いている勉強会がそれに当たります。開業医の先生たちは、地域の中心となる病院の先生たちも含めて『医師会』という集団を形成していますが、医師会からの依頼で総合病院や大学病院の小児科医が講義や講演をしたりしています。
地域の医療レベルを上げる意味でこういった勉強会はとても大事なものですが、4でも書いたように医師同士の顔を直接合わせたの付き合いは非常に意味があります。普段から顔を合わせた付き合いが出来ていれば、普段最前線で活躍されている開業医の先生たちが、『このお子さんはやばい病気かもしれない』と思った時に迅速に市立病院や大学病院へ患者さんを紹介してくれます。逆もしかりで、市立病院や大学病院で適切に診断をして治療を行った後、また地域の開業医の先生たちに普段の診療をお願いする流れも円滑になります。これは、「医療連携」が潤滑に回っているということになり、患者さんにとっては非常に理想的な環境です。
身近な医療スタッフと一緒にスキルアップし連携を強化する
そしてこれはどこで勤務している小児科医でも行っている仕事ですが、身近な医療スタッフである看護師さんや薬剤師さんをはじめ、放射線技師さんや栄養士さんなどなど、病院で働く色々なスタッフと一緒に勉強会をしてスキルアップすることが大事です。
長く小児科医をしていると身に染みてくるのですが、当たり前のことで医療は医者だけでは全く成り立ちません。看護師さん、薬剤師さん、放射線技師さん、栄養士さん、リハビリのスタッフの方々などなど、色々な業種の人達との仕事の総和として『医療』が成り立っています。
イメージで言えば、医療はオーケストラの曲を演奏するようなもので、医者は指揮者で例えることができます。どんな曲がふさわしいか選んで指揮をするのは医者ですが、実際に曲を奏でるのは演奏者である看護師さんをはじめとする医療スタッフです。医者が一人だけいても、指揮棒をもった指揮者が一人でいるだけのようなものでなんにもできません。
いい曲を奏でるためには演奏者が指揮者の指揮のもと調和のとれた演奏を行うことが重要ですが、医療も同様です。治療を上手く導くためには、医者の意図が上手く医療スタッフに伝わっていることがとても重要です。
看護師さんと一緒に勉強会を行ったり、薬剤師さんと薬の味見会を行ったり、栄養士さんと肥満児のカンファレンスを行ったりする中で、医者と医療スタッフ間の連携を強化することが出来ます。日常診療をより良いものにするために、小児科医が率先して医療スタッフと関わる姿勢はとても重要です。
そしてこれは開業医の先生により特化した仕事かもしれませんが、組織が小さくなればより個人個人の連携が重要になります。少数スタッフで構成されている小児科医院の場合、医療スタッフ間の些細なトラブルも、診療レベルを大きく損なうことになりかねないので、トップである開業医の先生にとっては大問題です。
開業医の先生たちからは、看護師さん同士のトラブルの仲裁や調整もとても大事で、非常に大変とよく聞きます。一国一城の主ともなると、気苦労が絶えませんね。
こどもの病気の新しい知見を発見するために研究をする
これは大きな市立病院や大学病院の先生に特化した仕事になるかもしれませんが、研究も小児科医にとって大きな仕事の一つです。
いわゆる研究とひとくくりに言っても種類は様々です。大学の研究室レベルの遺伝子解析研究やマウスの研究をメインにした基礎研究から、一般の市立病院でも可能なたくさんの子ども達の診療の記録をもとにした臨床研究まで幅広いです。
また、資金援助を受け何千万円といった資金をベースにたくさんの病院を巻き込んだ国レベルの研究もあれば、いち小児科医が単独で考えて計画しあまりお金をかけず市立病院レベルの病院で行う研究まで、規模も様々です。
小児科医も様々で、研究をメインで行っていてほぼ診療をしていない小児科医もいれば、メインは病院で外来・病棟業務を行う仕事で方手間に研究を行っている小児科医もいます。
普段病院で働いていると、こどもの病気に対して『これはどうなのかな?』『これはわかっているのかな?』と疑問に思うことは良くあります。その臨床的疑問が研究の種になります。
もし教科書や文献で調べてその臨床的疑問が解決しなかった時、その疑問は実はまだ今の医学ではわかっていない事かもしれません。皆さんは驚かれるかもしれませんが、医学の世界とくに小児医療の世界では、この現代でも分かっていないことばかりです。臨床研究の種はそこら中に転がっているのです。
まとめ
小児科医は、こどもの診療だけを行っているわけではありません。こどもを取り巻く家族環境にも配慮しながら、地域医療にも貢献することが求められます。その中で様々な診療を行っている医師たちと連携するだけではなく、医療チームの指揮者として医療スタッフ全体との連携と医療チームとしての力量のブラッシュアップも行っていく必要があります。さらに、医療・教育と並び研究についても小児科医の仕事は広がりを見せています。
仕事の内容について、ここに全てが書けているわけではありませんが、すでに単純な診療だけではなく仕事の内容が幅広いことはお判りいただけたことと思います。もちろん大変で多忙な職業だと思います。
しかし、子ども達の笑顔に囲まれて仕事ができる幸せは他の職業にはない魅力があります。そして、子ども達の未来を守り育てる助けとなれることには、これ以上ないやりがいのある職業だと思います。