こんにちは、Dr.アシュアです。今回はちょっと面白い論文を見つけたのでご紹介したいと思います。
さて、みなさん注射は得意ですか?
僕は苦手ですwww(自分はしこたま子どもに注射してるのに!!)
注射が苦手な人は、注射の痛みや注射に伴う緊張感で、一時的に調子が悪くなってしまうことがあります。
顔色が青白くなって、たくさん汗をかいて、立ってられなくなり、フラフラ倒れてしまう…アレです。
一般的には『貧血を起こした』と表現するアレですね。医学的には『副交感神経反射』ということが正しいです。
副交感神経反射の細かい定義はこちらをご覧ください。
簡単に言えば迷走神経反射は、痛みや緊張などで普段プリっとしている血管の緊張が取れて、脈拍低下、血圧低下が起こり、前述したような顔色不良や、多汗、失神が起こるというものです。
今回ご紹介する論文は、予防接種をしたときに起こり得る副交感神経反射を、飲料水を前に飲むことで予防できるか?というテーマで行われたランダム化比較試験です。ちょっと異色の研究ですが、なんと天下のPediatricsに乗っているという…、驚きです。
まずは、今回の主役に登場してもらいましょう。
Pediatrics. 2017 Nov;140(5). PMID: 29061871
Drinking Water to Prevent Postvaccination Presyncope in Adolescents: A Randomized Trial.
Kemper AR, et al.
では、見ていきましょう。
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背景と目的-Background and Objective
ワクチン接種後の失神はけがの原因となります。
献血の時に事前に飲料水を飲むことで末梢の血管の緊張が高まり、献血に伴う失神や、献血後の失神のリスクが減少します。
この研究は、ワクチン接種の前に飲料水を飲むことで、ワクチン後の失神につながるような症状(失神の前駆症状)を減少させることが出来るかどうかを評価するために行われた。
方法-Method
あるプライマリケア診療所で、1回以上の筋肉内ワクチンを投与された11〜21歳の被験者に対して、ランダム化比較試験が行われました。
介入群は500mLの水を飲むように勧められ、10〜60分後に予防接種が勧められました。
対照群はは通常どおりの予防接種が行われました。
失神の前駆症状は、ワクチン接種後20分の間に12項目の症状で評価されました。
くらくらすること、めまい、衰弱、顔面潮紅、視覚障害、聴覚障害、頭痛、急速または激しい心拍、発汗、急速または困難な呼吸、悪心
に加えて、寒くて汗をかいたり痒みを感じたりすることを加えた12項目です。
失神の前駆症状の定義は、一般的なものはなかったらしく、CDC’s Clinical Immunization Safety Assessment Projectという組織と協議して、湿疹の前駆症状の定義を決めていました。
失神の前駆症状が「ある」とする定義は、失神に対する感受性を高めた第一の定義と、よりカットオフを厳しくした第二の定義を定めていました。
結果-Results
介入群に割り当てられた被験者は901人で、対照群に割り当てられた被験者は906人でした。
実際に失神を起こした人はいませんでした。
失神の前駆症状は、第一の定義を用いて被験者の36.2%、第二の定義を用いて被験者の8.0%で発生しました。
いずれの症状についても、介入群と対照群で失神の前駆症状において、有意差はありませんでした(第一の定義でP = .24、第二の定義でP = .17)。
500mLの水をすべて飲んでから10〜60分以内に予防接種を受けた被験者(n = 519)の中で、第一の定義or第二の定義における失神の前駆症状が減少したという証拠はなかった(それぞれP = .13、P = .17) 。
多変量回帰分析で失神の前駆症状と関連していた要素を調べてみると、年齢が若いこと、注射・採血の際に失神や失神しかけた病歴があること、ワクチン接種前の不安、注射されたワクチンが1回以上であること、およびワクチン接種後の痛みが著しいことであった。
結論-Conclusions
ワクチン接種前に水を飲んでもワクチン接種後の失神の前駆症状は予防されなかった。
ワクチン接種後の失神の前駆症状の予測因子を知っていることで、失神への介入が出来るかもしれない。
なにが分かったか
通常のクリニックのセッティングでは、ワクチン接種前に水を飲んでも、ワクチン接種後の湿疹の前駆症状は予防できませんでした。
でも、そもそも2000人近く予防接種をしたところで失神した人がゼロというのは、『そもそも予防接種に関連した失神を起こす確率はとても低い』ということが言えそうです。
仮に今回の研究の結果、水を飲むことで失神の前駆症状が減少するという結果がでた、としても、臨床的に解釈すると
3000人飲ませて1人失神を予防できます!!みたいなことになりそうな気がします。つまり費用対効果が低すぎるので、実際の診療行動はこの論文によって変わらないのでは??と感じてしまいますね。
もしかすると、もっと若い年齢層で同じ研究を行ったらまた結果が違うのかもしれません。臨床研究って難しいですね。
今回は以上となります。