ブログのお読みのご家族の中には、今ママが妊娠中ですというご家庭もあるのではないでしょうか。
妊娠中の食事・生活などは生まれてくる赤ちゃんに影響するかもしれないという意味で、色々と気にされている方も多いかもしれません。
今回は、そんな妊娠中のママがいるご家庭や、これから妊娠を考えているご夫婦へ向けた投稿になるかと思います。
さて主役に登場して頂きましょう。
Sci Rep. 2019 Aug 9;9(1):11564. PMID: 31399615
Maternal Exposure to Housing Renovation During Pregnancy and Risk of Offspring with Congenital Malformation: The Japan Environment and Children's Study.
Motoki N, et al.
出典は、Scientific reportsという医学雑誌です。インパクトファクターは4.0-4.5くらいあるので、それなりに有名な雑誌と言えましょう。
かなり規模が大きいコホート研究であること、日本発の研究であることから、すぐに結果をご家庭に取り入れることが可能という意味で今回紹介することとしました。
では見ていきましょう。
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背景と目的-Background and Objective
赤ちゃんに先天的な奇形が生じる原因の中に、環境の要因が挙げられます。母親を介して胎児になんらかの曝露があった場合、その影響は器官形成期と言われる妊娠3-8週が一番大きいです。
家を改装することによる塗料、染料、接着剤、およびその他の室内環境汚染への母親の職業的曝露は、その子どもの先天性心疾患(CHD)のリスクである可能性を指摘した研究や、デンマークの全国出生コホート(DNBC)から家庭での塗料の煙への非職業的曝露は、一般集団の他の先天異常とも関連している可能性があるとする研究等が報告されています。
日本での住宅事情は、もちろん先進国レベルに改善されていますが、妊娠中に有機溶剤や住宅の改修に伴う材料への暴露が、どれくらい赤ちゃんの先天異常に関連しているかどうかを調査した研究はありません。
著者らは、
(1)出生前の家の改修への曝露
(2)先天性異常の発生率に対する有機溶剤および/またはホルムアルデヒド
への母親の職業曝露の影響を調べるため、大規模な全国的な出生コホート研究を行いました。
なお、検討に含まれた有機溶剤は、シンナー、ドライクリーニング用洗浄剤、ペイント塗料などでした。
今回関連性を検討した先天性形態異常とは、
生後1か月までに診断された先天性心疾患、口唇口蓋裂、男児の外性器異常(尿道下裂、停留精巣)、四肢形成異常、消化管閉塞
でした。
方法-Method
データベース
この研究で使用されるデータは、子供の健康に対する環境要因の影響を決定するために2011年1月に始まった継続的なコホート研究であるJECSから取得されました。
結果として67,503の単胎出生のデータが研究に使用されました。
単胎出生というのは、つまり赤ちゃんが1人の出生のみのケースという事です。双子、三つ子などの多胎のケースは除外しているという事です。
適格基準
下記の条件で適格となる親子を決めています。2011年1月から2014年3月までに妊婦さんが募集されました。
適格基準はこれ!
・募集時に調査地域に居住していた
・2011年8月1日以降の出産予定
・日本語を理解し、自己管理アンケートに記入できる人
なお、下記の条件に当てはまるお子さんは今回の検討から除外されています。
除外基準
除外基準はこれ!
・染色体異常の小児
・今回調査目的になっている先天性奇形”以外”の奇形がある小児
・今回調査目的になっている先天性奇形を”2つ”以上もつ小児
・外性器奇形をもつ女児
あと前述したように、双子以上の多胎妊娠の方は除外されていますね。
これらはひとえに”他の影響を除外して検討を単純化”するために行われているのだと思います。
なお、種々のデータは自己記入式アンケートによって、妊娠の第二期第三期に収集されています。
妊娠前の母体の身長・体重などの測定データ、妊娠中の合併症と投薬、および以前の妊娠の履歴は、被験者の医療記録の転写から収集されました。
統計学的解析など
多重ロジスティック回帰分析を使用して、「妊娠中の家の改修」または「有機溶剤および/またはホルムアルデヒド」への母親の曝露と、様々な先天性形態異常についての関連を調べました。
潜在的な交絡因子として、妊婦の年齢、妊娠前のBMI、妊婦本人と配偶者の喫煙歴、飲酒歴、教育歴、世帯収入、妊娠中の母体合併症などを調整して、最終的な分析を行っています。
結果-Results
結果として67,503の単胎出生のデータが研究に使用されました。
これは非常に大きなデータです。ちなみに男児が34,342人、女児が33,161人でした。
蛇足ですが、生まれる子の数は男児の方が少し多いということは昔から良く言われていますが、こういったコホート研究でも同じことが見られるのだな~と、ふと感じました。
まず「今回検討対象になっている奇形がどれくらい生じたのか」ですが、
先天性心疾患が1.1%、口唇口蓋裂が0.24%、男児における外性器異常が0.74%(もちろん男児のみで)、四肢形成異常が0.23%、消化管閉塞が0.07%という結果でした。
これらは、以前の報告と同様ということが明記されています。
つまり「日本のこのコホート集団だけ、変に奇形が多い集団であった」ということは否定的ということですね。
検討段階前に収集した対象集団がおかしいと導き出された結論もそもそも歪んでしまうので、こういった検討はマストです(選択バイアスと言います)。
結果を以下に示します。
結果①
妊娠中の家の改修と男児の外性器異常との間に有意な関連性が見られた。
OR 1.81、95%CI 1.03–3.17、P = 0.04
コホート研究では、OR=オッズ比という比較の指標を用いますが、アウトカムの発生率が小さい時はいわゆるリスク比と近似できるというルールがあります。
この辺はちょっと難しい所になるので詳細は省きますが、何が言いたいかというと、今回の論文でアウトカムにしているのは先天性奇形の発生で、それはそもそもかなり確率が低いので、OR 1.81というのはリスク比に置き換えて考えることが出来ますということです。
これでも分かりにくいですが、つまり今回の検討では、妊娠中に家の改修をしていた場合、生まれてくる児が男児であると尿道下裂・停留精巣という外性器異常が1.81倍生じた、という結果だったということです。
結果②
妊娠中の家の改修、または有機溶剤および/またはホルムアルデヒドへの職業的な曝露と、
その他の先天性異常の間に有意な関係はなかった。
その他の先天異常とは、今回検討した先天性心疾患、口唇口蓋裂、四肢形成異常、消化管閉塞のみのことを示しています。
結論-Conclusions
この大規模な全国調査は、妊娠中の家の改修と男児の先天的な性器異常との関連の可能性に関して、重要な情報を提供した。
この関連性に関して、今後良好にデザインされた研究が望まれます。
と論文では結ばれています。
研究のlimitationとして、以下の点が書かれていました。
1.妊娠に気付いた後の家の改修と有機溶剤および/またはホルムアルデヒドへの職業暴露に関するデータを、妊娠の第二期/第三期の自己記入式アンケートから収集したため、データの収集が主観的であること
2.敏感な器官形成期間中の曝露の正確なタイミングが評価できないこと
3.用量反応効果が評価できていないこと
4.どの物質が先天異常の原因であるかを正確に確認することができなかったこと
5.生後1ヶ月まで診断された異常に関するデータを使用したため、その後診断された先天性障害は含まれていないこと
つまりある妊婦さんがこの研究結果をみて「家の改修」をどうするか考えた時に、”どの化学物質”に注意したらいいのか、”どれくらいの量”までなら大丈夫なのか、”いつの暴露”に注意したらいいのかは今回の検討では分からなかった、と言うことになりますね。
今後の研究が望まれます。
なにが分かったか
結論を繰り返しましょう。
日本の大規模コホート研究から、妊娠中に家の改修を行うと男児の先天的な性器異常(尿道下裂、停留精巣)のリスクが高くなる可能性が示された。
こういった研究は、いわゆるランダム化比較試験はできませんよね。
家の改修を行う妊婦さん、家の改修を行わない妊婦さんをランダムに降り割るとかは物理的にも倫理的にも難しいです。
真に因果関係があるのかを確かめるにはランダム化比較試験が良いのでしょうが、今回検討したような案件ではおそらく今後もランダム化比較試験は出てこないと思われるため、そういった意味でも今回の大規模コホートは重要な結果を示したのではないかと思っています。
今回は以上となります、何かの役に立てば幸いです。