こんにちは、Dr.アシュアです。
我々はいつも外界からやってくるウイルスなどの病原体の脅威にさらされていますが、特に意識することなく、自分の体内で”抗体”を作るなどしてそれに対応しています。
”抗体を作り体を守る”のは、複雑な免疫のシステムのほんの一部分ですが、この抗体が攻撃対象としてウイルスを選ばず、自分の体をターゲットにしてしまうことを”自己免疫”と言います。
この自己免疫によって起こる病気のカテゴリーを、自己免疫性疾患と言います。
これは免疫力が乱れて起こる病気なので、薬を用いて免疫を抑えたり、調整したりして治療を行います。
しかし、乱れた免疫を正常に戻すのは簡単なことではなく、病気が根治するまでに長い時間を必要としたりすることも多いです。
甲状腺の病気にも、自己抗体が原因で起こるものがあります。橋本病やバセドウ病が代表的な自己免疫性甲状腺疾患です。
これらの病気も、自己免疫疾患の類に漏れず、すぐに完治させることは難しいタイプの病気です。
自己抗体を直接消す治療があれば根治させられるのですが、なかなかそういう治療法はありません。足らないホルモンを薬で補ったり、出すぎているホルモンを薬で抑制したりする治療がメインです。
今回は、この自己免疫性甲状腺疾患の患者さんに対してビタミンDを投与すると、自己抗体が減るのではないか?という疑問について検討した論文をご紹介しようと思います。
さて、主役に登場してもらいましょう。
Endocrine. 2018 Mar;59(3):499-505. PMID: 29388046
The effect of vitamin D supplementation on thyroid autoantibody levels in the treatment of autoimmune thyroiditis: a systematic review and a meta-analysis.
Wang S, et al.
Endocrineという内分泌領域ではかなり有名な雑誌に掲載されたシステマティックレビューです。今回は成人を対象とした研究なので、結果は小児に直接は当てはめられませんが、なかなか面白い結果が出ていました。
さあ、見ていきましょう。
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背景と目的-Background and Objective
ビタミンDの投与によって自己免疫性甲状腺炎(理解しやすいのは橋本病)の自己抗体に対して良い効果があるかという疑問については、
観察研究では効果があるとする結果でしたが、介入研究では効果はないとする結果であり、まだ結論は出ていません。
こういった背景から、著者らは自己免疫性甲状腺炎の患者の自己抗体の減少に対するビタミンDの効果を評価するために、系統的レビューとメタアナリシスを行いました。
方法-Method
PubMed、Embase、The Cochrane Library、Chinese National Knowledge Infrastructure、Wanfang、およびVIPデータベースが検索されていました。
期間はデータベースの開始から2017年10月まででした。
適格基準
メタアナリシスに含まれた論文は以下の基準で選ばれました。
論文の適格基準はこれ!
・ランダム化比較試験であること
・自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病と橋本病)の患者を含んだ論文であること
・介入群はビタミンDの補充がされており、対照群としてプラセボを投与されているか、無治療の設定になっている論文であること
・自己抗体(TPO-Ab力価、Tg-Ab力価)が測定されており記載されている論文であること
・全文が発表されている研究であること(=未発表の研究は含まれず)
2人の研究者が、別々に全ての文献のタイトルと抄録を精読したとのことでした。
結果-Results
252件の関連がありそうな論文が見つかり、そこから2人の研究者が別々に論文のタイトル・抄録を精読しました。
結果、10件の論文が全文で審査され、対照群が設定されていなかったり自己抗体が評価されていなかったりで、最終的には6件の論文に絞られました。
その結果、系統的レビューには合計344人の自己免疫性甲状腺炎の患者さんを含めた6件のランダム化比較試験が含まれることになりました。
結果は以下の通りでした。
結果①
ビタミンD補給を行うと、3か月以内では有意差がなかったが、6か月の時点では自己抗体のTPO-Abの力価が有意に低下していた。
[3つの研究、ランダム効果標準化平均差(SMD): -1.11, 95%CI; -1.52〜-0.70, P< 0.01]
結果②
ビタミンD補給を受けた群は、対照群と比較して、もう一つの自己抗体(Tg-Ab)の力価も有意に低値になった。
[ランダム効果標準化(SMD): -0.55, 95%CI: -1.05~-0.04, P = 0.033]
重大な副作用は報告されませんでした。
結論-Conclusions
今回のシステマティックレビューでは、ビタミンD補給が短期間(約6か月の時点)で自己免疫性甲状腺炎の患者の自己抗体(血清TPO-AbおよびTg-Ab)の力価を低下させる可能性があることが示されました。
ビタミンDの補給が、6か月後も長期的効果を示すかどうかについては、さらに質が高い研究が必要です。
なにが分かったか
今回のシステマティックレビューでは、ビタミンDを投与することで短期的にではありますが、自己免疫性甲状腺疾患の患者さんの自己抗体が少なくなることが示されました。
しかし、今回のレビューでは、6件の研究のみであること、研究に含まれた患者さんの数が少ないという点などから、真理が明確に追及できているかという点では不安が残ります。
発表された研究のみが含まれていることから、報告バイアスも否定できません。
今後の研究の蓄積が望まれる所ですが、もし長期的な視点でビタミンDが自己免疫性甲状腺疾患の患者さんの自己抗体を減らすことが出来るという知見が集まってきたら…、甲状腺疾患の治療方針が大きく変わるかもしれません。
ビタミンD自体は、過量投与に気を付けて使用していれば大きな副作用はないお薬ですし、天然型のビタミンDに関しては、今はサプリメントなどで購入もできます。今後の展開に期待が持てますね。
今回は以上となります。何かの助けになれば幸いです。