エナジードリンク、大手メーカーのものだとモンスターエナジー、レッドブルやロックスターになるかと思いますが、僕の周りの医師は好んで飲んでいる人が多いです。
僕自身、日中業務の後、そのまま当直に入るときに、レッドブル飲んじゃうんですよね(あ~20代の時はそんなもの必要なかったんだけどなぁ)。
このエナジードリンク、欧米では日本よりもかなり消費量が多く、ティーンエイジャーの消費も増えています。
2006年から2014年にかけて、 英国でのエネルギー飲料の消費は2.35億Lから6億Lに155%増加した。
BDSA. Changing Tastes. The UK Soft Drinks Annual Report 2015. London: British Soft Drinks Association, 2015.
2011年、欧州食品安全機関(EFSA)は、欧州連合(EU)加盟16カ国でエネルギー飲料の消費データを収集する調査を依頼した。
18歳以上の成人(30%)および10歳未満の子供(18%)と比較して、10〜18歳の若者が消費率が最も高い(68%)。
Gathering consumption data on specific consumer groups of energy drinks. Parma, Italy: European Food Safety Authority, 2013.
調べていると、10代のこどもにとってエナジードリンクって安全なの?大丈夫なの?という疑問がわいてきました。
論文検索してみたところ、少し古いのですが、BMJ Open.に掲載された論文がありましたので、
今回は、これをもとに、10代の若者にとってのエナジードリンクが安全か否かについて書いてみようと思います。
BMJ Open. 2016 Oct 8;6(10):e010380. doi: 10.1136/bmjopen-2015-010380.
Consumption of energy drinks by children and young people: a rapid review examining evidence of physical effects and consumer attitudes.
Visram S1,2, Cheetham M2,3, Riby DM4, Crossley SJ1, Lake AA1,2.
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目次
論文の簡単なまとめ
目的
・小児および若者のエナジードリンク消費のパターン
・エナジードリンクの飲み方に対する態度
・エナジードリンクの健康面などへの影響や関連性 を調べること
データソース
9つの電子書誌データベース、関連研究の参考文献リスト、インターネットの検索
結果
データソースから410個の研究が見つかり、基準を満たすレベルの研究が46個あった。
大部分は横断研究を採用し、対象者は11歳~18歳の小児で、北米orヨーロッパで実施された研究であった。
小児および若者のエナジードリンクの消費の傾向に関して以下のことがわかった。
- 性別:男児が女児よりも多くエナジードリンクを消費する
- 活動量:座位で過ごすことが多い人と、活動的に動く人でエナジードリンクの消費量が多い
いくつかの研究では、エナジードリンクの使用と健康を害する行動、また頭痛・胃痛・多動・不眠といった身体症状に関して強い正の相関があることが示されていた。
さらにエナジードリンクを飲む量が多いほど、そういった症状が増えるというエビデンスもいくつか認められた。
少数のジュニアアスリートを対象とした2個の研究で、スポーツの前にエナジードリンクを飲むことで、パフォーマンスの限られた側面にプラスの影響が出ることが示された。
ブランドとマーケティングが若者の消費選択に大きな影響を及ぼすことが分かった。起こり得る悪影響に対する認識は低かった。
結論
エナジードリンクの消費は、子供の健康と幸福の観点から、有害な結果やリスク行動と関連しているという研究結果が増加している。
しかしエナジードリンクは、嗜好、ブランドへの忠誠心、効果の実感、が結びついて若い消費者の心をガッチリとつかんでいる。
健康、行動、教育など、すべての分野における短期的および長期的な影響を探るためには、より多くの研究が必要です。
この論文の弱いところは?
レビューの手法が少し弱い
弱点は、大きく分けて2つあります。まずはrapid evidence assessments(REAs)という手法を用いて論文のまとめをしていることです。
最も権威があり、有効な科学的根拠を示すことが出来るのは『システマティックレビュー』という手法の論文のまとめなのですが、
出版された全ての論文を対象とするため、数か月、時には1年以上も学術研究チームを組織して行わなければいけません。
逆にREAsはシステマティックレビューに比べて、色々な点を制限しているので、2人の熟練した人がいれば数週間で論文のまとめが出来ます。
コストや時間の観点からはREAsは優れた方法ですが、エビデンスレベルという意味ではシステマティックレビューには勝てません。
横断研究の数が多いから、因果関係が弱い
二つ目の弱点は、出てきた論文が横断研究が多かったことです。46個中31個が横断研究だったと記載がありました。
横断研究というのは、『ある時点でスナップショットを撮影して、その写真の中のデータを調べる』様な研究です。
『ある時点とある時点でのデータを比較する』研究に比べて、横断研究は、圧倒的に弱い所があります。
それは、因果関係を証明しにくいことです。
例えば、今、日本の時間を止めてあるデータを集めたとしましょう。こんな研究結果が出たとします。
『ローヤルゼリーの飲む量が多い人は、少ない人に比べて、お金持ちが多かった』
このとき、『ローヤルゼリーをたくさん飲んだ』 から 『お金持ちになった』のか
『もともとお金持ちだった』 から 『ローヤルゼリーをたくさん飲んでいた』のか
横断研究では、どちらなのかは上手く証明できません。
この弱点を『因果の逆転』と言います。
横断研究では因果の逆転が起こることを防ぐことが出来ません。
ですから、横断研究で言えることは、「ローヤルゼリーをたくさん飲んでいることと、お金持ちであることが関連しているが、因果関係はわからない」といったことまで、なんですよね。
今回題材にしている論文では、横断研究をたくさん含めた論文のまとめをしているので、因果関係についてはあまり信頼できるデータではない、と考えた方が良さそうです。
論文の弱い所を理解した上で、得られる知見とは?
観察されたエナジードリンクの消費における傾向は、信頼できると感じます。
- 性別:男児が女児よりも多くエナジードリンクを消費する
- 活動量:座位で過ごすことが多い人と、活動的に動く人でエナジードリンクの消費量が多い
論文中も、座位で過ごすことが多い人=テレビをよく見る人・ゲームなどを良くする人が、エナジードリンクをよく消費するのだろうということ、
活動性が高い人=おそらくスポーツをよくする人で、そういった人達がよくエナジードリンクを消費するのだろうと触れられていました。
また因果関係について考えずに、関連があるというだけならば
エナジードリンクの使用と、健康を害する行動、また頭痛・胃痛・多動・不眠といった身体症状に関して強い相関があった。
つまり、エナジードリンクをたくさん飲む人の中には、健康を害する行動(喫煙、アルコールなどの使用)が多い、身体症状(頭痛・胃痛・多動・不眠)が強い人が多いという事実はありそうです。
※繰り返しですが、エナジードリンクをたくさん飲むと、頭痛・胃痛・多動・不眠になる、ということではありませんよ!
さらに論文中には、
学業平均が高く一貫性が高いこどもや、親の教育レベルが高く子どもをよく見ている場合は、こどもがエネルギードリンクを消費する可能性が低い。
CMAJ Open. 2013 Jan 17;1(1):E19-26.
Addict Behav. 2015 Apr;43:60-5.
Appetite. 2014 Mar;74:86-91.
とする研究結果や、
親はまた、参加者のエネルギードリンクの使用を、拒否したり、禁止したり、奨励したり、使用を承認したりすることで、重要な役割を果たした。
Appetite. 2014 Sep;80:183-9.
とするものも記載がありました。
とすると、やはり我々親としてはあまりこどもにエナジードリンクを勧めたくはない気持ちになりますね。
まとめ
男児が女児よりも多くエナジードリンクを消費する
座位で過ごすことが多い人と、活動的に動く人でエナジードリンクの消費量が多い
エナジードリンクをたくさん飲む人の中には、健康を害する行動(喫煙、アルコールなどの使用)が多い人や、身体症状(頭痛・胃痛・多動・不眠)が強い人が多い
という事実はありそう。
ただし、
エナジードリンクをたくさん飲むと、健康を害する行動・身体症状が増えるのか
健康を害する行動が多く・身体症状が強い人が、エナジードリンクをたくさん飲むのか、
どちらの因果関係が正しいのかについては、更なる研究が必要。