こんにちは、Dr.アシュアです。今回は、超有名レビューであるコクランレビューから、インフルエンザワクチンが有効か否かについてのレビューをご紹介したいと思います。
ただし、いつもの投稿のようにただご紹介するだけではなく、”批判的に吟味”してみようと思います。
それでは本日の主役に登場して頂きましょう。
Cochrane Database Syst Rev. 2018 Feb 1;2:CD004879. PMID: 29388195
Vaccines for preventing influenza in healthy children.
Jefferson T1, Rivetti A, Di Pietrantonj C, Demicheli V.
ちょっと専門的な話になりがちなので、なるべく分かりやすく噛みくだいて書いていきたいと思います。
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目次
論文の主旨(今回は簡単に)
今回のブログの目的は”論文の吟味”なので、論文の主旨はシンプルに書きます。
なお、論文のメインテーマはインフルエンザ生ワクチンの効果になっていて、サブテーマがインフルエンザ不活化ワクチンの効果になっています。日本ではご存知の通り不活化ワクチンしか流通していませんから、今回はサブテーマについてだけ取り上げます。
目的-Objective
インフルエンザワクチンを接種した健康な16歳までの小児に対する論文をまとめること
研究の選択-Study selection
不活化ワクチンを接種された群と、ダミーのワクチンを接種した群もしくは何も接種しなかった群を比較した無作為化比較試験を選択した。
41の無作為化比較試験が見つかった(生ワクチン関連、不活化ワクチン関連含めて全部という意味です)。ほとんどは2歳以上の小児を対象としており、米国、西ヨーロッパ、ロシア、バングラデシュで行われていた。
結果-Results
不活化ワクチン接種群と、ダミーワクチン投与群もしくはワクチンを投与しない群とを比較した論文の結果をメタアナリシスした。
⇒複数の論文の結果を統合したという意味です
不活化ワクチンを投与した場合、インフルエンザのリスクは30%から11%に減少した(高い確実性のエビデンス)。インフルエンザの発症を1例予防するには、5人の小児にワクチン接種が必要であった。
論文の”批判的吟味”が必要なわけ、その方法
複数の論文を評価して発表される『レビュー』(システマティックレビューとも言われます)は、一つのランダム化比較試験に比べて、あるテーマに関する真の事実に近い結果がでます。そのため、近年システマティックレビューは盛んにおこなわれています。
ある論文では、1日に何本のシステマティックレビューが発表されているか、ということを調べたものがありました。
PLoS Med. 2010 Sep 21;7(9):e1000326.
これを見ますと、だいたい1日に11本のシステマティックレビューが発表されているということです。概算しても1年間で3000本以上のシステマティックレビューが発表されていることになります。すごい数ですね。
そして、システマティックレビューといっても玉石混交。質のいいものから、いまいちなものまで様々です。
全てを読むことはできません。限られた時間の中で、質のいい知識を得るためにはどうしたらいいのか、たくさんあるレビューの中から質の良いものを選び抜く眼が必要なわけです。
そこで今回の投稿のもう一人に登場してもらいましょう。
JAMA. 2014 Jul;312(2):171-9. PMID: 25005654
How to read a systematic review and meta-analysis and apply the results to patient care: users' guides to the medical literature.
Murad MH, et al.
これはシステマティックレビューとメタアナリシスの読み方の論文です。
論文を読むための論文…頭が混乱してきますね。
この論文に沿ってレビューを見ていくことで、どういったレビューが質が高く日々の診療を変える根拠にしてよいものなのかが見えてきます。
それでは、今回冒頭で登場してもらったインフルエンザワクチンのレビューの真の姿を見ていきたいと思います。
レビューの評価の方法は、STEP1、STEP2に分けられています。今回の投稿ではSTEP1について書いてみようと思います。
STEP1 レビューの方法論がどれだけ厳密に作られているか
STEP1ではそのレビューの方法論がどれだけ厳密に作られているかを調べていきます。手順は4つです。
臨床的な疑問がしっかりと示されているか
これはとても基本的で大事な点です。
『インフルエンザワクチンがインフルエンザの疫学に与える影響を調べる』
もし今回のレビューがこんなテーマを掲げていたら…すごく曖昧で何がメインで解析したいのか分かりません。レビューの質は、読む前から分かり切っているでしょう。
おさえるべきポイントはPICOと言われる頭文字で示されている項目です。(研究のタイプによってはPECOということもあります)
P(Patient) どんな集団を対象として
I(Intervention) どんな介入をして
C(Comparison) どんな集団を比較対照として
O(Outocome) どんな結果を評価するか
これがレビューの冒頭でしっかり示されているかが重要です。
今回のレビューでは
P 16歳未満の健康な小児について
I 不活化インフルエンザワクチンを接種
C ダミーワクチンを接種した集団か、何も接種しなかった集団を比較対照として
O インフルエンザの発症率について評価する
としっかり明示されています。
論文の探し方が意図的ではないか
レビューに含める論文の選び方が恣意的ではなく、(理想的には)世にあるすべてのランダム化比較試験で、該当するものをもれなく選択してくることが重要です。完璧には難しいと思いますが、理想に近いとより好ましいですよね。
ここでは、絶対に検索しておかねばならないデータベースが明示されています。
1つは、ランダム化比較試験を過去20年間集めているCochrane CENTRAL Register of Controlled Trials
そしてもう1つはこちらも超有名医学系論文のビッグデータベース、MEDLINE
この二つはシステマティックレビューをするにあたっては必ず検索に入れる必要があります。
その他、未発表のランダム化比較試験をレビューに組み入れるために検索することもあります。
今回のレビューでは、
CENTRAL、MEDLINEに加えて、WHO ICTRP、ClinicalTrials.govというデータベースを検索しています。
さらに未発表の研究の検索のために、Vaccine Adverse Event Reporting System website ( vaers.hhs.gov/index.html). を検索しています。
まず該当のランダム化比較試験はもれなく検索されていると感じます。
レビューの手順を複数の人で別々に行われ、その結果が一致しているか
システマティックレビューは、たくさんの段階があります。
論文をもれなく検索したり、論文の質を評価したり、質が悪い論文をはじいたり、質がいい論文の結果をまとめたり・・・
その各々の手順の精度が高ければ、おのずとそのレビューの価値も高くなります。
理想的には複数の研究者が別々に作業を行い、結果が一致していたかどうかを逐一チェックすることが求められています。
複数の研究者が別々に作業を行い結果がどの位一致していたかは、『評定者間一致率』としてレビュー内に示されることもあります。
論文より引用
今回のレビューでは、このような形で色々な手順(論文の検索、データの抽出、論文の質の評価など)を複数の研究者で行っていました。しかし多くのコクランレビューでそうであるように、評定者間一致率については記載がありませんでした。
臨床に応用されやすい形で結果が表現されているか
システマティックレビューの結果が、普段の医療現場で使いやすいように書かれているかも大事な視点です。
今回のレビューではワクチン接種群、対照群において「インフルエンザになったか、ならなかったか」を調べて、両者を比較検討しています。
インフルエンザになったか、ならなかったか、2つに1つという意味で、二値変数(にちへんすう)で評価しているという事です。評価する項目が二値変数の場合、レビューの結果はリスク比・リスク差などで表現することが多いです。
このあたりは一定の法則のある方法論なので詳細は割愛しますが、このレビューではしっかり守られています。
さらにこのレビューのより素晴らしい点としては、リスク差から算出されるNNV(Number Needed to vaccinate)を明確に記している点です。
これはとても臨床に生かしやすい結果の形で、ワクチンの効果が瞬時に理解できます。
NNV、簡単に言えば、『何人にワクチン接種をすれば1人のインフルエンザ発症を防げるか』という概念です。
例を書いてみますとこんな感じです。
NNV=100 ⇒ 100人にワクチン接種すると1人インフルエンザ発症から守ることができる
NNV=10 ⇒ 10人にワクチン接種をすると1人インフルエンザ発症から守ることが出来る
10人ワクチン接種で1人守れる 100人ワクチン接種で1人守れる どちらが費用対効果が高いか、一目瞭然ですね。
ちなみに、今回のレビューでは、不活化ワクチンのNNVは5.2でした。5人に接種すると1人インフルエンザ発症から守れるという意味ですね。
まとめ
今回は、システマティックレビューを批判的に吟味するのSTEP1を見てきました。いかがだったでしょうか。
STEP1では、レビューの方法論がどれだけ厳密に作られているか、が大事でした。
・臨床的な疑問がしっかりと示されているか
・論文の探し方が意図的でないか
・レビューの手順を複数の人で別々に行っていて、その結果が一致しているか
・臨床に応用されやすい形で結果が表現されているか
この観点で見る限り、今回のレビューの精度は高そうでした。
次回はSTEP2についてみていこうと思います。
今回は以上となります。