Twitterで多くの人から反響を頂いたので、今回は僕が働いている小児科で行われている「デスカンファレンス」について、書いていこうと思います。
デスカンファレンスは、当院で子供の患者さんが亡くなった際に行われる会議です。
どの位の頻度で行っているの?何を目的としているの?どんなスタイルで行っているの?何が得られているの?
そんなことを徒然なるままにまとめてみようと思います。
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目次
デスカンファレンスってなに?何のために行うの?
冒頭で書いている通り、小児の患者さんが無くなった際に行われる会議です。
世間一般では、デスカンファレンスの他、M&Mなど様々な呼び方があるようです。
一般的には、亡くなった患者さんの経過を振り返って、
・行っていた医療が客観的にみて正しかったかどうかを検討する
・何か改善できたことがなかったかを見直し、次に生かせることがないか見つける
・医療に関わっていたスタッフの気持ちを吐き出させて、整理させる
ということを目的にして行われます。
この投稿を作るにあたって、いくつか文献も見てみましたが、
患者さんの最後を看取ることが多いホスピスや、まさに生死の現場である救急救命科、さらには高齢の患者さんが多い呼吸器内科病棟などで行われていることが多い様です。
小児科ではデスカンファレンスは、どの位一般的なものなのか
医学中央雑誌Web という日本語で書かれた論文の検索サイトで、小児科におけるデスカンファレンスに関する論文を検索してみると、小児領域におけるデスカンファレンスの報告は、小児がん患者を診療している大学病院やこども病院クラスからの報告がほとんどで、わずかに3次救急を行う市立病院クラスからの報告があるという形でした。
医学中央雑誌(通称医中誌web)についてはこちらの引用をご覧ください。
「医中誌Web」では、国内発行の、医学・歯学・薬学・看護学及び関連分野の定期刊行物、のべ約7,000誌から収録した約1,200万件の論文情報を検索することが出来ます。
「医中誌Web」は、現在、全国の医学・歯学・看護学系大学のほぼ100%で導入されている実績あるサービスです。
そもそも小児患者さんは、亡くなること自体はかなり少ないです。
正確な情報ソースはありませんので、僕個人の勝手な想像ですが、ほとんど患者さんが亡くなることがない1次・2次救急を担当する病院の小児科では、デスカンファレンスはあまり行われていないのではないでしょうか。
デスカンファレンス自体の報告数も、重症度が高い病気を見ている大学病院・こども病院クラスからの報告が多いことは納得でした。
しかし驚いたことが一つありました。医学中央雑誌Webでヒットした論文のほとんどが、著者が看護師さんの論文ばかりだったことです。
医師がデスカンファレンスに興味がないという訳ではないと思います・・・が。
どちらかというと、医師の場合患者さんの「病状の経過の考察」に興味がある場合が多く、「病状の経過を振り返る行為自体」には、相対的には興味が薄いことが一般的なのかもしれません。
当院の規模とデスカンファレンスの頻度は?
当院の小児科は、3次救急といって一番重症度が高い患者さんを受け入れている病院です。
3次救急とは何かについてはWikipediaからの引用を載せています。
こちらの引用を見て頂けると、当院の小児科で受け入れている患者さんの重症度が高いことが分かります。
初期救急(1次救急)とは、入院や手術を伴わない医療であり、休日夜間急患センターや在宅当番医などによって行われる。
2次救急とは、入院や手術を要する症例に対する医療であり、いくつかの病院が当番日を決めて救急医療を行う病院群輪番制や、共同利用型病院方式がある。
3次救急とは、2次救急まででは対応できない重篤な疾患や多発外傷に対する医療であり、救命救急センターや高度救命救急センターがこれにあたる。
Wikipediaより
しかし、重症な患者さんを受け入れていると言っても、そのまま受け入れた患者さんが亡くなるわけではありません。
重症な患者さんを助けるために、我々が働いているわけですし。
そんなわけで、たとえ3次救急を受け入れていると言っても、超有名な救急病院や大学病院ではないこともあり、当院でお子さんが亡くなるケースはすごく多いわけではありません。
当院でも年間10人は行かないのではないかと思います。
それらの患者さん1人1人についてデスカンファレンスを行っているので、感覚でいうと月に0回~2回くらい行っている印象です。
当院でのデスカンファレンス、どんなスタイルで行っているの?
誰が参加するの?
当院では、亡くなったお子さんに関わった人達、なるべく全員に声がかかります。
ですから亡くなるまでの経過が短い場合は、医師だけという事もあります。
例えば、心肺停止のため救急外来に搬送されたが、治療が上手く行かず亡くなるといったケースだと、ほぼ医師しか関わらないパターンになります。
逆に、長い闘病生活の末亡くなったお子さんの場合は、色々な人が関わります。結果、多種多様な職種がデスカンファレンスに参加することになります。
医師も小児科医だけではなく手術を担当する外科医も参加してくれますし、看護師さんはもちろんのこと、薬剤師さん、リハビリの先生、ソーシャルワーカーさん、心理士さんなどなど・・・。
どんな流れで進行するの?
一番かかわった医師が、はじめに患者さんの経過をプレゼンテーションし、まず治療方針について話し合います。
当院は、チーム制で子ども達を見ているので、患者さん1人に数人の医師がチームとして対応しています。その主治医チームの一人がプレゼンをするわけです。
長い経過の中で、治療方針で議論になった点だったり、他のチームのDr.から見て疑問に映った選択だったりが、Dr.を中心に議論されます。
一通り話が終わると、今後は看護師さんの順番です。
一番かかわった看護師さんが、患者さんの経過をプレゼンテーションして、その患者さんについて困ったことや、感じたことなどについて話し合います。
看護師さんの方は、患者さんのお子さんに関わるのはその日その日で色々変わるのですが、経過が長い場合には、primary nurse(プライマリーナース)という名前で、一番その子の情報を持つナースが選定されます。
デスカンファレンスでプレゼンを行う看護師さんはプライマリーナースであることがほとんどです。
看護師さんサイドの検討では、亡くなったお子さんに日々行っていたケアの内容がどうだったかという事から、医師との連携の中で困っていたことなども検討されます。
お母さん・お父さんを含めた家族が、子どもの死に立ち会うにあたって、事前に十分な配慮がとれていたかと言ったシビアな内容も話し合われます。
医師・看護師が、同じ患者さんの経過をプレゼンテーションするわけですが、視点が全く違うため、二つのプレゼンテーションは内容が全く異なるものになる点は、本当に興味深いです。
医師、看護師は同じ医療の場で働いていますが、子どもを見ているベクトルが違うんでしょうね。
個人的にはベクトルが違うことはとても良いことだと思います。医師が見えていないことを看護師は見ていて、逆に看護師が見えていないことを医師が見ている。
バランスがとれた医療を提供する上では、この相補的で補完的な関係がベストなんだろうと思います。
デスカンファレンスの大事なルール
当院のデスカンファレンスのルールは、「建設的な意見交換」です。
患者さんを失って悲しんでいるのは、家族はもちろんのこと、ずっと関わってきた医療者はみんな同じです。
デスカンファレンスでは、ミスの批判大会、魔女裁判にならないように、冷静に話し合うこと。お互いに傷つけあうようなことはしない、というのが当院のデスカンファレンスの基本の「き」です。
ただ、傷の舐めあいではそれも意味がありません。
ミスはミスとしっかり認める。足らなかったことは足らなかったこととして、しっかり事実と向き合う。その上で、建設的な改善策を練る。
こういったことを目標に話し合いをします。
なので、僕自身も当事者になった時には・・・デスカンファレンス、とてもしんどかった記憶があります。
でも、デスカンファレンス、話し合う内容が内容なだけに、盛り上がってしまうと、中には批判をしだす人が出てくることがあります。
そういった人を上手くなだめて、問題点を論理的に噛みくだき、建設的な話し合いにする、キーマンになる人がいます。
それは、会議の進行役の医師(ファシリテーターといいます)です。
批判をしだす人すらも大事にして、
・何が困ったことだったのかを抽出。
・その原因は何なのか。
・次はどうやったらそれを防ぐことができるのか。
・具体的な策はあるのか。策があるなら、明日からでも変えてみよう。
といった流れで、上手くデスカンファレンスを導いていきます。
当院のデスカンファレンスでは、ファシリテーターをする先生が非常に上手いこと、
参加者も批判ではなく建設的に意見交換をするというスタンスで参加する人がほとんどなので、ほとんど炎上することなく開催されています。
デスカンファレンスからは、何が得られているの?
得られていることは、たくさんありますがまとめるならば3つに集約されるでしょう。
不足していたことやミスを見つけて、繰り返さないように方策を練ることができる
前にも書いていることですが、一番の理由はこれですね。亡くなったお子さんの経過から、何か問題となることが出てきた場合に、それを分析して、対策を練っておくことです。
亡くなったお子さんから得られた知見をみんなで共有する
これも非常に大事です。亡くなったお子さんの経過を聞いたり、議論することで知識や経験を医療者の間で共有できます。
実際亡くなるお子さんは、医者や看護師だけでなく医療者に本当にたくさんの経験や知識をくれます。また、患者さんが重症になると、医師も看護師も必死で論文や教科書で勉強します。言い方が間違っているかもしれませんが、亡くなったお子さんが医療者に対して貴重な学習の機会を与えてくれた、とも言えると思います。
そういった経験や知識を主治医チームだけのものにしておいては宝の持ち腐れです。
デスカンファレンスを通じて当院の医療者に経験・知識が共有されれば、次に似たようなお子さんが来院されたときには、必ず役立つはずです。
医療者のメンタルコントロールの機会になる
患者さんを失ったことで、医療者も精神に傷を負うことがあります。
特に常に最前線にいる看護師さんが精神的なダメージは大きいと思うのですが、
医療者の不安だったこと、辛かったことをカンファレンスで言語化することで、気持ちを整理し、前を向くきっかけになります。
まとめ~Dr.アシュアが思う当院のデスカンファレンスの一番いい所~
今回は、当院で行っている亡くなったお子さんの経過を振り返るデスカンファレンスについて話をしてきました。
亡くなったお子さんからもらった多くのことを最大限生かし、次に繋げるために、デスカンファレンスはとても意義が深いものだと考えています。
最後に、当院でのデスカンファレンスの一番いい所を書いておきたいと思います。
それは、デスカンファレンスに多種多様な職種が参加していることです。
繰り返しになりますが、どうしても医師だけのデスカンファレンスになってしまうと、治療方針のことに話が終始してしまいます。
「あの時この治療方針をこうしていたら…」
「この子は、この治療をやっていたけど、本当は別の治療が良かったのではないか」
「状態が悪くなってきたあの時に早く気付けたら…」
看護師さんや心理士さんがデスカンファレンスに入ることで、医師の自分が気付いていなかったそのお子さんを取り巻く家族の問題の話が出てきたりして、ハッと驚くことがあります。
「主治医なのに知らなかった…」という気持ちで、顔が真っ赤になることも。
看護師さん・心理士さん達は、ふとした時の母親の不安な表情や、父がこぼした辛さ…などに、いつも気を配り、それらに寄り添おうとしてくれています。
その結果、医師が気付けないこと、取ることが出来ない情報を沢山持っています。
薬剤師さん、リハビリの先生、ソーシャルワーカーさんは、看護師さんすら気付きもしないようなお子さんやご家族の側面に気づいていたりすることが実際あります。
僕は、デスカンファレンスに参加し様々な職種の人の話を聞くことで、
「医療がこどもの治療だけではないこと」
「医療はチームワークであり、医師だけで出来ることは限られている」
ことを学びましたし、毎回それに気づかされています。
そういった意味で、当院のデスカンファレンスはとても意味があり、重症なお子さんを見ていく上で、医療チームの血の循環を潤滑にするために必須なものであると考えています。