こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第24・25話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。
「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。
漫画の情報については公式HPをご覧ください。
原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。
第1~2集も発売され好評のようです!
前回のお話では、主人公の鈴懸真心先生が改めて北広島市総合医療センターの小児科医として“就職”したところが描かれていました。東京で一緒に働いていた後輩小児科医”ナベ君”も、なんと真心先生を追って北海道の同じ病院まで来てしまいました(笑)
新章となり、新しいお話が始まっていきそうでしたが…まだ新しい病気のお話が出て来たりはなく( ノД`)シクシク…、今回も24話、25話のストーリー解説がメインになりそうです。
それでは、見ていきましょう。
スポンサーリンク
第24・25話のあらすじ
改めて北広島市総合医療センターに就職した主人公の真心先生は、以前から診ている骨髄性白血病の天才ピアニストともりんの病室に回診に来ていました。
ともりんは抗がん剤の副作用である”脱毛”がかなり進んできていて戸惑っている様子。
真心先生は、全身の毛が抜けてしまうけれど、いずれまたしっかり毛は生えてくること、ヘアドネーションというかつらを無料で提供する活動があることなどを話して、元気づけます。真心先生は自分の髪の毛をかつらのために提供したこともあったようです。
ともりんは「なんでそんなに良い人なの?」と問い、真心先生は「死んだ母さんの経緯もあったし。なにか少しでもできないかなって」と答えるのでした。
真心先生はともりんに脱毛だけではなく、好中球減少症という副作用が生じていて気を付けてみていく必要があることを告げるのでした。
病室を通りがかったマコ先生の兄の英樹先生は、そんな真心先生の話を偶然に聞いてしまうのですが、父から声をかけられ我に返ります。以前北広島市総合医療センターから転院した”もやもや病の患者さん”から、お礼の手紙をもらったとの知らせでした。
手術かと思われたもやもや病の莉乃ちゃんは、まずは薬で治療することになったとのことでした。英樹先生が宛名を見ると、なんとそこには病状説明をした自分の名前はなく、「鈴懸真心 様」と書いてあったのでした。
英樹先生は父:吾郎先生に「小児医療において患者の心のケアは重要だが、どこまで医師が関わるかは線引きが必要だ」と話します。「どうしてそう思う?」と返す父に対し、「医師も人間だから、感情移入しすぎると、患者が亡くなった時にメンタルに多大な影響がでる。しかし患者は次から次に来るわけで、医師には泣いている時間はない。結局のところ小児科医の真の目的は、心を治すことではなく、病気を治すこと。そうすることで、医師も患者も救われる」と自分の考えを語る英樹先生。
場面は変わり、病棟。ともりんが誰かを探しています。主治医の真心先生を見つけたようですが「真心先生は”ない”・・・」と。ともりんは、チャイルドスペシャリストの青葉さんを見つけ話しかけます。どうやらともりん、悩み相談の相手を探していたようです。
”今は卒業した先輩で、昔ともりんが好きだと告白した先輩からメールが来た。まだ告白の返事をもらっていなかったから、もしかすると告白の返事かもしれない。やりとりして自分の病気のことが知られたら、先輩にNOと言われたら病気のせいって思うし、YESでも同情されたって思ってしまう”
どうやらともりんは、1人でメールを確認することができなかったとのこと。青葉さんは、やさしくトモリンを励まし、トモリンは勇気をだしてメールを見るのでした。するとそこには「入院したって聞いたから心配です。連絡ください」とだけ。
恥ずかしさで赤面するともりんの青春ど真ん中の初々しい姿に青葉さん「可愛い~~食べちゃいたいわ~~」と(笑)
とりあえず病室に戻ることにしたともりん、最後に青葉さんにこういったのでした。
「私、自分が白血病って公表する。好きな人に心配かけたくないもん」
…また場面が切り替わり、ナースステーション。真心先生とナベ先生が話していると、なんと、英樹先生が話しかけてきたようです。
「木田朋美ちゃんのカルテ・・・見せてくれるか?」
東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第24・25話より
前のお話で出てきたもやもや病の莉乃ちゃんの親御さんから、真心先生へお手紙が来ていたようですね。病状説明をした兄:英樹先生としてはちょっと複雑だったでしょうね。。
こういった感謝のお手紙とかは、成人の領域の医師にも届く事はあると思います。
でも、こどもが直筆で頑張って書いたお手紙や、治療に関わったお子さんが今年は何歳になりました~みたいな年賀状とかは、やっぱり小児科だけだと思うんですよね!!無茶苦茶ウレシイです。手書きの絵とかあると、病棟で医師・看護師みんなで読んだりして飛び上がって喜んでいます。
あーあの時治療大変だったけど頑張ってよかったな~、すごく大きくなったよなぁ~、自分の仕事はこういう子ども達の未来を創る仕事なんだな~って思ったりして、ちょっとだけ涙ぐんだりして(笑)
日々大変なこともありますが、小児科医。いい仕事ですよ。
Dr.アシュア的に気になったことについて
小児医療についても心のケアは大事。だけど、どこまで医師が患者の心のケアに関わるかは線引きが必要。
というのは主人公の兄・英樹先生の言葉でしたが、これは本当に難しい問題です。
前の投稿でも書いたことがありましたが、自分も子ども病院時代に医局で隣の席の小児精神科医の先生に「患者さんに近すぎる。全く小児科医は…」的なことを良く言われていました。プロとして、一定の距離感をもって冷静に仕事しなきゃダメだよという話を良くされた記憶がありますが、自分も今ではすでに10年以上も小児科医を続けているので、わかる部分もあります。
長く小児科医をやっていると、いくらこっちが治療を頑張っても良くならない患者さんが必ず出てきます。患者さんや家族の心に寄り添いすぎると、お子さんを家族のように考えて治療することになるわけですが、どう頑張っても良くならない患者さんを”そういう気持ち”で診療し続けると、最終的に医師はどうなるでしょうか。
医師の心が壊れるんですよね。これは英樹先生の言っている通りだと思います。そうなってしまった医師も現実にいますし、実際に自分もそうなりかけた経験があります。自分はなんとかつぶれず復活して、そういった経験の中で、患者さん・患者さんのご家族とどれくらいの距離感で仕事すれば大丈夫かというのを学びました。
もしかすると、英樹先生は過去に相当辛い経験があったのかもしれませんね、それでそういう結論に至ったと。弟の真心先生が、患者に近すぎる診療をしているのを危険に思っていて、真心先生がどこかで壊れてしまうんじゃないかと心配して、小言を言っているのかもしれませんね。
話は変わりますが、今回はともりん、チャイルドスペシャリストの女性の青葉さんに恋の相談をしていましたね。はじめに真心先生には相談できないと思ったみたいですが、慢性疾患の患者さんにはこんな感じで色々な人が関わってあげるのが理想ですよね~。何でもかんでも医師に相談するっていうのは、やっぱりさっきの話にもつながりますけど、近すぎる関係で良くないようにも感じます。
自分も小児科の中で内分泌といってホルモン領域を扱っているため、思春期の女児の診療を多く行っています。男性医師でイケメンでもない自分に、思春期女子が色んな悩みを全部相談してくれるわけがなく(むしろ相談されても困りますが)、その辺りは心理士さんにかな~り助けてもらって診療をしています。そういう意味でも、今回のお話は「そうだよね~、そういう話は医者にはできないよね~」と思いながら読んでいました。
ともりんの骨髄性白血病とは違いますが、慢性疾患という意味では、Dr.アシュアは1型糖尿病を良く診療しています。1型糖尿病は今はまだ不治の病で、医師として長~くかかわることになる病気なのですが、当院では1型糖尿病の診療に医師だけではなく様々な職種が関わっています。今回は「慢性疾患の患者さんに多くの職種が関わる意味」について少し書いておこうと思います。
慢性疾患の患者さんに、多くの職種が関わる意味
看護師さんには「待ち時間長いんですけど!!!」と怒っている親御さんが、診察室に入ってくると小児科医に対しては「それほど待ってないです~」とニコニコしている。
この状況、おそらくどこの小児科外来でも時々見られる風景の一つなんですが、、、。
これって「対”看護師”さんと対”医者”で態度が違う患者さんって、やーねぇ」というふうに受け止められているケースが多いと思いますが、Dr.アシュアとしては真実はそういうことではないと思っていて、
本当は「患者さんは医者にはなかなか本音は言いにくい、本音を言わないことも多い」ということなんではないかという事です。
当たり前ですが、医者は検査・治療の方針を決めたり、処方をしたりと治療のマネジメントを統括しています。
ですので、患者さん側としてはだいぶ待たされてご立腹の患者さんだったとしても、よほどお怒りでなければ診療のはじめに不満をぶちまけて医師の心証を悪くしてから診療…という形は避けたい、という気持ちが働くのではないかと思います。
むしろ患者さん側としては、基本的にはちゃんと医者と良い関係性を作ってしっかり診療してほしい!というのが本音だと思います。
Dr.アシュアが患者さんとして病院にかかる時だって、診療をしてもらう先生にはちゃんとしている所をみせて変な患者と思われないようにしないと…と自分でもちょっと頑張って診察に臨みます(笑)
では、慢性期の患者さんはどうでしょうか。
医師と関係性が出来ているから、そんな見栄を張らないで、素の自分をさらけ出してくれます!
・・・なんてことは全然なくて、自分が普段の診療をしていても「う~ん、、、家で頑張って生活している風にお話してくれるけど、、、実際検査結果や経過をみると・・・お話してくれている内容が全部本当ってことはないだろうなぁ」と思うことは多々あります。
「医者に良い所見せたい」、それで”ちょっとだけ”嘘ついちゃう ってやつです。
で「本当の事しゃべってくださいよ、本当の事教えてくれないと診療なんてできませんよ」なんて私は言うことはなくって、お話してくれたことはそのように受け取って、診療します。むしろ、そういう”見栄”ってある程度大事だと思ってたりします。
いいじゃないですか、その見栄があるのとないのとは大きな違いです。
医者に良い所見せたい、は自分の治療を頑張りたいという所にもつながる気持ちですから。
でも、本当の事がわからないと診療面では困るなぁという気持ちも確かにあって、Dr.アシュアとしてはそこを色々な他の職種の方々に頼っています。ここがまさに、慢性疾患の患者さんに多くの職種が関わる意味、です。
当院では、1型糖尿病の患者さんなら、看護師さんをはじめ栄養士さんや心理士さんなどの複数の職種が関わります。
思春期女子の患者さんでDr.アシュアが”本音の情報”を取れなくても、看護師さんや栄養士さんが情報を取ってくれたり、心理士さんが友人のような関係性を作ってくれて本音を聞き出してくれたりするんですね。特に心理士さんのコミュ力には、Dr.アシュアとても敵いません。。
そして、月1回の患者さんのカンファレンス(会議)などで関わってくれている職種の皆さんで情報共有をすることでDr.アシュアに情報を集めてくれれば、たとえ自分で本音が聞き出せなくとも、患者さんの情報は十分私に集まり、有効な診療方針を立てることが出来たりするんですよね。
まさに医者にできる事なんて大したことないですよって話です。
これはさらに、上で既に書いた”小児科医と患者の距離感”にも通ずる所でもあります。小児科医が家族のように患者さんと関わって何でもかんでも情報を取らなくても、チームとして関わることで、個人プレイで頑張る以上に有効に患者さんと関わることができると思います。
その際、何が一番大事かというと、ただただ多数の医療職の人が関わることではなくて、多数の医療職が関わりつつも皆で情報共有して、”患者さんのために何ができるか”という視点でみんながつながることです。そのためには、医師は医師、看護師は看護師ではなくて、垣根を低くして共通の目的の元に協力するという考え方が大切なんですが、大きい病院になればなるほどこの辺が難しかったりします。
”プラタナスの実”のお話に戻りますが、今回ともりんの悩み相談として主治医の真心先生ではなく、チャイルドスペシャリストの青葉さんが選ばれたのは、とても意味があることだなぁと感じました。メンタルケアとして真心先生が出来ない所を、青葉さんが上手くサポートしたという形になっていますし、まさにチームダイナミクスだなぁと感じました。
最後に
今回も、またまたストーリー解説がメインでした。
急性骨髄性白血病のともりん、大好きな先輩からのメールでドキドキ…、病名を伝えるかどうかでマゴマゴ…といった所で、甘酸っぱい青春な感じのお話でしたね。ですが最後のところで、ともりんのカルテを確認したい主人公の兄:英樹先生が、真心先生に話しかけていましたね。。
英樹先生は小児外科医ですし、小児科医真心先生の治療方針に直接イチャモンつけるようなことはさすがに無いような気がしますけども、、、なんらかのイザコザが起きるような気がしなくもないです。次回、何が起きるんでしょうかね~。
次回も注目していきたいですね。
追記
プラタナスの実 1巻・2巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。
色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。