こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第12話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。
「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。
漫画の情報については公式HPをご覧ください。
原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。
第11話では、新たに場面が変わって医療センターによることもあるタクシーの運転手さんのご家族のお話が始まりました。
タクシードライバーとして優秀なご主人「内村健二さん」、奥さんの「佳苗さん」、お子さんの「豊太くん」の3人家族です。
前回のお話では、仕事を頑張るご主人と、奥さんがすれ違う日々が描かれていました。
そしてある日、買い物から帰る途中の奥さんの佳苗さんが豊太くんから少し目を離したすきに、豊太くんは車道に飛び出してしまいました!
豊太くんはどうなってしまうのでしょうか…。お話を読むのが怖かったです。。
それでは見ていきましょう!
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目次
第12話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて
前回、車道に車を追いかけて飛び出してしまった豊太(とよた)くんは、あわや大事故という所でしたが、車が急停止してくれたお陰で擦り傷一つなく事なきを得ました。奥さんの佳苗さんは、心配からか豊太くんをぶってしまい、強い言葉をかけてしまいます。
ある日、夜勤明けで帰宅したご主人健二さんが、出迎えてくれた豊太くんに「天気もいいから公園に行こうか」と声かけます。
とても喜ぶ豊太くん。
しかし以前の”道路飛び出しの件”もあるのか、奥さんの佳苗さんは、「外に連れ出すのはダメ」と強く拒否します。健二さん曰く、豊太くんをずっと外で遊ばせていない様子。健二さんと佳苗さんはまた意見が対立してしまいます。
健二さんは、自分と奥さんが子育てのことですれ違っていることを気に病んでいました。今回も同じ…。とあきらめず健二さんは奥さんに切り出します、「・・・話がある」と。
健二さんは、仕事を夜勤から日勤に変えて子育てを手伝いたいと話し始めます。しかし、奥さんは子育ては自分がする、私立の小学校や習い事のこともあるし夜勤から日勤に変えて給料が下がると困ると。結局二人の考え方はまたまた真っ向から対立してしまいます。
言い合いをしても結論がでないまま、健二さんはもう寝ると言って自分の部屋へ行こうとします。
すると、そこには目を開けてけいれんする豊太くんの姿が!!!
東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第12話より
・・・とりあえず、、、とりあえず、、、車の事故にならなくてよかった・・・。
前の話の最後のページの感じだと、向かってきた車はランドクルーザー的なタイヤが大きくて車高が高そうな車でしたし、もし接触していたら頭部をガツンといく形になりそうで、そうなっていたら死亡事故の可能性も大いにあるのでは?と、Dr.アシュア的にはかなり心配していました。
豊太くんは2歳過ぎで自分の好きなものにまっすぐ突っ込んでいく年齢ですよね。うちの息子たちもそうでした。
2歳過ぎってまだまだ目が離せない時期です。
この時期は広い所で遊ばせるのは良いですけれど、道路を歩いたりするのはちょっと気を使います。
言葉が理解出来ていて家の中では指示が上手く入っても、外に出て色々興味を惹かれるものがあると途端にパパママの言葉が聞こえなくなってしまったり、お友達の中に入ったのをきっかけにパパママの言葉が届かなくなってしまったりと、あるよね…あるある…って感じです。
だからママの佳苗さんが道路に飛び出して事故に遭いかけた豊太くんを強く叱ったことについては、仕方なかろうという気持ちになりました。ぶってしまったことはいけないことだと思いますが、自分が同じ立場になったとしてもかなり強い言葉で叱ると思いました。
「自分を傷つける行為」「他人を傷つける行為」についてはやはり短く明確に叱るべきだと思います。
とは言え、なかなか2歳位のお子さんにその行為の危険性について、言葉で上手に伝えるのは難しいですよね。
うちの3男子はもう少し大きい年齢ですが、なにせ男の子が3人も集まると喧嘩が絶えず、私も小児科医とはいえ一人間ですし父親ですから子どもを叱ることも時々?…よく、あります。
でもいつも叱った後、自分で反省してしまいますね。自己満足で自分の感情で叱ってしまったなぁとか、ちゃんと伝わるように叱れなかったなぁ…という感じで、しょぼんとなることが今でも多いです。
これはエビデンスとかではなくて、Dr.アシュアはこうしていますという話なんですが、子どもを叱る時はこういったことを気にしています。
Dr.アシュアが子どもを叱る時に気を付けていること
・叱るなら、なるべくすぐにしかる=後で思い出したように叱るのはNG
・年齢が大きい子なら、お友達みんなの前で叱らないようにする。
・本人の人格を否定するような言い方を避ける
「× ~をするキミはダメな子だ、~をするキミはひどい子だ」
「〇 ~をすることはダメだ。~をすることはひどいからやめよう。」
・本人のことを一番大事に想っていることを伝える
そういった意味では、佳苗さんの怒り方は全部悪いわけではないと思いました。
すぐに叱ってるし、本人の視線に自分の視線を落として叱ってるし、明確に「行為」のことをしかってるし。
まあ「次同じことをしたら許さない!」はちょっと言いすぎかな…とは思いましたが。
そして、旦那さんの健二さんと奥さんの佳苗さんの育児のスタンスが違いすぎるようですね…これはキツイ。
簡単に言えば、旦那さんは「子どもは子どもらしく自然に派」、奥さんは「子どものころから学力つけて将来の選択の幅を広げてあげたい派」。
Dr.アシュア家は、3人子どもがいて一番下が自閉症(軽度ですが)で、私が小児科医で当直などもあり居ない時間も多く、奥さんはワンオペで3人育てているパワフルママです。
必然的に3人を個別で色々と手をかけ育てる時間的余裕もなくマンパワーもありませんから、ある程度なるようにしかならないよねという半ば自暴自棄な子育て方針でやっております。そのあたりは奥さんとしっかり共有できているので、逆にそれほど揉めません(笑)
話を戻しましょう。
言い合いになってしまった健二さん、佳苗さん。自室へ戻ろうとする健二さんは、豊太くんが目を見開いてけいれんしているのを発見します。これは・・・色々と考察することがありそうですね。
「ブルブルふるえる我が子」をはじめて発見した時、親はどうする?
今回のお話の最後で、豊太くんは部屋の床の上にあおむけになっていて、まっすぐ前を向いて、全身をガクガク言わせて横になっていました。
小児科医なら、この動きは「けいれん」なのか、「悪寒」なのか、「ミオクローヌス」なのか、とか色々と考えられると思うのですが…
おそらく世のお父さんお母さんは、突然我が子がこんな状態になっているのを発見したら
「ヤバい!!うちの子が大変なことになってる!!死んじゃうかもしれない!!」とパニックになると思います。
けいれん、けいれんに類する動きは、日常生活ではあまり目にすることはない動きなので、その異様な様子や顔色などから気が動転したり、恐怖を感じてしまうのは、仕方がないと思います。
ちなみに、けいれんって話に聞くけど見たことない…どんなものをけいれんって言うんだろう、というお父さんお母さんもいるのでは?と思ったので、前にブログに投稿したものを供覧しておきます。小児科医がけいれんをけいれんと認知する時、どこを見て判断しているのかをまとめたものです。
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こどもが初めて痙攣しました!という話を医者は信じません その①
こんにちはDr.アシュアです。今回は病院のカンファレンスで出てきた話題をもとに記事を書いてみることにしました。 いわゆる「こどもがはじめてけいれんしました!」と言って親がこどもを連れて病院を受診すると ...
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前にTwitterでも書きましたが、けいれん、けいれんに類する動きに関しては、救急車呼んで良いと思います。個人的な見解ですが。
例えば、子どもに多く良性な経過をとる熱性けいれんでも、最近では5分以上続いたら重積(じゅうせき)といって重症度のランクを上げることになっています。救急車を呼んで病院につく間にけいれんが止まって、病院につく頃には元気になっていれば、それはそれで小児科医としては安心します。そして、もしけいれんが止まらず病院に到着したのなら、それはそれで最速で病院に着いたことになるわけで小児科医としてはありがたいです。
やはり、けいれんかも!とご家族が感じたときは、本物・偽物どちらにせよ小児科医的には早めに病院に来てほしいです。その手段として救急車というのは、私はアリだと思います。
豊太くんの「けいれん(と思われる動き)」の原因は何か?
一般的に、子どものけいれんは熱があるかないかで大きく分けられます。
2歳過ぎで熱ありけいれんなら、一番多いのは感染症による発熱からの熱性けいれんです。
けいれんが止まりにくいものの中には、インフルエンザ脳症みたいな重症疾患や、今ではほとんど見ない細菌性髄膜炎といったものも鑑別に挙がります。
熱がないけいれんなら、かなり色々な可能性の疾患があり、ここには書ききれないくらいです。
無熱けいれんの代表疾患の“てんかん”をはじめ、イオンの乱れによって起こるもの(低ナトリウム血症、低Ca血症)、低血糖によって起こるもの、外傷によって頭の中で出血している、実は頭の中に腫瘍がある、何らかの薬でおこる中毒、代謝異常などなど・・・・挙げ始めたらきりがありません。
しかし、前回・今回のお話のキーワードを拾い、患者さんの背景の情報を考えると、豊太くんのけいれんの原因が分かる気がしてきました。
けいれんの原因を考えるためのキーワード・背景はこれ
キーワード:
・豊太くんは、2歳を過ぎても母乳を飲んでいる
・豊太くんは、外遊びをほとんどしていない
お話の背景:
・豊太くんが住んでいる所が北海道である
・今の季節は冬である
小児科医をやっている人なら、ピンと来たはず。
・・・そうです、ビタミンD欠乏性の低カルシウム血症です。
これは自分の専門領域である内分泌関連の疾患でもあるので、流石に見落とさないですねぇ。豊太くんが、自動車事故で頭部外傷をおっていれば話が少し複雑になったかもしれませんが、おそらく低カルシウム血症によるけいれんではないでしょうか。
ちょっと解説していきましょう。
ビタミンD欠乏性低カルシウム血症については、小児内分泌学会から診療ガイドラインも出されている一応メジャーな疾患の一つです。
ガイドラインから一部抜粋したものを紹介します。原文はこちら
<ビタミン D 欠乏症罹患のリスクが高い因子>
・完全母乳栄養
・母親のビタミン D 欠乏
・食事制限(アレルギー、偏食、菜食主義等)
・慢性下痢
・日光曝露不足(外出制限、紫外線カットクリームの使用、冬期、高緯度等)
・早産児
・胆汁うっ滞性疾患
ビタミンD欠乏性くる病・低カルシウム血症の診断の手引きより~一部改変
まず、前回の投稿でも書いていたように、母乳は人工乳と比較して、鉄分・ビタミンDの含有量が少ないです。豊太くんの食事量がどうだったかは分かりませんが、母乳を沢山飲んでいて、食事をそれほど食べていなかったりすると、食事からのビタミンDの補充が不足していた可能性があります。
また、我々の体のビタミンDは、食事から得られるものだけではなく、皮膚で合成されるものも重要です。そのためには直射日光を浴びることが必要です。外遊びの時間がかなり少なかった豊太くんは、皮膚からのビタミンDの合成量が少なかった可能性があります。
そして、ビタミンDを十分な量生み出すためにどれくらい日光を浴びたらよいかは、緯度と季節によって異なります。緯度が高いほど、そして夏より冬ほど、長時間の日光浴が必要になります。つまり、日本の中では北海道で季節が冬というのは、もうそれだけでビタミンDの産生という点では不利になります。
お話の節々に、ビタミンD欠乏のリスクがちりばめられていることが分かりますね。
最後に 低カルシウム血症のけいれんの怖さ
当たり前ではありますが、低カルシウム血症によるけいれんは、低カルシウムが見つかり、それが治療されなければ止まりません。
実際、いざけいれんで病院へ救急車で運び込まれたときには、両親が診断のための情報を整理して教えてくれるわけではありません。そして、救急室にはけいれんしている子どもだけがいるわけで、両親は「処置が終わるまでこちらでお待ちください」とか言われて別室に案内されるわけです。
「けいれんだ!」となって点滴・採血をして抗けいれん薬を投与すれば、けいれんは止まるのでみんなホッと一息つくでしょうけれど、採血を正確に評価し原因を見つけ治療しなければ当然カルシウムはまだ低いままです。そうなると、患者さんはすぐにまたけいれんしてしまうでしょう。
普通の小児科の訓練を受けてきた医師なら、けいれんの鑑別診断として低カルシウム血症を見逃すことはまずないと思いますが、低カルシウム血症の原因としてビタミンD欠乏症まで診断を詰めるためには、本人を綿密に診察し、家族から適切に情報収集をする必要があります。
やはり、診療する小児科医の経験と練度が試されるのではないかな、と思います。
主人公の小児科医「鈴懸真心」先生は、適切に豊太くんのけいれんの診断と治療ができるのでしょうか。次回も楽しみですね。
今回は以上となります。
追記
2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。
色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。