こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第7・8話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。
「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。
漫画の情報については公式HPをご覧ください。
東元先生にも企画について許可頂いており「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。
今回も7話・8話をまとめて投稿させて頂くこととしました。
第6話で、天才ピアニストのともりんと出会ったマコ先生は、ともりんに潜んでいるかもしれない病魔に気づきました。
第7・8話でその病気が「骨髄性白血病」であったことがわかり動揺するともりん。マコ先生は、ともりんとその家族の治療に寄り添うために、北広島市総合医療センターの小児科医になることを決意します。
それでは見ていきましょう!
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目次
第7・8話のあらすじと「小児科医と患者の距離感」について
ワールドツアーを控えた天才ピアニストともりんは、マコ先生と偶然出会ったことをきっかけに、顔色が悪くすぐ疲れてしまう症状が血液のガン「骨髄性白血病」という病気であると診断されます。
しかしそれは、ともりんが抗がん剤治療、長期入院を含めた闘病生活を開始しなければいけないことを意味しており、当然予定されていたワールドツアーは中止せざるを得ないことになります。
ピアノが命より大事、せっかくピアニストとしてのスタートに立っていたのにと落胆するともりんは「あなたと出会わなければ病気が早く見つかることはなかった、何か月も入院することで自分のピアノが消えてしまう」とマコ先生に迫ります。
マコ先生は、自分が母を同じ病気で亡くしていて、その母が出来なかった分子ども達を救うために小児科医になったことを語り、ともりんの病気は早期治療をして治すことができれば夢もつかめる、医師として今ともりんを家に帰すことはできない、と伝えます。
しかし、ともりんは北広島市総合医療センターの医師ではないマコ先生に「所詮他人事でしょ…」と返します。
するとマコ先生はともりんに伝えます。
「自分が北広島市総合医療センターの小児科医になり、ともりんと家族の担当医になる」と。
東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第7・8話より~
マコ先生、やはりお父さんの病院「北広島市総合医療センター」の小児科に就職することになりましたね!自分がファンである天才ピアニストの骨髄性白血病を治療するため。そして、その病気は自分の母の命を奪った病気でした。
今回のお話の中で、Dr.アシュア的にグッときたポイントは「病気が治るまでではなく、ともりんが復帰できる時まで全力で支える」という言葉でした。
すごく良い言葉で、私自身も病気を治すだけではなくて、その子どもの生活が望ましい形になることを目指して仕事をしているので、とても共感しました!
しかし同時に昔知り合いの児童精神科のドクターに時々言われていたことを思い出しました。それは「小児科医は患者と距離が近すぎる」「患者さんのメンタルの問題に関わりすぎて自分のメンタルを壊す小児科医が多いから、心の距離感はよく考えた方がいい」といった内容でした。
これは私も気を付けていることで、やはり沢山患者さんを見れば見るほど、上手く行く患者さんのことよりも、上手く行かない患者さんや家庭に問題がある患者さんのことが心のしこりみたいにだんだん自分の中に蓄積していくんですよね。若いころは、それで自分が精神的に追い詰められてしまったりしたこともありました…。
マコ先生も患者さんとの心の距離がすごく近い先生ですよね…。ともりんの治療が上手く行ってくれれば、皆ハッピーで良いのだと思いますが、そうでない未来だって可能性としてはあります。仮にともりんの治療が上手く行かず、残念ながらともりんの未来の光が消えることだってありえるわけです。そういったときにマコ先生は、ともりんと一緒に打ちひしがれていれるわけではないんですよね…だってマコ先生を待っている他の患者さんもいるわけですから。
私はそういうことを考えてしまうので、必要以上にぐっとプライベートなところまで踏み込めないな~と思ってしまいますが、マコ先生、相当ぐいぐい行っちゃう小児科医のようです。
…でも、そういう小児科医、私は好きだなー。
もしマコ先生と一緒に働いてたら、ぐいぐい行っちゃうマコ先生は、ちょっと危うげですけど魅力的で眩しく映りますね。もしマコ先生が落ち込むようなことがあったら、一緒にラーメン食べに行きたいですね(今はコロナ禍だからだめですが)。
ともりんの病気は「骨髄性白血病」だった!
ともりんの病気は、奇しくもアシュアが予想した通り白血病でした。
白血病は、前の投稿でも書いたとおり血液のガンです。
血液の工場である骨髄の中で白血病のガン細胞が異常増殖することで、骨髄の機能である「血液を作る機能」が正常に行えなくなります。その結果、赤血球の減少=貧血、血小板の減少=易出血性(身に覚えのないアザが増える、歯肉出血・鼻血が何度もでる)といった症状が起こります。
マコ先生はその辺りの症状を正確にとらえ、お父さんが働く「北広島市総合医療センター小児科」へともりんを連れていき、そこで診断のための検査「骨髄検査」を行い、見事に確定診断を下すことが出来ました。
この骨髄の検査、内容もさることながら、実は様々な専門家が関わる検査であることから、一般の小児科クリニックレベルではまずできません。漫画の中では、骨髄検査については深くは触れられていなかったので、今回は、骨髄検査について少し触れておこうと思いました。
白血病を診断するために必要な検査、「骨髄穿刺」って何?
骨髄検査は、骨髄穿刺・骨髄生検などありますが、白血病を疑ってはじめに行うのは骨髄穿刺です。
これは、字の通り「骨に針を刺して骨の中にある骨髄液をとってくる」検査です。
骨に針を刺さなければいけないので、普通の血液検査で使うような細い針では難しく、通称マルク針と呼ばれるかなり太い針を使います。
医者は針の根本部分を手の平で支えて、固い骨を突き破るためにねじ込むように針を刺していきます。自分がやられる姿を想像すると身の毛もよだつ検査ですよね・・・。
もちろん子どもの場合は眠らせて(鎮静)、痛みをとって(鎮痛)検査をしますが、すでに検査に慣れているお兄さん・お姉さんや大人の場合は、痛み止めは使ったとしても起きたままで検査をすることも多いです。
さらに、鎮静・鎮痛する場合は、副作用で嘔吐してしまったりすると危険なので空腹時に検査を行うことが必要になります。
つまり検査の時間を調整したり、お食事をお休みしたりということが挟まってくるわけで「検査したいからすぐしましょう」という訳にはいきません。
骨の中まで針が到達したら、針の穴にもともと入っている内筒(ないとう)と言われる部分を抜いて、注射器をつけて吸引することで骨髄液が採取できます。
この「注射器をつけて吸引する瞬間」は実はすごく不快らしく、骨髄穿刺を受けたことがある知り合いの小児科医曰く…
「注射器をつけて吸引されたその瞬間に、自分の全身が注射器にぐっと吸い込まれるような感じたことのない様な感覚」
に襲われるらしいです・・・。怖い・・・。
幸い、Dr.アシュアは骨髄穿刺を受けたことはないのでこの感覚については自らの感覚では語れません。鎮静なしで骨髄穿刺を行った方からは似たような話を聞くので、おそらく真実なのでしょうね。
私も総合病院で働く小児科専門医なので、もちろん骨髄穿刺は何度もやったことはありますが、人の骨に針を刺していく行為というのは血液検査よりも数倍抵抗があります。
びびってしまい刺す力が弱いと時間はかかるわ、上手く骨に針が刺さらないわ、鎮痛・鎮静も覚めてきてしまうわ(もちろん薬は追加しますが)でダメダメですし、思いっきりグリグリ刺すと骨が折れてしまうんじゃないかという恐怖もあるしで、どの位の”力のあんばい”で針を刺すのが適切か、熟練してくるまでは緊張する検査でしたね~。
白血病を中心とする血液関係の腫瘍を得意とする小児科では、それはもう血液検査と同じ頻度くらいで骨髄穿刺をするので、小児科医もどんどん熟練になりますが、実際はそういう病院ばかりではありません。僕が勤務している病院では、だいたい1-2か月に1回くらいの頻度でやっているような印象があります。
子どもの骨髄穿刺には、どれくらい人手がかかるのか?
いわゆる子どもの骨髄穿刺の場合は、相当沢山の医療関係者が必要になります。
骨髄穿刺で一般的に必要な医療関係者
・実際に針を刺す小児科医
・鎮静、鎮痛の薬剤投与や全身状態をみる小児科医(できれば複数名)
・薬剤の用意や子どもの体を押さえたりする役割の看護師さんが複数名
・採取できた骨髄穿刺液を処理する検査技師さん
特に体を押さえる看護師さんの役割は大きく、滞りなく検査を終えるためには医師と看護師との連携は必須です。
とってきた骨髄穿刺液は、検査技師さんがプレパラートに塗りつけて顕微鏡で見れる状態にしてくれて、さらに腫瘍細胞のあるなし、正常な血球の産生が行われている状態かどうかなどを見てくれます。
顕微鏡が見れる状態になったら、検査を行った主治医の小児科医も検査技師さんと一緒に顕微鏡をみて骨髄の状態を確認します。
だいたい検査から顕微鏡で観察できるようになるまでに半日くらいかかります。
また病理医による細胞診も行われるのですが、こちらは約2週間くらいはかかり、これが最終的な結果になります。
このように骨髄穿刺は、一般的な血液検査と比較すると手間も時間も人手もかかります。そして、検査の結果を出しそれを解釈するまでに多くの専門家が関わる検査です。
最後に
今回は、白血病の検査、骨髄穿刺について詳しくお話してみました。
「プラタナスの実」は、マコ先生が関東からいよいよ北海道に移り、天才ピアニスト ともりんと共に骨髄性白血病と戦う、といったストーリー展開になってきました!
北広島市総合医療センターは小児科は、子ども目線で沢山おもちゃもあり院内学級もありの素晴らしい小児科のようです。
大きな病院だとグランドピアノがセンターホールにあったりして、時々院内コンサートなんかが行われている所もありますから、ともりんが元気になったら北広島市総合医療センターの病院で演奏が!みたいな描写もあるのかもしれませんね!
これから治療が順調にうまく進むのか、どうなるのか…。とても気になりますね~。
次回もとても楽しみです。
追記
2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。
色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。