こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第40・41話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。
「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。
漫画の情報については公式HPをご覧ください。
原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。
第1~4集も発売され好評のようです!
前回のお話では、ネフローゼ症候群のお子さん”蓮君”が登場し、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の青葉さんと関わっていました。その青葉さん、彼氏からプロポーズされましたが、彼について千葉に転居することは、今の北広島市総合医療センターを辞めるということで悩んでいました。
以前青葉さんは、小児外科・英樹先生から、この病院にはCLSは要らないとか言われていたりしていましたし、仕事を取るのか…結婚を取るのか…。青葉さんは、いったいどんな選択をすることになるのでしょうか。
それでは、見ていきましょう。
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目次
第40・41話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて
結婚して千葉に行く=北広島市総合医療センターを辞めることになる…と、悩む青葉さんは、センター長である吾郎先生に相談しますが、吾郎先生は笑顔で喜び「青葉ちゃんの幸せを優先させて下さい。」と優しく背中を押すのでした。
場面は変わり、センター長室。吾郎先生が、小児外科医・英樹先生を自室に呼びつけたようです。吾郎先生はなんと、半ば強引に英樹先生に”青葉さんが千葉に行っても仕事を続けられるよう手伝うように”と指示をします。
その頃、青葉さんはネフローゼ症候群の蓮君のママに、蓮君が院内学級に行きたがっていることなどを丁寧に話し、勧めていました。しかし強敵の蓮君のママ、青葉さんの話に全く聞く耳を持たず、交渉はあえなく決裂してしまいます。
そんな青葉さんを見ていた英樹先生。青葉さんを病院外に連れ出し「行くんだろ?千葉に。履歴書書いてこい。新しい名字でな。」と知り合いの医療関係者に紹介してやると乱暴に伝えます。当然ながら断る青葉さん。
英樹先生は「さっきの親とのやり取りを見てたが、お前は全然できてないな。いい加減気付け。家族ごっこなんて無駄。患者の親なんて適当に合わせとけばいいんだよ。」と冷静に話し、青葉さんに「いいから履歴書を書けよ。」と再び迫ります。
涙目の青葉さんは英樹先生に反論しようとしますが、その瞬間!青葉さんの後ろから手が伸びてきて、英樹先生から履歴書をもぎ取ります!それは、、二人のやり取りに気づきやってきた真心先生でした。青葉さんをかばう真心先生をみて、英樹先生はあくまでも冷静に「この際だからはっきり言わせてもらう」と話し出します。
「CLSやりたいならこども病院にいけ。うちの病院みたいな小児科だと患者数も少なく予算もない」「医療は経営。理想ばかり並べた結果、ここは半年大赤字だ。今のままだと昔のようにまた親父が小児科をつぶすことになる」
「親父にセンター長を降りてもらって、代わりに俺が指揮をとる。その時お前はどこにいるかな。」捨て台詞を最後に英樹先生は去っていきました。
その夜…青葉さんに誘ってもらった真心先生は、二人で夜の公園でお酒を飲みながら話をします。”結婚か、仕事かどちらを選ぶか…”真心先生に相談する青葉さん。
真心先生は、自分の考えを伝えたうえで「青葉さんと父さんが作った小児科は、僕が守ります」と、青葉さんに伝えるのでした。
そして後日…。病棟を歩いていた青葉さんは、看護師長 大河原園子さんに突然話しかけられます。
「あ…青葉ちゃん、大変よ!蓮君が・・・!」
東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第40・41話より
吾郎先生は、青葉さんの結婚を素直に喜んでいる様子でしたが、、、青葉さんの千葉県での仕事先の調整をなんと英樹先生に依頼しました。しかも結構強引に。
今までの経緯で、英樹先生は、病院の経営にマイナスであるチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)に否定的な立場であることは分かっていましたから、青葉さんに英樹先生をぶつければ明らかにトラブルが起こりそうなのは目に見えているのに…。
なぜ吾郎先生はわざわざトラブルを起こさせるようなことをしたんでしょうかね??
そして、とうとう兄・英樹先生の真の目的が明らかになりました。
つぶれそうになった小児科からセンター長の父親を追い出し、かつて父が行っていたような経営中心の医療を展開していく…それが小児外科医・英樹先生の本当の目的のようです。
しかし、英樹先生の本音がどんどん出てくる回でした。
英樹先生の本音まとめ
・家族ごっこなんて無駄だ。患者の親なんて適当に合わせとけばいい。
・親なんて病院では何もできない。家族愛じゃ病気は治せない。病気を治すのは患者と病院だ。
・医療は全部数字。全部経営。点数稼いで診療報酬もらってなんぼ。
闇が…闇が深い…。
箇条書きにすると、英樹先生の考え方の尖り方がよくわかります。
真心先生への捨て台詞を見る限りでも、彼がトップになったら、反対する人物は全て排除されそう。
まぁ、人集まらないでしょうね…どんどん辞めてくよ、小児科医!
さて、病気の話はあんまり出てこなかったのですが、今回は以下の2つについて書いてみることにしました。
・親御さんの説得に失敗した、そんなときどうする??
・ネフローゼ症候群の蓮君に何か事件が起こった!?何のトラブル??
この2点について書いてみようと思います。
親御さんの説得に失敗した、そんなときどうする??
漫画の中では、CLS青葉さんがネフローゼ症候群のお子さん”蓮君”のお母さんに、本人が院内学級に行きたがっていることや、院内学級の安全性などについて、細かく説明し説得していました。
しかし、蓮君のお母さんはCLS青葉さんの話には全く聞く耳を持たず…、「余計なことしなくていいですから。」と一蹴。。。
さらに小児外科・英樹先生からは「お前は全然できてないな。」と酷いセリフでオーバーキル…。
長いこと小児科医をやっていると、こういった「親御さんを説得したいけど、全然話を聞いてもらえない、話が入らない」ことは、結構あります。そんな時、自分だったらどうするか…。ちょっと考えてみることにしました。
今回青葉さんが蓮君のママの説得に失敗したが、どうしたら良かった?
今回の漫画のケースで言えば、ネフローゼ症候群の蓮君のお母さんはなかなかの強者という印象ですが、前回の投稿でも書いた通り、落ち着いているネフローゼ症候群のお子さんに対する運動制限は必要はないはず。蓮君本人も院内学級に行きたがっているわけで、何とかしてあげたい所ですよね。
ネフローゼ症候群の蓮君は、病気が再発して前の病院から移ってきたという経緯でした。おそらく北広島市総合医療センターには、小児の腎臓疾患に詳しい先生がいるはずで(漫画の中には登場していませんが)、蓮君の主治医は真心先生の他にきっといるのでしょう。
蓮君のお母さんの心情的には主治医との関係性は良好に保っておきたいはず…。
ちょっとやり方が汚い気もしますが、蓮君の希望を叶えてあげるためには「CLS青葉さんがお母さんを説得するのではなく、主治医にお母さんの説得を依頼する」のがおそらく良い手だろうと思います。
前のお話で、CLS青葉さんは一度蓮君のお母さんと”院内での運動の件”で軽くトラブっていました。ですから、もう一度CLS青葉さんが蓮君のお母さんを説得しに行くというのは、ちょっと事前の成功率が低いですよね。
コミュ力の高そうなCLS青葉さんがそのことに気づかないはずはない、とも思うので、もしかすると蓮君の主治医の先生が個性的過ぎて、そういった頼みごとはできない感じだったのかもしれませんね。
親御さんを説得したいけど、全然話を聞いてもらえない、そんなときどうする?
…思い出すと嫌な記憶がたくさんよみがえりますが(笑)、、医学的に正しく患者さんにはとても良いことをするのに、どうしても親御さんに納得してもらえない場合には、自分も引けないので手を変え品を変え説得するしかないのですが…。
1.まずは謝る
いきなりペコリというのもあれですが(笑)…。親御さんに全然話を聞いてもらえないときはだいたい、医者とか医療側に不信を抱いていたりとか、病院の対応に不満があったりとかで、こちら側に”陰性感情”が沸いている時ではないでしょうか。
医者や医療側にも腹に一物という所はあるかもしれませんが、そこは一つ飲み込んで…、「嫌な気持ちにさせていたとしたらそれは申し訳なかったです」という一言から始めると話し合いは少しはスムーズになるかもしれません。
これが医者サイドってプライドが高い人も多かったりするもんですから、難しい人も多いんですけどね・・・(笑)
2.お腹がすいている時間に交渉しない
これは前提として当たり前かもしれません。交渉事は、お互いお腹がすいている時にするとイライラして喧嘩になりやすいので、やはり差し迫った事態でなければ”話す時間”は考えたいものです。
理想的には昼ご飯後の13時くらいとかがいいかもしれませんね。
3.相手の解釈モデルをよく理解する
”解釈モデル”というのは、”相手がある事象について、どういう理解をしているか”ということです。
簡単に言えば相手の話をよく聞く、ということなのですが、交渉事というのは、慣れていないと「とにかくこっちの要求をちゃんと伝えないと」という気持ちで焦ってしまって、しっかり親御さんの話を聞く姿勢になれないことがあります。
どうしてこちらの話が入らないのか、なぜ拒否されるのか、その理由がどこにあるのか、、、
よく親御さんの話を聞くと、背景に家庭の問題が隠れていたり、経済的な問題が隠れていたりして、解決の糸口が見えることもあります。
まず自分の要求について話すのではなく、先に親御さんがどう考えているのか、どう思っているのかを、まずはよく聞くことから始めるのがとても大事だと思います。
先に親御さんにしっかりしゃべってもらうことで、こちらも親御さんのことがよく理解できますし、親御さんも「話を聞いてもらえた」という安心感を得てくれるはずです。そのタイミングがまさに、こちらが話を始めるタイミング、なわけです。
4.人を変える
漫画で出てきたCLS青葉さんのケースもそうですが、自分だけで事態を収拾しようと奮闘し続けるのは場合によっては悪手です。
小児科医も、親も人間です。相性というのは絶対的にあって、自分がすべての親御さんと良いコミュニケーションができるというのは幻想です。
交渉事がどうしても上手くいかない場合には、身を引いて他の先生に任せたり、部長に助けを求めてもよいと思います。自分がうまくまとめられなくても、誰かにまとめてもらえれば、患者さん=お子さんにとってはそれが一番良いわけですから。
ネフローゼ症候群の蓮君に何か問題が発生した模様! どんなトラブル!?
今回のお話の最後で、看護師長さんから声をかけられたCLS青葉さん。どうやら、ネフローゼ症候群の蓮君に何か問題が発生した模様・・・。さて、どういったことが考えられるのでしょうか。
週刊の漫画だと、最後に編集の「煽り文」※次号のお話を楽しみにさせるような文章 が入っていますが、そこには「次号、青葉はさらなる苦境へ・・・!」なんて書かれていましたね。
これらの情報から考えますと、
・CLS青葉さんが蓮君・蓮君の母親に関わったことで、蓮君自身の調子が悪くなってしまう
・蓮君のお母さんからCLS青葉さんが徹底的に責められてしまう
というようなことが予想されます。
とすると、蓮君が院内でなんらかの感染症をもらってしまってネフローゼ症候群が再発する、というのが予想されるストーリーではないでしょうか。
ある程度大きい小児科ならば、病棟を区分けして「感染症のお子さんはこちらに入院」「感染症ではないお子さんはこちらに入院」みたいな形に”ゾーニング”しています。そして、患者さんの動線を各々のグループで交わらないようにしておいて、感染症のお子さんの病気が、感染症ではないお子さんにうつらないようにしています。
感染症ではない病気の中には、多量に使えば感染症にかかりやすくなるようなお薬(例えばステロイドや免疫抑制剤)を使う病気があり、そのような病気のお子さんが感染症にかかると思わぬ重症化をきたしたりするため、ゾーニングは非常に大事です。
そして、今回の蓮君の病気であるネフローゼ症候群も、ステロイドを用いる病気として有名な病気でした。
ただ、いかにゾーニングをしっかりしていても、院内で感染症にかかることはゼロではありません。もちろん単に風邪をひくことだってあるし、胃腸炎をもらってしまうこともあります。医療者が頑張って手指衛生をしていても100%安全ということはないし、多くの感染症は不顕性感染といって症状はないけど感染していますというパターンがあるので、付き添いの親御さんが感染症を持ってくることだってあるし、やはりゼロにはできないんですよね。
そして、ネフローゼ症候群は、病状が落ち着いていても風邪やインフルエンザなどの感染症をきっかけに再発してしまうことがあります。再発してしまうと、退院直前まで行っていたとしても状況によっては入院を延長して治療し直すこともあり得ます。患者さんや親御さんからしてみれば、退院直前からまた治療しなおしなんて、天国から地獄でメンタルやられますし、主治医だってそりゃがっかりです。
蓮くんのお母さんの思考過程を考えると、わが子が風邪をひいて再発⇒私は感染症には細心の注意を払っていた⇒日々絡んできていたあのCLSの青葉とかいう人が原因!!??⇒激高する みたいな流れが簡単に予想できます…。
最後に
小児外科医であり主人公の兄でもある英樹先生の野望が明らかになった回でしたが、CLS青葉さんへの態度と言い、医療は経営という意見といい、とんでもない考えの持ち主のようですね。
センター長の吾郎先生も、どういった人選なのか、CLS青葉さんの今後の職の面倒を英樹先生にみるように命令し、やはり起こるべくしてトラブルに発展。
結果的にCLS青葉さんは英樹先生にひどいことを言われてしまうわけですが、次号はさらに青葉さんが窮地に立たされるとのこと・・・。
CLS青葉さんは今までのお話でも度々登場してきましたが、メンタル面の安定っぷりは登場人物の中でも随一という感じでした。ただ、さすがに更にここからメンタルを削られれば、さすがに病院を辞めてしまうのではないでしょうか…。
今回は以上となります。
追記
プラタナスの実 1巻・2巻・3巻・4巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。
色々な方が手に取って頂けたら嬉しいです。