久しぶりの投稿になります。Dr.アシュアでございます。
今回は、百日咳の論文をご紹介したいと思います。
百日咳は、大人でも子供でもかかる病気で、長く続く咳の原因となります。
4種混合ワクチンをしっかり打っていれば防げるタイプの病気ですが、生後間もなくの乳児でワクチンができていない時期だと、年長児や大人からうつされてしまうことがあります。
特に生後3か月未満のお子さんがこの病気にかかると、無呼吸を起こし突然死を引き起こすこともあるという、かなりこわ~い病気です。
自然にかかっても、予防接種でも生涯にわたる免疫能は獲得できません。つまりワクチンの交代価が落ちてくる年長児や、成人の感染は現状では完全に防ぐことは難しく、小さいお子さんの命が危険にさらされるかもしれないという事実があります。
そういった意味では、百日咳の成人を的確に診断し治療することも、子供たちを守る上では大事なことだと思います。
さて主役に登場して頂きましょう。
Chest. 2017 Aug;152(2):353-367. PMID: 28511929
Clinical Characteristics of Pertussis-Associated Cough in Adults and Children: A Diagnostic Systematic Review and Meta-Analysis.
Moore A, et al.
百日咳に関連する臨床的症状について、成人と子供を分けてシステマティックレビューとメタアナリシスをした論文です。
では見ていきましょう。
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背景と目的-Background and Objective
百日咳(百日咳)は重大な罹患率と死亡率を引き起こす感染性の高い咳の原因の一つです。
臨床的な診断には、発作性咳嗽、whooping(百日咳に特徴的な咳)、および咳嗽後嘔吐が定義に含まれますが、正確な診断は、培養やPCRや血清学的検査で行います。
受診当日に培養などの確定診断に必要な検査の結果は出ないため、臨床的に百日咳だ!と思ったら、検査の結果は待たずに抗菌薬治療を決断することになります。検査結果は答え合わせという意味合いが強い、というふうに言い換えてもいいでしょう。
そういった意味で、百日咳と強く関連する症状を知っておくことは臨床医にとって重要です。
このような背景から、著者らは、『百日咳に関連する咳嗽の臨床的特徴について、どの臨床症状が百日咳を診断する上で重要なのかを決定する』ためにこの研究を行いました。
方法-Method
データベース
CINAHL、Embase、Medline、およびSCI-EXPANDED / CPCI-Sを2016年6月まで系統的に検索されました。
検索の戦略としては、統制語(MeSH)の見出しと、百日咳と臨床症状のキーワードを組み合わせたもので行われました。
適格基準
下記の研究が今回のレビューに適格な論文とされました。
適格基準はこれ!
・百日咳の発生を含んだあらゆる医療現場でのあらゆる年齢の患者を含んだ研究であること
・百日咳と関連する可能性のある臨床症状の測定を含んだ研究であること
・百日咳の診断が正確に行われた研究(培養 or PCR or 血清学的検査にて)であること
・英語論文であること
※研究の設計上、百日咳の患者さんを全て捕捉するために、適格基準がかなり広くなっていました
データ収集と分析
2名のレビューアが独自にスクリーニング、データ抽出、ならびに品質評価を行い、適格とされた研究論文のバイアス評価を行いました。
バイアス選択のリスクは、QUADAS-2ツールを使用して、患者選択、指標テスト、参照標準およびフローとタイミングの分野で評価されていました。
十分なデータが得られた場合(最低4つの研究)は、感度と特異性のプールされた推定値、95%信頼区間を算出するために、2変量メタアナリシス法を使用しました。
バイアスが強い研究はメタアナリシス研究から除外されました。研究間の異質性についても評価が行われ、異質性が強い場合はメタアナリシスはできない、と結論付けました。
結果-Results
検索によって1969件の論文が特定され、そのうち422件は全文レビューが行われ、レビューに適格か否かの判定が行われました。結果、47件の研究がこのレビューの包含基準を満たしました。
それに未発表データの6件を加えて、最終的に53件の論文が記述分析とメタ分析(可能な場合)に含まれました。
37件が前向き研究、12件が後方視的研究、4件が症例対照研究でした。包含基準および参照標準は研究間で大きく異なりました。
53件の包含基準を満たした研究において、9つの咳の特徴、ならびに他の臨床的および人口統計学的特徴を含む、41項目が診断に有用か否かについて評価されました。
上で説明した通り、バイアスが少なく十分な情報のある項目についてのみ、メタアナリシスが行われました。
結果を以下に示します。
結果①
成人患者では、『発作性咳嗽がある』と『発熱がない』が、百日咳の診断に関して感度が高く、特異度が低かった。
『発作性咳嗽がある』感度 93.2%(95%信頼区間: 83.2-97.4)、特異度20.6%(95%信頼区間: 14.7-28.1)
『発熱がない』感度 81.8%(95%信頼区間: 72.2-88.7)、特異度 18.8%(95%信頼区間: 8.1-37.9)
この結果における臨床的な意味は、成人患者が『発作性の咳嗽を患っていない』または『発熱している』場合、その患者が百日咳である可能性は非常に低いと言えるということです。
結果②
成人患者では、『咳嗽後の嘔吐』と『Whooping』ことが、百日咳の診断に関して感度が低く、特異度が高かった。
『咳嗽後の嘔吐』感度 32.5%(95%信頼区間: 24.5-41.6)、特異度 77.7%(95%信頼区間: 73.1-81.7)
『Whooping』感度 29.8%,(95%信頼区間: 8.0-45.2)、特異度 79.5%(95%信頼区間: 69.4-86.9)
この結果における臨床的な意味は、成人患者が『咳嗽後の嘔吐を起こしている』または『百日咳に特徴的な咳をしている』場合、その患者の咳の原因疾患として、百日咳を選択肢に加える必要が強くあるということです。
結果③
小児患者では、『咳嗽後嘔吐』は感度も特異度も中等度だった。
感度 60.0%(95%信頼区間: 40.3-77.0)、特異度 66.0%(95%信頼区間: 52.5-77.3)
この結果における臨床的な意味は、小児患者では、咳嗽後に嘔吐したとしても百日咳を除外することも鑑別に強く入れることもできないということです。
結論-Conclusions
成人患者では、Whooping(百日咳に特徴的な咳)または咳嗽後の嘔吐の存在は、鑑別診断として百日咳を考慮すべきであるが、一方で発作性の咳がなかったり、発熱があったりした際には鑑別診断から百日咳を除外するべきです。小児では、咳嗽後の嘔吐は百日咳を臨床診断する上での有用なテストにはなりません。と著者らは結論を結んでいました。
なにが分かったか
分かった結論について再掲しておきます。
成人患者が『発作性の咳嗽を患っていない』または『発熱している』場合、その患者が百日咳である可能性は非常に低いと言える
成人患者が『咳嗽後の嘔吐を起こしている』または『百日咳に特徴的な咳をしている』場合、その患者の咳の原因疾患として、百日咳を選択肢に加えるべきである
小児患者では、咳嗽後に嘔吐したとしても百日咳を除外することも鑑別に強く入れることもできない
小児患者に対する情報が少なかったのは残念ですが、大人の百日咳患者さんを的確に見抜くための情報としては有益だと思います。
今回は以上となります、何かの役に立てば幸いです。