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凍結胚移植後に生まれた子どもは「小児がんのリスク」が上がるかもしれない

こんにちは、Dr.アシュアです。

最近は不妊治療後に生まれてくるお子さんも全然珍しくない世の中になってきたと思います。小児科医として外来・入院診療に携わっていると、お子さんの出生に関する事情も情報収集することも多いのですが、不妊治療を使用して出生してきたお子さんと出会うことも時々あります。

当たり前のことですが、不妊治療でお子さんを授かった場合は、自然妊娠と比較して出生までの過程のどこかの部分が異なることになります。ですから、不妊治療で授かったお子さんと、自然妊娠で授かったお子さんとは何か違いがあるのではないか?という疑問は昔からあるわけ、色々なことが分かってきています。

例えば未熟性や低出生体重、そして先天奇形といった周産期のリスクは、生殖補助医療を利用した場合に高くなると言われています。

しかし、不妊治療で生まれたお子さんの長期的予後については良く分かっていません。そこで、今回は不妊治療で生まれたお子さんの寿命を考える上で大事な「小児がんのリスク」に焦点を当てた論文をご紹介します。

 

さて主役に登場して頂きましょう。

JAMA. 2019 Dec 10;322(22):2203-2210. PMID: 31821431

Association Between Fertility Treatment and Cancer Risk in Children.

Hargreave M, et al.

デンマークから出ている論文なのですが、デンマークは世界でも生殖補助医療を多く使用してきた国の一つで、2018年では9.8%の子どもが生殖補助医療を使用して出生したと記録されています。

では見ていきましょう。

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背景と目的-Background and Objective

不妊治療後に出生する子どもの数は世界中で増えています。

しかし、不妊治療が小児がんのリスクに影響するかどうかは分かっていません。

最新のシステマティックレビュー&メタ解析では29の文献をまとめ、不妊治療後に出生した子どもにがんのリスクの増加があることが報告されましたが、暴露群が少数であったり、バイアスがあったりして、本当にその関連性に信ぴょう性があるのか何とも言えないという結果でした。

それで、今回デンマークの大規模コホート集団を用いた研究が計画されました。

つまり今回の研究の目的は、「様々な種類の不妊治療と小児のがんリスクとの関連性を調べる」ということですね。

 

方法-Method

1996年1月1日~2012年12月31日までにデンマークで生まれた全ての子どもとその両親を、医学出生記録から検索・特定しました。

1,085,172人の子どものデータが含まれており、子どものデータはその親のデータとリンクされました。

子どものデータが以下の状態であった場合には、研究に不適格という判断でコホートから除外されました。

 (1)性別、出産時の母親の年齢の情報が欠落していたり、多数の情報が欠落しているとき

 (2)在胎期間に関するデータが欠落しているかまたは妥当ではないとき

 (3)出生日と同じ日に死亡したとき

 

デンマークでは居住者の個人識別番号があり、それを使用して個人レベルの情報を全国の登録簿・コホートにアクセスすることで得ることが出来るようです。日本で言う、マイナンバーと同じものですね。そして、人口統計を行うデンマーク統計局や、医療情報をもつ医療出生登録所などから必要なデータを収集したようです。国家規模の情報なので情報の信ぴょう性は高いと思われます。

母体が妊娠できたかどうかの情報と、不妊治療の使用を特定するために、研究コホートはデンマーク不妊コホートにリンクされました。これは、不妊治療に関する全ての治療における情報が含まれているコホートでした。

 

曝露

不妊治療薬として、6種類

 ・クロミフェン[n = 33,835]

 ・ゴナドトロピン[n = 57,136]

 ・ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ[n = 38,653]

 ・ヒト絨毛性ゴナドトロピン[n = 68,181]

 ・プロゲステロン[n = 41,628]

 ・エストロゲン[n = 16,948]

 

生殖補助技術として3種類

 ・体外受精・胚移植[n = 19,448]

 ・顕微授精[n = 13,417]

 ・凍結胚移植[n = 3,356]

 

これらが暴露として設定されました。

ちなみに日本での不妊治療の定義を書いておくと、不妊治療は健康保険が適用される一般不妊治療適用されない生殖補助医療に大別されています。

一般不妊治療には、排卵誘発剤などの薬物療法、卵管疎通障害に対する卵管通気法、精管機能障害に対する精管形成術の3種類が挙げられます。生殖補助医療には、人工授精、体外受精(体外受精・胚移植(IVF-ET)、凍結胚移植、顕微授精など)、代理懐胎の3種類が挙げられます。

内閣府 第1節 人口をめぐる現状と課題 Q&A より

この論文では不妊治療の全てを調べたわけではなく、薬物療法、体外受精関連の3種類についてのみ調べたということですね。

各曝露について個別に調査し、自然妊娠で出生した子どもと比較しました。

 

小児がんは20歳前に診断されたものと定義され、デンマークで1943年以降に診断されたすべての発がん症例の全国的な登録であるデンマークがん登録簿を使用して特定されました。

 

収集した結果のデータと解析

Cox比例ハザードモデルを使用して、白血病、リンパ腫、交感神経系腫瘍、中枢神経系腫瘍、およびその他のすべての種類のがんのハザード比(HR)と95%CIを推定しました。

小児がんのリスクは、

 (1)妊娠初期または妊娠前に母体の妊娠するための能力に問題があったか

 (2)妊娠初期における何らかの不妊治療の使用

 (3)妊娠初期における何らかの不妊治療薬の使用(前述の暴露で書かれているもの、およびその他の不特定の薬剤)

 (4)妊娠初期における生殖補助医療の使用(前述の暴露で書かれているもの、およびその他の手法)

について、不妊治療を用いて出生した子どもと自然妊娠で出生した子どもとを比較し、小児がんのハザード比発生率の差を計算しました。

 

結果-Results

1996年から2015年の間に、この研究に含まれる1,085,172人の子供から1,220万人年の情報が得られました

平均で11.3年の調査がなされたようです。この期間中、2217人の子供が癌と診断されました。

 

そして2群の比較の結果を以下に示します。

結果①

1,220万人年の追跡調査後(平均11.3年)小児がんの発生率は、

・妊娠可能な女性から出生した子ども(n = 910,291)では、17.5人/100,000人

・凍結胚移植の使用後に出生した子ども(n = 3356)では、44人/100,000人

妊娠可能な女性から出生した子どもと比較して、凍結胚移植の使用後に出生した子どもは、小児がんのリスクが上昇していた

 (14がん症例; ハザード比、2.43 [95%CI、1.44〜4.11]; 発生率差、26.9人/100,000人 [95%CI、2.8〜51.0人/100,000人])

ハザード比は2.43倍ですが、発生率差を見てみると10万人で約27人の差ということになります。

ハザード比は、発生率が低いものをアウトカムで扱っている場合(今回は小児がんの発生率がアウトカムなのでそうですね)は、そのままリスク比に読み替えてよいというルールがあります。

つまりハザード比が2.43倍ということは、凍結胚移植後に出生した子どもは2.43倍小児がんが起こりやすいと言うことになります。これはかなりインパクトが大きいですよね。

ですが、この論文では発生率の差を明記しています。発生率の比や差は、ハザード比と比較して、数字から臨床的なインパクトを想像しやすい良い指標です。発生率差でみると、いくら小児がんのリスクが増えると言っても、10万人で27人の差しかないことがわかります。これだと、それほど大きなリスクとは言えないかもしれません。

論文によってはハザード比だけ書いてあって、発生率比や差が書いていないものなんてざらにあります。

両者を明記しているということは、この論文の著者らは研究で判明した結果を歪めることなく読者に伝えたいのだなぁと僕は感じ、とても好印象であるわけです。

ちなみにこのリスクの上昇は、主に白血病のリスク増加と、交感神経系腫瘍のリスク増加によるものでした。

 

結果②

凍結胚移植以外の不妊治療の使用後に出生した子どもと、妊娠可能な女性から出生した子どもを比較すると、

観察期間内では子どものがんの発生率は統計的に有意な関連性はなかった。

今回検討している不妊治療が、前述のように6種類の薬剤と、3種類の生殖補助医療であり、その範囲内で関連性が無かったということは明記しておきます。

 

結論-Conclusions

デンマークで生まれた子どもの大規模コホートを用いて行った研究では、妊娠可能な女性から出生した子どもと比較して、凍結胚移植の使用後に出生した子どもでは、小さいが統計的に有意な小児がんリスクの増加が認められました。

凍結胚移植の使用後に生まれた子どもは、新鮮な胚移植の使用後に生まれた子供よりも大きな体格、平均出生時体重が重い可能性が高いとされています。これは、凍結保存を含む技術が発生中の胚の変化を誘発することを示唆しています。胎児の過剰な成長は小児がんリスクの増加に関連しているため、今回の結果を説明する病態の一つと言えるかもしれません。

コホート研究なので、妊娠可能な女性から出生した子どもの群と、凍結胚移植の使用後に出生した子どもの群では、そもそもの背景が異なる可能性があり、結果に関連している交絡因子が完全には除外できていないという事は言っても良いかもしれません。

著者らもその辺りは無論分かっていて研究の限界として論文中に記載をしていましたが、「もしこの差を未知の交絡因子で説明しようとすると、暴露と結果に4倍以上の差をもたらす交絡因子でないといけない」と概算していました。つまり、それくらいの差があるような交絡因子はさすがにないだろうと言いたいのだと思いました。

 

なにが分かったか

結果を再掲します。

ココがポイント

デンマークで生まれた子どもの大規模コホートを用いて行った研究では、妊娠可能な女性から出生した子どもと比較して、凍結胚移植の使用後に出生した子どもでは、小さいが統計的に有意な小児がんリスクの増加が認められました。

ハザード比で2.43倍 [95%CI、1.44〜4.11]と大きく見えますが、発生率差では26.9人/100,000人 [95%CI、2.8〜51.0人/100,000人]と小さな差と言えました。

1,085,172人の子どもから1,220万人年もの情報が得られ検討されたものなので、これは真実の話に近いのかなと感じました。

今回は以上となります、何かの役に立てば幸いです。

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