こんにちは、Dr.アシュアです。
僕もすでに10年以上医者をやってますが、小児科医も経験を積んでくると、、、
『うーん、この咳はRSウイルスですよね~』とか
『この症状なら、ほぼ溶連菌でしょ』みたいに
検査を行わずに症状や診察所見から病気を診断することがあります。
いやぁ、これぞプロの技!
・・・
でも実際そういった玄人的な判断ってどれくらいあってるんでしょうか?
腕のいい小児科医に診察してもらえば検査なんていらないんでしょうか?
今回は、そんな症状や診察からどれだけ信頼した診断が下せるのかということにfocusしたシステマティックレビューを見つけたのでご紹介しようと思います。
まずは、主役に登場してもらいましょう。
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Oct 17;10:CD009175. PMID: 23076954
Clinical symptoms and signs for the diagnosis of Mycoplasma pneumoniae in children and adolescents with community-acquired pneumonia.
Wang K, et al.
小児・青年のマイコプラズマ肺炎を、症状と徴候からどれくらい正確に診断できるのか?というテーマに関するシステマティックレビューです。
それでは見ていきましょう。
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背景と目的-Background and Objective
マイコプラズマ肺炎は、小児および青年における市中肺炎の重大な原因です。マクロライド系抗生物質による治療が推奨されています。
しかしながら、マイコプラズマ肺炎は臨床症状および徴候に基づいて診断するのが困難と言われています。
診断の不確実性は不適切な抗生物質の処方につながる可能性があり、これは臨床予後を悪化させ、不適切な抗生物質の処方は耐性菌を増やす可能性があります。
こういった背景から著者らは以下の2つを目的としてレビューを行いました。
(i)市中感染肺炎の小児・青年で、症状や徴候からどれくらいマイコプラズマ肺炎を正確に診断できるかという診断精度を評価すること
(ii)マイコプラズマ肺炎を臨床的に診断する上での正確さに対する潜在的な異質性の原因の影響を評価すること
方法-Method
データベース
MEDLINE(1950年1月~2012年6月26日)とEMBASE(1980年1月~2012年6月26日)が検索され、含まれている記事の参考文献も検索して、追加の研究を特定しました。
Medionデータベース、2012年6号のRevies of Effectsのデータベース、そして2012年7月2日発行のDiagnostic Test Accuracy StudyのCochrane Registerを検索し、関連する系統的レビューの参考文献も検索しました。
この分野の専門家らが、明らかな抜けがないかどうかについて、含まれている研究のリストを確認したようです。
選択基準
研究の選択基準は以下の通りでした。
選択基準はこれ!
・あらゆる医療現場において、市中肺炎の子供たちを前向きで連続的に観察した研究
・血清学的にマイコプラズマが病原体であることを確定した研究
・2×2表を作成するために十分に詳細な臨床症状や診察所見に関するデータが報告されている研究であること
データ収集と分析
1人の研究者が、明らかに無関係な記事を除外するためにタイトルを読みました。
2名の研究者が独自に残りのタイトルと抄録を読んで、関連性のある記事を探しました。
関連する研究は全文を精読して評価されました。
レビューに含まれる研究については、研究の質が評価され、研究特性と臨床的特徴に関するデータが抽出されました
抽出された臨床的特徴:咳、ゼーゼーした喘鳴(wheezes)、コリザ、クループ、発熱、ゼロゼロした喘鳴(rhonchi)、息切れ、胸痛、下痢、筋肉痛、頭痛
感度、特異度、正および負の尤度比について95%信頼区間(CI)で研究固有の値を計算しました。
症状および徴候の有無に基づいて、マイコプラズマ肺炎の検査後確率を推定した。
著者らは、選択された研究から4つの研究を用いて、報告された症状と徴候についてプールされた感度、特異度、陽性・陰性尤度比とその95%信頼区間(95%CI)を計算した(感度と特異度のロジット変換のための二変量正規モデルを当てはめて算出した)。
多変量混合効果ロジスティック回帰を使用して、二変量モデルを共変量に近似させることによって、不均一性の潜在的な原因を調査しました。
研究集団の代表性および/または参照標準の許容性について懸念していた研究からのデータを除いて、感度分析を行った。
結果-Results
データベースの検索などから、8299の研究が見つかりました。
関連がありそうな1125の研究のタイトルと要約が調べられ、そして97件の研究の全文が精読されました。
最終的に今回のレビューには7件の研究が選択されました。
7件の研究には、1491人の子供たちのデータが含まれており、全て病院で行われた研究でした。全体として、試験の質は中程度でした。
結果①
2件の研究では、胸痛の存在がマイコプラズマ肺炎の可能性を2倍以上にすることが示唆された。
結果②
マイコプラズマ肺炎である子供では、喘鳴は12%少なかった。
(プール陽性尤度比: 0.76, 95%CI: 0.60-0.97)
(プール陰性尤度比: 1.12, 95%CI: 1.02-1.23)
⇒ちょっと分かりにくいですが、上の検討だとマイコプラズマ肺炎ではないということを診断したい=これが陽性、として喘鳴があると陽性尤度比が下がる。喘鳴がないと陰性つまりマイコプラズマ肺炎である確率、陰性尤度比が上がるということになります。
結果③
感度分析では、捻髪音の存在がマイコプラズマ肺炎と関連していることが示されたが、統計学的な有意性はボーダーラインであった。
(プール陽性尤度比: 1.10, 95%CI: 0.99-1.23)
(プール陰性尤度比: 0.66, 95%CI: 0.46-0.96)
ここで出てくる陽性尤度比(ゆうどひ)、陰性尤度比(ゆうどひ)というのは、検査前確率が〇%あったとして、事後確率がどれくらい上がるのかという指標です。
以前の僕の記事でもちょっと解説しているので、分かりにくいなと言う時には参照して頂くとよいかもしれません。
結論-Conclusions
市中肺炎の小児・青年を、臨床症状および徴候に基づいてマイコプラズマ肺炎だと確実に診断する方法は、今回のレビューからは明確になりませんでした。
喘鳴がないことがわずかにマイコプラズマ肺炎の可能性を下げ、聴診所見での捻髪音があることがわずかにマイコプラズマ肺炎の可能性を上げることが示されました。しかしこの結果は、これらの症状のあるなしでマイコプラズマ肺炎を疑って抗生物質を投与するほどに十分な価値のある情報ではありませんでした。
2つの研究からのデータから、胸痛の存在がマイコプラズマ肺炎の確率を2倍以上にすることが示唆されました。しかし、この発見を裏付けるにはさらなる研究が必要です。
なにが分かったか
今回の結果からは、喘鳴のあるなし、聴診所見での捻髪音のあるなしで少しだけマイコプラズマ肺炎らしいかどうかがわかるということでしたが、あまりにも尤度比がしょぼすぎる結果でした。
これでは、症状・診察だけではマイコプラズマ肺炎らしいかどうか判別するのはかなり難しそうです。やはり採血や胸部レントゲン検査も今まで通り必要だろうなぁと感じます。
また胸痛はたしかにマイコプラズマ肺炎の可能性をあげそうですが、そもそも肺炎で胸痛というのは胸膜炎といって肺の炎症が肺の外側の膜まで到達している証拠です。あまり肺炎→胸膜炎まで広がってしまうケースは、早期に病院を受診する小児の領域では多くはないと思います。
臨床は、難しいですね。
今回は以上となります。何かの助けになれば幸いです。