こんにちは、Dr.アシュアです。これまで2回、扁桃腺炎について投稿してきましたが、今回は扁桃腺炎を取り巻く状況の中から、“扁桃腺炎の自然寛解”についてお話しようと思います。言い換えれば、「扁桃腺を繰り返していても、自然に起こさなくなりますか?」ということです。
今現在お子さんが扁桃腺炎を繰り返していて、「扁桃腺をとってしまった方がよいのでは?」と考えているお父さん・お母さんには知っておくとよい情報だと思います。
扁桃腺炎にかかりやすいpeakの年齢は?
扁桃腺炎は3歳頃から多くなり、5-6歳が一番かかりやすい時期です。
5-6歳がピークであることは、集団生活が多くなること、兄弟でうつしあうことなどによります。
扁桃腺炎は繰り返し続けるもの?
臨床的には、扁桃腺炎は年齢が上がるほどに起こしにくくなってくるもの、とおそらく多くの小児科医は感じていると思います。
私の息子も幼稚園生(3-5歳)の間は、時々溶連菌による急性扁桃腺炎を起こしていましたが、小学生になってからはほとんど起こさなくなりました。
では、“扁桃腺炎は年齢が上がるほどに起こしにくくなる”ことに医学的な裏付けはあるのでしょうか。
色々調べてみましたが、正確な情報はあまりありませんでした。当たり前すぎて検証されていないのかもしれません。
しかし、扁桃腺炎の手術に関する面白い論文を2本見つけました。少し古い論文ですが、面白い観点で書かれていたものなのでここで紹介させて頂こうと思います。この論文から、扁桃腺炎は繰り返し続けるものかどうか、一つの結論が見えてきます。
論文1
Spontaneous resolution of recurrent tonsillitis in pediatric patients on the surgical waiting list.
Prim MP. et.al Int J Pediatr Otorhinolaryngol 65:35-38, 2002
目的:
小児における再発性急性扁桃炎の自発的解消の程度を評価すること
方法:
1994年2月~1999年5月までの間に、扁桃摘除術の手術待機リストにのった623人の小児を評価した。
最終的な術前評価の時に、扁桃摘出術が依然として提示されているか、または扁桃摘出術が不必要になったか、どちらになったかが調査された。
結果:
手術提示~最終的な術前評価までの平均の期間は10.8か月(中央値 8.2か月:3.0-35.6か月)であった。
623人の小児のうち507人(81.4%)⇒扁桃摘出術がまだ提示されていた。
623人の小児のうち116人(18.6%)⇒手術を行わなかった(扁桃腺炎を繰り返さなくなったため)。
結果と年齢、待機中の時間または手技の種類との間には関連が見られなかった(P> 0.05)。
結論:
小児における再発性急性扁桃炎が時間経過で自然に軽快するという臨床的証拠はなかった。
論文2
Spontaneous resolution of tonsillitis in children on the waiting list for tonsillectomy.
Woolford TJ. et al Clin Otolaryngol Sci 25:428-430, 2000
目的:扁桃摘出術を待つ間に、急性扁桃腺炎の再発が自然に解消するかどうか
方法:9か月間以上手術待ちになっていた80人の小児に対して、半年後に再評価して再び手術適応となるかどうか検討した
結果:80人中70人が研究を完了したが、70人中19人(27%)が、手術を必要としなくなった。
結論:扁桃摘出術を予定されていた小児で、手術までの待機時間が長い場合は、再評価を行うことが必要である。
2つの論文から見えること
1つ目の論文では、623人中、116人(18.6%)が手術を要さなくなったという事実に、再発性急性扁桃炎が時間経過で自然に軽快することはない、と結論していますが、20%くらいの患者さんが手術しなくて勝手に良くなるという事実は、自然軽快がないとは言い切れない数だと思いませんか?
実際2つ目の論文では、扁桃摘出術の手術までの待機時間が長い場合には、70人中19人(27%)が手術不要になったため、再評価を行うことが必要であると結論づけています。
また、扁桃摘出術をすると決断する基準が甘いのではないか?という疑問もわきます。言い換えれば、軽い患者さんばっかり研究に含めていたら、そりゃあ勝手に治る子どもの数は多くなるよね?といういちゃもんです。
扁桃摘出術の適応については、もちろん論文の本文中に書かれておりました。
1本目⇒扁て桃炎7回以上を1年以内に起こすor扁桃炎5回以上を2年以内に起こす
2本目⇒扁桃摘出術の適応:扁桃炎5回以上を2年以内に起こす
と、一般的な扁桃摘出術の適応の基準に照らし合わせてみても違和感のないものでした。
ですから、上の2本の論文は軽い患者さんばかりをエントリーした研究という訳ではなさそうです。
一般的な扁桃腺摘出術の適応については、以前のブログで解説しています。興味がある方は、こちらをご参照ください。
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繰り返す扁桃腺炎、手術の適応は?日本と海外の違い
Dr.アシュアこんにちは、Dr.アシュアです。 前回扁桃腺とは何か、扁桃腺炎とは何かを簡単にお話しました。 今回は、扁桃腺炎を繰り返した時、治療の一つに扁桃腺を切除するという方法があるのですが、どんな ...
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やはり結論としては、年齢が進むにつれて扁桃腺炎は確実に起こしにくくなってくるという事実はありそうです。
まとめ
・扁桃腺炎にかかりやすいpeakの年齢は5-6歳。3歳頃から増え始めます。
・扁桃炎を繰り返しており、扁桃腺摘出術を予定されていたが、手術待ちの期間が9-10か月になった症例を、本当に手術の適応があるかどうか再検討した場合、18.6-27%が不要になった
⇒Prim MP. et.al Int J Pediatr Otorhinolaryngol 65:35-38, 2002
⇒Woolford TJ. et al Clin Otolaryngol Sci 25:428-430, 2000
ここから、手術の適応があるくらい急性扁桃腺炎を繰り返していても、
時間が経つとある程度の割合で、扁桃腺炎を繰り返さなくなってくることが分かります。
以上となります。参考になりましたでしょうか。また続けて急性扁桃腺炎関連の情報を載せていこうと思っていますので、参考にして頂けたら幸いです。