前回扁桃腺とは何か、扁桃腺炎とは何かを簡単にお話しました。
今回は、扁桃腺炎を繰り返した時、治療の一つに扁桃腺を切除するという方法があるのですが、どんな時に手術をした方が良いとされているのか、その基準についてお話したいと思います。
扁桃腺炎を繰り返したら…、手術という方法があります
扁桃腺炎を繰り返した場合、治療法として扁桃腺炎を摘出する方法を提示されることがあります。外科手術ですから、闇雲にお父さん・お母さんの希望があったらできる、というものではありません。
まずは、急性扁桃腺炎の一般的な治療法として、対症療法であったり、溶連菌によって起こっているケースでは抗生剤の内服など、内科的治療で対処していきます。内科的治療で対処して、一旦は良くなるもののすぐに再発してしまい、何度も何度も急性扁桃腺炎にかかってしまう…、そんなとき手術の出番が訪れます。
しかし、何度もかかってしまうからすぐに手術という訳にはいきません。やはり外科手術ですから、それなりの理由が必要です。
以下では、日本と海外での『どんな時に扁桃腺の摘出術を行うか』、いわゆる手術の『適応』についてお話します。
扁桃腺炎を摘出する基準~日本~とその根拠
日本での扁桃腺摘出術の適応は、以下のようになっているようです。
扁桃腺インデックス(tonsillitis index)=扁桃腺炎の年間罹患回数×罹患年数
としたとき、tonsillitis index≧8以上(4歳以上)
藤原ら JONES 24:1539-1542, 2008 新耳鼻咽喉科学
つまり、1年間に扁桃腺炎に4回かかった(3か月に1回のペース)として、
それが2年以上続いた場合は、摘出術を考えましょうというものです。
最短の場合、3歳で1年間で4回かかり、4歳で1年間で4回かかった時点で手術を検討するとなります。
藤原らの論文によると、この扁桃腺インデックスが≧8だと、5年後でも年に3回以上扁桃腺炎に罹患し自然寛解が望めない、とするのがその根拠のようです。
扁桃腺炎を摘出する基準~海外~とその根拠
一方海外での扁桃摘出術の基準は、日本とは異なっているようです。
急性扁桃炎を1年に7回以上 or 2年間 5回/年以上 or 3年間 3回/年以上
急性扁桃腺炎と判断する根拠は、咽頭痛に加えて以下の4つのうち1つ以上を満たす場合
・発熱(38.3度以上)
・頸部リンパ節腫脹(圧痛を伴うか2cm以上に腫脹)
・滲出性扁桃炎(扁桃腺に白い膿が付く)
・培養で溶連菌陽性
Paradise JL, et al. N Engl J Med 310:674-673, 1984.
これは、パラダイス クライテリア(Paradise criteria)と呼ばれており、だいぶ古い文献ですがUp To Dateにも記載されておりどうやらまだまだ現場で使われている印象があります。
(Up To Dateとはウェブ上の英語論文のまとめサイトのようなもので、Wolters Kluwer Health社が提供する有料のサービスです。ご興味のある方はこちらを参照ください UpToDateについて )
どの国で使用されているかという情報は、こちらの文献に書かれていました。
Paradise criteriaは、アメリカ・イギリス・ドイツで推奨されている。
氷見 JOHNS 31:1751-1753, 2015
Paradiseらは手術適応の根拠として、この基準以上反復する場合は、2年以上自然寛解が見られないことを挙げています。
ただし、長期経過、合併症の頻度を考慮すると扁桃摘出術の選択には慎重を要すると結んでいました。
そもそも手術を検討する前に、大事なこと
日本、米国での扁桃摘出術の基準を見てきましたが、だいたい何回くらい繰り返したら手術の相談になってくるか…見えてきた気がしますね。今回、扁桃摘出術関連の文献を複数読んでみたのですが、良く触れられている大事なことがあるので、少し追加しておこうと思います。
それは、意外なことかもしれませんが、毎回の発熱の原因がが本当に扁桃腺炎だったかということ、その記録を正確に蓄積するのが案外難しいという事です。
私の外来でのある日のepisodeを提示します。
もしあるお子さんが、複数の小児科で、バラバラに扁桃腺炎だと言われていたとしましょう。
ある日ご両親が、突然私の外来に扁桃腺摘出術の適応があるのではないか、とお子さんを連れてきました…
あ、でも私3か所くらいのクリニックにかかってたりするので、詳しいことは分からないかもしれません。
まず扁桃腺炎を繰り返しているかどうか、慎重に観察することから始めましょうか。
ご両親の話から扁桃腺摘出術の適応がありそうでも、おそらくまず私は『経過観察』を選択すると思います。
このように、今までの発熱の原因が本当に扁桃腺炎だったか、信頼のおける情報があるかないかはとても重要です。ただ風邪を繰り返しているだけなら、外科手術で扁桃腺をとったりしたら絶対にいけませんよね。
ですから、発熱を繰り返しているお子さんをお持ちのお父さん・お母さんへ勧めることとしては、
まず信頼のおけるかかりつけ小児科医を1つ作って、そこに継続的に通って欲しいと思います。そこで、毎回の発熱が本当に扁桃腺炎であるというカルテの記録を積み立てていくことがとても大事です。
今までの発熱の情報があいまいだと、提示したepisodeのように、さらに余計な経過観察期間を置かなければいけなくなることも十分あります。
まとめ
・日本での扁桃腺摘出術の適応は以下の通り
扁桃腺インデックス(tonsillitis index)=扁桃腺炎の年間罹患回数×罹患年数
としたとき、tonsillitis index≧8以上(4歳以上)
・海外(アメリカ、イギリス、ドイツ)での扁桃腺摘出術の適応は以下の通り
急性扁桃炎を1年に7回以上 or 2年間 5回/年以上 or 3年間 3回/年以上
・そもそも毎回のその発熱が明確な『急性扁桃腺炎』かどうかの証明が大切。信頼のおけるかかりつけ小児科医を作って、継続的に通院しましょう。
扁桃摘出術はやはり外科手術ですから、本当に必要なのか、意味があるのかに関してはまだまだ議論が続けられている所だと思います。
今後、扁桃腺摘出術の周辺の事情についてもアップしていきたいと思っています。