実は、こういったお子さんは予定日頃に生まれたお子さんと比較して、栄養状態が悪いと言われています。
小さく、早く生まれたのに栄養状態が悪いとなると、そのあと普通の大きさにまでしっかり育つか…お母さん・お父さんは心配ではないでしょうか。
以前、身長と亜鉛についてブログに投稿したのですが、やはり調べてみると早く生まれたお子さんでは、亜鉛も欠乏しやすいようです。
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亜鉛の欠乏は以前の投稿でも書いたように、成長障害(体重増加不良、身長の伸びの停滞)につながることが示されているため、早めに対処したいものです。
今回はお母さん・お父さんに向けて、なぜ、早く生まれたお子さんの栄養状態が悪くなるのか?のメカニズムをご説明しようと思います。そして、不足しやすい栄養素の中で、亜鉛にスポットを当ててお話をしようと思います。
ポイント
なぜ、早く生まれたお子さんの栄養状態が悪くなるのか
栄養の貯蔵が少ない
栄養を吸収する力が弱い
栄養の消費に弱い
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目次
早く生まれたお子さんは栄養の貯蓄が少ない!
まず、小さくor早く生まれたお子さんと予定日に生まれたお子さんの違いを理解する必要があります。
予定日に生まれたお子さんは、出生するまでに胎盤を通して、お母さんから栄養をたくさんもらっています。
早く生まれたお子さんは、当たり前ですが予定日より早く出生します。
そのため、お母さんからもらうはずだった色々な栄養をもらえずに生まれてきます。
ですから、すでに栄養の貯蓄が少ない状態で生まれてくると言えます。これは栄養素が欠乏しやすくなる理由として分かりやすいですよね。
早く生まれたお子さんは栄養を吸収する力が低い!
では、早く生まれたお子さんはどこから栄養をもらうのでしょうか。
それはもちろん、自分でおっぱいやミルクから栄養をとるしかありません。
しかしここで問題があります。予定日に生まれたお子さんに比べて早く生まれたお子さんは、色々な臓器が未熟です。
つまり、胃や腸も未熟な状態です。胃や腸が未熟だと栄養を吸収する力が弱いので、特に亜鉛・銅などの元素は、十分に吸収できません。
しかも、体も小さいため、そもそも母乳やミルクを飲む能力が低く、栄養の『量』も少ないと言えます。
栄養の吸収が悪いし、そもそも量も摂れない…早く生まれたお子さんが亜鉛や銅の欠乏になりやすいのは明らかです。
早く生まれた赤ちゃんは栄養の消費に弱い!
そして2つ目は、早く生まれた赤ちゃんに起こる特別な成長で、亜鉛が沢山使われてしまうという事実です。
この特別な成長を『追いつき成長』と言います。医学用語ではcatch up=キャッチアップと言ったりします。
仮に、早く生まれたお子さんが、予定日に生まれたお子さんと一緒のペースで成長していたとしましょう。一緒のペースの成長ならいいよね!って思ってはだめなんです。
早く生まれた赤ちゃんは基本的に体格が小さいですから、予定日に生まれた赤ちゃんと一緒のペースで成長していては、いつまでたっても正常な体格には追いつけません。
しかし人体は非常に上手くできています。早く生まれた赤ちゃんには追いつき成長という『予定日に生まれた赤ちゃんよりも急激な成長』を起こすシステムが備わっているのです。
早く生まれたお子さんが、生後順調に栄養を与えられると、約3歳くらいまでこの追いつき成長が起こります。その結果、早くor小さく生まれた赤ちゃんの多くは、正常な体格に追いつきます。
しかし、栄養の観点からはこの追いつき成長、くせ者なのです。
追いつき成長をするためには、よりたくさんのエネルギーや栄養素が必要です。体を作るための材料として亜鉛や銅といった微量元素がたくさん使われることになります。
早く生まれた赤ちゃん・未熟児は、栄養素の貯金が少なく、かつ栄養素の供給も悪い(胃・腸が未熟で栄養素の吸収が悪い)上に、追いつき成長で消費がupしたら…、当然栄養素の欠乏が起こりやすくなりますよね。
早く生まれた赤ちゃんが亜鉛欠乏になりやすい時期は?ほかのリスクは?
亜鉛が欠乏しやすい時期ですが、これは前述の欠乏の仕組みについて読んで頂けていれば想像ができると思います。
そう、追いつき成長の時期です。
しかも、追いつき成長が強い時期=急激に体重が増える時期に亜鉛欠乏が起こりやすいです。
急激な体重の増加はいつ起こるのでしょうか。正常な赤ちゃんの成長の図を見てみましょう。
縦軸が体重、横軸が月齢で0-24か月の男の子の成長曲線を示してみます。
今回は体重のみの成長曲線をお示しします。
急激な体重増加がみられる生後2~9か月が、低出生体重児・未熟児にとって、一番亜鉛欠乏に陥りやすい時期です。
予定日に生まれた赤ちゃんの場合も、もちろん2か月~9か月の間は急激に体重が増えるので、貯金してある亜鉛も消費されます。しかし、予定日に生まれた赤ちゃんの場合は、生後5か月くらいまではあまり減らず、その後減少しても早く生まれた赤ちゃんほどではないことが報告されています。
その他の亜鉛が欠乏しやすいリスクとして、母乳栄養があります。母乳の方が人工乳よりも亜鉛の含有濃度が低いというデータがあるためです。完全母乳栄養の場合はさらに亜鉛欠乏のリスクが高まることになります。
亜鉛欠乏が著しくなると、急性欠乏の症状として口の周囲・陰部・手足末端の皮疹、びらんが起こります。慢性的に欠乏すると、成長障害(体重の増えが悪い、身長の増えが悪い)が起こり得ます。
早くor小さく生まれた赤ちゃんの亜鉛欠乏に対する対処法は?
出生後に亜鉛欠乏の症状に気づいて早めに病院を受診し、検査にたどり着くことが重要です。それについては、こちらにまとめていますので是非参考にしてください。
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また、今まで書いてきたことから簡単にまとめると、
ポイント
・口の周り、陰部、手足の末端の皮膚炎がひどくなってきている赤ちゃん
・成長障害(体重・身長の増えが悪い)がでてきた赤ちゃん
の場合には、亜鉛欠乏の可能性はあると思います。
さらに完全母乳栄養だったり、早くor小さく生まれたという背景があったら、一度は精密検査をしてみて良いでしょう。
早くor小さく生まれたのに、追いつき成長が起こらない場合も、もしかすると亜鉛欠乏かもしれません。
またフォローアップミルクでは亜鉛欠乏に対処できません。亜鉛・銅については、ほとんどフォローアップミルクに含まれていません。もし、フォローアップミルクばっかり飲んでいて離乳食を食べていなかったりすると、亜鉛・銅の欠乏症を起こす可能性は否定できません。
まとめ
なぜ、早く生まれた赤ちゃんの栄養状態が悪くなるのか?のメカニズムを説明してきました。
早く生まれた赤ちゃんは
・栄養の貯蔵が少ない
・栄養を吸収する力が低い
・栄養の消費に弱い
のため、栄養素の欠乏症が起こりやすいです。
今回、亜鉛にスポットを当ててみましたが、こんな時亜鉛欠乏を疑おう!というポイントがありました。
・口の周り、陰部、手足の末端の皮膚炎がひどくなってきている赤ちゃん
・成長障害(体重・身長の増えが悪い)がでてきた赤ちゃん
・完全母乳栄養、早くor小さく生まれた赤ちゃんもリスクになる
以上となります。参考にして頂ければ幸いです。