夜の救急外来、耳が痛くて眠れない!という症状で受診。小児科医の診察を受けて中耳炎と診断され、処方を受けて帰宅。
夜中の耳痛い!眠れない!はかわいそうですし親御さんも困ってしまいます。
診る側の私としても、中耳炎の治療だけじゃなく、予防方法についてプラスワンのお話をしてお帰り頂いています
今回はこどもの中耳炎の予防方法を書くことにしました。
2013年に日本でも小児急性中耳炎診療ガイドラインが出ているのですが、予防に関する記載はごくわずかでした。日本のガイドラインは診断・治療に特化したイメージです。
2018年6月に小児急性中耳炎診療ガイドラインがでましたが、やはり予防に関する記載はごくわずかでした(ワクチンの効果だけ記載されています)。日本のガイドラインはやはり、治療に特化したイメージです。
米国のガイドライン『AAPガイドライン2013』には予防に関する記述がありましたので、こちらをもとに最新の文献も加えてまとめてみました。
結論から言いますと、こどもにしてあげらえる予防法が3つ、家族ができる予防法が1つ、あります。
スポンサーリンク
目次
中耳炎を予防!みんなでしよう!<こどもにしてあげられる予防法>
肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンをしましょう
禁煙の所ででてきた肺炎球菌に対するワクチン。皆さんご存知のプレベナー®がとても重要です。これについては、2013年の日本のガイドライン(小児急性中耳炎診療ガイドライン)にも推奨の記載がしっかりされています。
プレベナー(PCV7)の導入によって、急性中耳炎の全体の発生数は6%減少した。
プレベナー(PCV7)の導入によって、2004年と1997-1999年を比較すると、急性中耳炎に起因する医療機関の受診は42.7%減少した。
Pediatrics. 2008 Feb;121(2):253-60. doi: 10.1542/peds.2007-0619.
中耳炎の全体の発生数が6%だけしか減少しなかったのに、なぜ急性中耳炎に起因する医療機関受診が40%も減少したのでしょうか。
それは、おそらくワクチンには、接種した人だけではなく、その周辺の人にも利益があるからではないでしょうか。
一人のお子さんが中耳炎にならなかったことで、それをうつされたかもしれない複数のお子さんが助かります。さらにその先にうつされたかもしれない家族も助かります。
プレベナーというワクチンの登場だけで、医療機関の受診が大幅に減ったのだと考えると、その社会的利益の大きさは凄まじいものだと言えます。
またAAPのガイドラインでは2013年に発表されていることもあり、現在使用されている13価のプレベナー(PCV13)についてはまだ情報がないと書かれていました。現在では、PCV13の中耳炎予防効果についても論文が出てきています。
2004年~2011年にかけて、中耳炎による医療機関受診率は低下傾向にあり、2010年の13価ワクチン(PCV13)の出現と一致して、著しく低下した。
JAMA Pediatr. 2014 Jan;168(1):68-75. doi: 10.1001/jamapediatrics.2013.3924.
アメリカからの報告ですが、プレベナーが7価⇒13価になったことでさらに中耳炎の発生率は下がっているようです。
さらにAAPガイドラインでは、インフルエンザワクチンの急性中耳炎予防効果についても触れられていました。インフルエンザにかかった幼児の2/3が急性中耳炎を共に起こしている可能性があるとする報告もありますし、多くの研究で冬期において急性中耳炎を予防するためにインフルエンザワクチンを接種することの有効性が報告されています。
インフルエンザワクチンについてはご興味のある方はこちらもご参照ください。
おしゃぶりをやめましょう
おしゃぶりを使用することが、急性中耳炎のリスクになるとする論文がいくつか出ています。
何故リスクになるのかのメカニズムですが、2つのメカニズムが想定されています。
ポイント
おしゃぶりが急性中耳炎を起こすメカニズム
・おしゃぶりを吸うと、口やのどにある分泌液が中耳に逆流する
・おしゃぶりの使用が、歯並びに影響を与えてその結果中耳の機能不全が生じる
西欧諸国では80%くらいのお子さんがおしゃぶりを使用する背景があったため、中耳炎との関連性を詳しく研究したいと考えられ2008年にある研究が行われました。
0-4歳までの448人の小児が2000年~2005年まで追跡調査された。おしゃぶりを使用することで、急性中耳炎になるリスクが上昇した。
・初回の急性中耳炎を起こす調整オッズ比 1.3(95%CI 0.9-1.9)
・急性中耳炎を再発する調整オッズ比は1.9(95%CI 1.1-3.2)
Fam Pract. 2008 Aug;25(4):233-6. doi: 10.1093/fampra/cmn030. Epub 2008 Jun 17.
これはオランダのユトレヒトで行われたコホート研究です。
この研究の結果からは、おしゃぶりの使用は特に急性中耳炎の再発のリスクと関連していると言えます。
もし自分のお子さんが急性中耳炎を発症してしまったら、その後おしゃぶりを使い続けることは急性中耳炎を繰り返すリスクを上げることになるかもしれません。このことは、お父さん・お母さんは知っておいても損はないと思います。
生後半年は母乳をあげましょう ミルクのあおむけ飲みをやめましょう
以前から母乳育児が急性中耳炎の予防になったり、再発性急性中耳炎の予防になるという論文はたくさんでていました。
しかし、人道的な問題で因果関係を正確にみる研究はできていません。
それはなぜか。簡単なことです。
お母さんたちを、母乳をあげるグループと、母乳をあげないグループに、ランダムに割り振ることができないからです。母乳をあげたいのにあげられないグループに入ったお母さんは不幸すぎますし、そのお母さんが母乳をあげないルールに従順に従うとも思えませんよね。
そんなわけで、妥当な比較ができた!とする研究が発表されないので、AAPガイドラインとしても諸手を挙げて母乳が中耳炎を防ぐ!とは書けないわけです。
ですがすでに書いたように発表されてきた論文はどれもこれも結論としては、母乳栄養が急性中耳炎の予防に良いという結論ばかりのようです。母乳育児をすると、急性中耳炎と急性中耳炎の再発の発生率が低下するという一貫した結論ばかりなのです。
というわけで、AAPガイドラインでは、生後半年は母乳栄養を続けましょうという記載になっています。
また、真横に寝かせて哺乳瓶を自分でもって哺乳するような哺乳は、中耳炎のリスクを上げます。これは分かりやすいですね、ミルクが中耳の方に流れやすい体勢で哺乳すると、急性中耳炎を起こすリスクが上がるわけです。
中耳炎を予防!みんなでしよう!<家族ができる予防法>
子どもの周りで、タバコを吸わない
家庭内にたばこを吸う人がいて、こどもが副流煙にさらされると、こどもの肺炎球菌の保菌率が上昇した。
Clin Infect Dis. 2006 Apr 1;42(7):897-903. Epub 2006 Feb 16.
このような研究結果があります。肺炎球菌というのは、中耳炎の主な原因となる細菌です。家にタバコを吸う人がいると、子どもが肺炎球菌を持ちやすく、結果中耳炎になりやすくなるということが言えると思います。
親の喫煙により急性中耳炎のリスクは増加した(RR、1.66; 95%CI、1.33-2.06; P <.00001)。家庭外での保育と喫煙は、急性中耳炎の発生を最も有意に増加させる要因であった。
この研究は少し古いですが、1966年~1994年までの医学文献において関連する文献をまとめた、医学論文をまとめた論文(=メタアナリシスといいます)です。一本の論文よりはエビデンスレベルは高いので、やはり親の喫煙は急性中耳炎のリスクをあげそうです。
さて、副流煙を吸うことで、なぜ中耳炎のリスクが上がるのでしょうか。理由は二つあります。
ポイント
副流煙を吸うとなぜ中耳炎のリスクが上がるか
・のどに定着する細菌が増えるため
・のどの粘膜の細胞が傷ついて、細菌の感染から弱くなるため
中耳炎は、のどに細菌が定着して、耳の中耳という部分に細菌が侵入することで感染が成立し、発症します。のどに定着する細菌が増えれば当然、中耳まで細菌がやってくるリスクは増えます。
また、たばこの煙は口・鼻・気管・気管支・肺の表面の皮膚(呼吸器上皮細胞と言います)についている毛の機能を落とします。この毛は線毛と言われていて、ただの毛ではありません。外界から入ってきた細菌や異物、肺で作られる痰などを外に出して、気管・気管支・肺をきれいに保つのに一役買っている重要な『毛』です。
この線毛の機能が落ちれば、これすなわち、細菌が呼吸器に住み着きやすくなるというわけです。
さらに、たばこの煙が呼吸器の表面の皮膚に炎症を起こして、傷つけることも分かっています。ますます細菌にとって居心地の良い状態になるというわけです。
我が子を中耳炎(を含めた気道感染症)から防ぐには、家族みんなが禁煙する必要があります。禁煙で我が子が助かるだけではなく、禁煙したその人の健康も助かることになりますし、さらに家計も大助かりと、一石何鳥か分かりません。
まとめ
中耳炎を予防!みんなでしよう!<こどもにしてあげられる予防法>
1.予防接種をしましょう
2.おしゃぶりをやめましょう
3.生後半年は母乳をあげましょう あおむけ飲みをやめましょう
中耳炎を予防!みんなでしよう!<家族ができる予防法>
・子どもの周りでタバコを吸わない