こんにちは、Dr.アシュアです。今回は私の行っている専門外来でのお話を話題にしたいと思います。
専門外来には、風邪などのよくある病気のお子さんは来院しません。『慢性疾患』を持つ患者さんが来院します。
慢性疾患を持つお子さんとご両親の生活は、病気と戦うことだけではありません。はじめは何も考えず病院に来ていたお子さんも、成長に伴い病気のことを理解し始めます。時にお子さんが心を病んで不登校になってしまったり、お父さん・お母さんが身心を壊すこともあります。
専門疾患をみつつ、心理的な問題にも対応を求められる専門外来。バッドニュースを伝えなければいけないシチュエーションも多いので、神経がすり減ります。悪い情報は伝え方をどれだけ工夫しても、患者さん本人に泣かれてしまったり、ご家族が憤慨してしまったりすることもあります。Dr.アシュアも時々、落ち込むことがあります。
しかし、もちろん悪い事ばかりではありません。中には期待をいい意味で裏切って、私をあっと驚かせてくれる患者さん・ご家族がいます。
そんな時、私はこどもの瑞々しい可能性や親子の温かい関わりを感じることができ、本当に勇気付けられます。
今回は、そんな私の外来のエピソードの一つについて書きたいと思います。
もちろん個人情報は伏せた状態でエッセンスだけ書きます。慢性疾患を抱えるお子さん、そのお子さんを支える親御さんたちに少しでも参考になればと思います。
目次
1型糖尿病の女の子『Aさん』、自分の病気を自由研究のネタにする
1型糖尿病は、1万人に1-2人と少ない病気です。大人の生活習慣病として有名な2型糖尿病と違って、本人の生活習慣に関係なく発症する病気です。1型糖尿病のお子さんは、血糖値を正常にコントロールするのが苦手なので、日々インスリンを自分で注射しています。インスリンの注射だけでなく、血糖値の測定のためにも針を皮膚に複数回刺す必要があり、毎日たくさん痛い思いをして生活しています。
思春期の時期の患者さんでは、インスリンを打つのをさぼったり、血糖値のウソの報告をしたり、血糖値の測定をしなくなってしまったりと様々な問題が起こります。病気に正面から向き合うことが出来ず、心身のバランスを崩すお子さんも少なくありません。
1型糖尿病のAさんは、中学生女子。定期外来の今日、お父さんと一緒に外来を受診しました。ちょうど夏休みの頃です。
1型糖尿病のお子さんの定期外来では、日々の血糖値のデータを見せてもらって、血糖値のコントロールが上手くできているかのチェックをします。また定期的に血液検査を行い血糖コントロールの評価や合併症のチェックなどを行っています。
そんないつもの診察の流れの中で、ふと夏休みの話になりました。
去年は、健康食品を食べる前後で血糖値がどれくらい上がるかデータをとって、自由研究にしたんです。
そしたら・・・賞もらえたんです~。
だから、今年も血糖値系の研究をしようかなって。
それは考え付かなかったよ。
彼女は、自分の病気をネタにして自由研究をしていたんですね。
私は、診察室の椅子から飛び上がるほどビックリしました。まさか自分の病気をネタに自由研究をするなんて、、しかも賞までゲットするなんて、、、。
このepisodeから、私はこう感じた
Aさんとお父さんのepisodeから私は2つのことを感じました。
慢性疾患を個性としてとらえられる生き方って強い
彼女は自分の病気を夏休みの自由研究のネタにしていました。これってすごい事だと思いませんか?
一般的には『病気であること』は、『隠したいこと』だと思います。普通、1型糖尿病であることは、ハンディキャップです。
しかし、彼女の中では自分が1型糖尿病であることは隠したいことではないんでしょう。彼女の中には、個性の一つとして1型糖尿病が存在しているように感じました。
さらに変な言い方ですが、病気になって感じたことや学んだことは自分だけのオリジナリティだと感じているのだと思います。その結果、普通ハンディキャップになるはずの1型糖尿病が、他のこどもたちには無い『個性』へ逆転の変化を遂げます。
1型糖尿病の血糖の変化を追った夏休みの自由研究なんてオリジナリティ、普通の同級生には出せませんからね。
さらに彼女の行動からは、『1型糖尿病になってしまったのは仕方ない、、、だけどタダでは起きないぞ。逆に利用してやるんだ!』というような強い意志を感じました。
彼女が病気になった当初を思い返すと『どうして私が・・・』『なんで今こんな病気になったの・・・』いう気持ちがきっとあったと思います。人生病気だけではなく、悩み事や困った事件が次々と起こるものですが、どうしようもないことでクヨクヨ悩み続けたり他罰的な気持ち(だれかが悪い、悪いのは私じゃないという考え方)でいる人ほど成功しないような気がします。
自分には変えられないことはスパッと切り捨てて、吹っ切れる強さがある人は、悩みをむしろ踏み台にしてステップアップしていくものです。
彼女にはその強さを感じました。
その生き方を支持し、応援できるお父さん・お母さんはすごい!
そして、さらに特筆すべきことは、自分の娘が自分の病気で夏休みの自由研究をすると言った時に普通に受け入れてやらせてしまう(もちろんいい意味ですよ)ご両親の強さです。
一般的には病気のことなんかで自由研究しないでよ、どんなこと言われるか分からないしやめときな、という意見が多数だと思います。
私も、子どもが慢性疾患を持っていてそれについて自由研究すると言われたら…ちょっと考えてしまいます。
学校や他の親御さんから何か変な目で見られるかな…と考えて
「自分の病気について実験するような自由研究をしたら、周りの友達から変な目でみられるかもしれないよ、やめときなよ。」と、こどもに言ってしまいそうです。
でもよく考えてみると、これは結局親が周りからどう見られるかの世間体を気にしているんですよね。
もしAさんの意見にご両親が反対していたら、どうだったでしょうか。おそらく、自分だけのオリジナリティを生かそうと思っていたAさんの気持ちは折られてしまうと思います。同じような事が続けば、病気のマイナス面のみ見続ける性格が育ってしまったかもしれません。
物事には色々な見方がある、自分が1型糖尿病であるという事実はおおむねハンディキャップかもしれないけど、見方はそれだけではない。時にそれは自分のオリジナリティになる。
そんなことを発見した自分の娘の背中を、そっと押してあげられた、Aさんのご両親の力って本当に素晴らしい、そう感じました。
自分の子どもも、Aさんのように育てられるだろうか
Aさんは病気に負けないメンタリティーをもったお子さんです。病気の陰の部分だけでなく、違う面に気づけるお子さんです。
Aさんはこれからも1型糖尿病とともに生きていきますが、きっと、好きなことは好きと言って、やりたいことにはチャレンジして、自分自身で人生を切り開いて行くと思います。病気はあったとしても、彼女の人生は明るいものだと私は信じていますし、医者としてサポーターとしていられれば、と考えています。
Aさんを診療していて、私は時々こう思います。自分の子どもが慢性疾患になったら、Aさんのように強くいられるだろうかと。
色々な答えがあると思いますが、一つの答えはAさんとご両親の関わりの中に隠されていると思います。
それは物事の見方は一つではないということです。
Aさんのお父さん・お母さんは、きっと子育ての中でAさんに一つの価値観に固執しない考え方、物事には様々な価値観があるということをしっかり教えられていたんでしょう。
病気になってしまったこと、これは変えられない、病気によっては一生治らないかもしれない。でもそれだけじゃない。
病気になったことをきっかけに、例えば家族会に入り、もし生涯の伴侶を見つけたら…。
病気にならなければ出会えない人もいるって思えませんか?
病気になったことをきっかけに、例えばブログを立ち上げて、それが人気になり著書を出したり、講演会に呼ばれるようになったら…。
その人にとって病気であることは、足枷だけではないはずです。
物事の見方、捉え方は一つではない。当たり前のことですが、とても大事なことを私はこの家族から学びました。
まとめ
Dr.アシュアの外来に通っている1型糖尿病のAさんは、自分の病気を隠さないばかりか、夏休みの自由研究のネタにしていました。
さらにその自由研究で賞までとった話を聞いて、Dr.アシュアは本当に驚きました。
そして以下のようなことを感じました。
・慢性疾患になってしまった事実は変えられない。だけど、それを自分の個性ととらえて生きる考え方ができるって本当に素晴らしい!
・Aさんは物事のマイナス面だけに囚われず、別の見方ができる女の子。柔軟な考え方ができるように育てたご両親も素晴らしい!
いかがでしたでしょうか。
もし今慢性疾患を持ち、困っている・悩んでいる患者さんやご家族がいたら、こんな風に病気を捉えて前向きに生きている女の子がいる、ということを是非知ってほしいです。
元気なお子さんを育てられているお父さん・お母さんにも、子育てをする上で参考になるのではないでしょうか。