小児科を受診すると、元気がなくなったら来てくださいとか、お母さん・お父さんがいつもと違うと思ったら来てくださいとか言われたことがありませんか?小児科を受診する95%は軽症であるというデータがありますが、残り5%の重症を見逃さないために我々小児科医が大事にしている一つの指標が、『こどもが元気があるか』ということになります。
元気があるかないか、とてもあいまいな指標のように思いますよね。ベテランの小児科医に言わせれば『そんなもん見た目よ』となるのでしょうけれど、今回はこどもの元気さについてあえて言語化してみようと思います。
小児科医がこどもが元気かどうかを、どこで見ているか。大事なのは以下の2点だと思います。これが障害されていれば、一般的には小児科医はこどもを返しません(=入院させます)。※もちろん入院するかしないかは、これだけを指標にしているわけではありません!
- ADLが損なわれていないか
- 意識が清明か
ADLが損なわれていないか
ADLはAbilities of Daily Livingの略語です。人が生活の中で繰り返し行っている基本的な日常生活動作です。食事、排泄、排泄、整容、更衣、移動、入浴といったことになります。こどもの場合、年齢によって整容・入浴・更衣は大人任せの場合もあるので、主に食事ができているか、移動ができているかという点が大事です。食事についてはわかりやすいですよね。元気がないこどもは食事が食べられません。
『いつもより元気がないんです!』といって受診する親御さんが、『でもごはんはいつも通りたくさん食べられます』と話していれば、小児科医的には『まだ元気があるのかな?』と判断するということですね。
移動については、少しわかりにくいですが、年少児の場合は『いつも通り遊べているか』、年長児の場合は『立ったり歩いたりできるか』ということになります。年長児の場合は診察室に入ってくる姿で判断できてしまうことも往々にあります。例えば、小学校高学年の子がお父さんに担がれて診察室に入ってきてそのままベッドにゴロンっという診察のスタートの場合は、『あ~これは返せないかなぁ』と思いながら診察が始まります。
意識が清明か
意識というと、お父さん・お母さんには少しとっつきにくいかもしれませんが、小児科医として意識はとっても大事な元気さの指標です。もし意識がしっかりおかしかったら、外来を中断してとりあえず人を呼ぶみたいな展開になることも十分あり得ます(開業医さんだったら、診察を中断して救急車呼ぶみたいな展開でしょうか)。意識障害は、簡単に考えれば中枢神経=つまり脳の機能障害ですから、意識障害=脳がコントロールしている呼吸の機能、心臓を動かして血を巡らせる循環の機能が同時に障害されているか、これから障害されてくるということになります。当然呼吸・循環が回復不可能なレベルに障害されたら、心肺停止に陥るので、患者さんが死んでしまうということになります。これはとんでもなくやばい!ですよね。
話がずれましたが、意識を小児科医がどう見ているか。小児科医や内科医は、意識レベルをカルテに記載する場合にスコアを用いることがあります。いわゆるJapan Coma Scale(JCS)やGCS(Glasgow Coma Scale)というスコアですが、GCSで考えるとわかりやすいので、ここではGCSを主に使用し論じていきます。JCSや、GCSについて細かい内容についてはここでは割愛します。
GCSでは、意識状態を開眼、発語の反応、運動の反応の3つの領域に分けて点数をつけることで意識状態を評価するスコアです。ここから考えれば、こどもの意識がよいということがわかりやすくなります。つまり、、、
意識が清明=意識障害がないことは、
視線がしっかり合い、意味のある言葉(もしくはいつも通りの発語)が話せていて、いつも通りの動きができている
と言えると思います。
小児科医は、こどもたちに話しかけてみたり、おもちゃを見せてみたり、診察で嫌がって逃げるか(=これも意識が清明でないとできないことですよね)を確認したりと、あらゆる診察行為から意識の状態を評価しているといっても過言ではありません。時々大騒ぎで診察がまともにできないお子さんもいますよね、でも診察ができなくてもお母さんにしがみついたら大人しくなって、こっちの方を怯えたような顔で見ているということが確認できるだけで、『暴れられる元気はあるし、意識障害はないな』と医者は確認できるということです。