こんな症状、あなたならどうする? 雑記

SGA性低身長のお子さんをもつお母さんとの会話から思う『低身長』

 

『学校の保護者会とかで、この子の体が小さいから、私の栄養の管理がしっかり出来ていないんじゃないかとか、他のお母さんたちに言われたんですよね…』

こんにちわ!アシュアです。

最近の外来で、SGA性低身長のお子さんをもつお母さんとお話していた中で出てきた会話です。お子さん本人とお母さんの状況をちょっとも知らないのに、無神経で心ない一言!本当に腹が立ちました!ポロっと出てきた話題でしたが、心なしかお母さんの目元が潤んでいたように見えました。

とても腹が立ったので、ブログに今回書いちゃおうと思います(もちろん個人情報は載せません)SGA性低身長とは何か、成長ホルモン治療の適応の話も含めて書いていこうと思います。

 

Small for Gastational Age=SGAとは?

例えば、37週1日で生まれた子は世の中にたくさんいますよね。この子ども達を日本全国からたくさん集めてくると、大きい子から小さい子まで(身長・体重両者の意味です)色々な子供がいることはイメージしやすいと思います。

その中で、身長・体重どちらかが、ある基準を下回った子をSGAと呼びます。

(その子がSGAかどうかの基準は、在胎何週何日、男の子or女の子、お母さんから見て1人目か2人目以降かで細かく定められています)

つまりSGAとは、生まれたときの身長・体重で決まる病名(?)、というより体質といった方が適切かもしれません。

 

SGAになる原因はたくさんあります。例えば、ダウン症候群を含めた染色体異常や、遺伝子異常を基盤とした○○症候群といった名前がつく病名のお子さんもSGAで生まれる可能性があります。しかし遺伝子・染色体の異常がないけれど、生まれつき他の子に比べて小さい=SGAとして出生するお子さんもたくさんいます

例えば、お母さんの胎盤の機能が弱い例(高齢出産で時に見られます)や、妊娠高血圧などの妊娠中の合併症、妊娠中の感染症など…これらの要因で、赤ちゃんの栄養状態が悪くなることがSGAになる主要な原因になります。かく言う私アシュアの息子も、実はギリギリSGAで生まれていたりします。今の所、元気に育っており何らかの症候群のような印象はないので、おそらく胎児期の栄養状態によるものだと思います。晩婚化が進んでいる日本の現状や、近年の女性のやせ願望の強さから、現在SGAのお子さんは増えているのではないかと思います

 

このSGAという体質、実は少し厄介です。母胎内で低栄養にさらされていると、赤ちゃんは栄養をため込んで少しでも大きくなろうとする体質を持って生まれます。しかし出生後は、母胎内とは真逆でたくさん栄養をもらえる環境です(たとえ母乳が少なくてもミルクがありますよね!)。赤ちゃんはここぞとばかりに栄養をドンドン吸収して、普通の赤ちゃんより成長の度合いが大きい『追いつき成長』をします。これを成長に詳しい小児科医は『catch upする』と表現します。

この『追いつき成長』により、SGAのお子さんの90%は3歳までに正常の身長まで追いつくと言われています。

図1が正常の成長です。図2が追いつき成長です。図示するとわかりやすいですね。

追いつき成長で正常の大きさになれてよかったね!という話かというと、そう単純にはいきません。このSGAの体質を持ったお子さんは、大きくなっても栄養をため込む体質が消えません

つまり普通の大きさで生まれたお子さんよりも、太りやすく、生活習慣病に罹患しやすいと言われています。

強く関連性がある疾患として、高血圧、冠動脈疾患、2型糖尿病、脳卒中、脂質異常症、神経発達異常が有名です

 

SGA性低身長とは?SGA性低身長に対する成長ホルモン治療とは?

SGAで正常の身長に追いつかなかったお子さんのことをSGA性低身長症と言います

SGA性低身長症には、成長ホルモンの投与の基準が定められており、ある基準以下の身長や成長度のSGAのお子さんは、保健適応にて成長ホルモン治療を受けることが出来ます。

一般的にSGAで生まれたとしても、追いつき成長で3歳までに90%は正常の身長に戻ります。残りの10%のSGA性低身長のお子さんの、さらに一部分のお子さんに、成長ホルモンの適応があります。

つまり、SGA性低身長症の成長ホルモン治療の基準はかなり厳しい基準で、SGA性低身長であったとしても、治療の適応に該当する人は多くはありません。

私の小児科にはSGAのお子さんが多く通っています。私の勤務する病院は、新生児科・産婦人科を備えた病院なので、必然的に妊娠・出産にリスクの高い妊婦さんが近隣の病院から紹介され集まる傾向があり、その結果SGAのお子さんが多く生まれる背景があるためです。

 

成長ホルモン治療は、お母さん・お父さんがほぼ毎日自宅でお子さんに自己注射することが必要な治療です。家で治療だけしていればいいわけではなく、1-2か月に1回外来にきて診察を受けたり、成長ホルモンの副作用が出ていないか採血やレントゲンでチェックしたりが必要ですので、本人・家族に負担のある治療です。

最近は、針が細く短く改良されたこともあり、痛みがより少なくなりましたが、毎日自宅で自分の子どもに注射を打たなければいけないことは、本人はもちろんのことお母さん・お父さんにもきっと心の負担があるだろうな、と私は思うわけです。

 

冒頭のお母さんに関してアシュアが思うこと

そして冒頭のお母さんのお話に戻るわけですが、このお母さんはご自身で、お子さんの身長の低さを心配され、当院の新生児科の主治医に相談しました。新生児科の先生と私は顔見知りなので、成長に関する相談ということで、当科へ紹介して頂きました。

結果、このお子さんは、SGA性低身長であること、成長ホルモンが使えそうなことがわかりました。その後、外来と入院にて成長ホルモンを導入するための精密検査を行い、最近ようやく成長ホルモン治療にこぎつけることが出来ました。最初の1回目は、外来で1時間くらい時間をとって、私がお母さんに注射のやり方(=手技と言います)を教えて、お母さんがお子さんに注射をするまでを見守り、行っていただきました。

さすがに1回目は本人も恐怖の方が勝ってしまい、大騒ぎで大変でしたし、お母さんの手も震えていました。しかし、最近では家でお利口に注射を頑張っているようです。

成長ホルモンの効果も出てきて、はじめはかなり小さかったお子さんも、最近は正常な身長のレベルまで改善してきています。

 

このお母さんは、おそらく小さく早めに我が子を産んだことに対して、自分を責める気持ちがあったのではないでしょうか。ですから、自分から新生児科の先生にこどもの身長のことを相談したと、私は思うわけです。幸いにも成長ホルモンの適応があり、精査の結果打つことができて良かった…というのは小児科医である私の勝手な思いであり、きっとお母さんは『本当ならいらない検査なのにごめんね…』『本当なら痛い注射を打たなくてもいいのに、小さく生んでごめんね…』という思いだったのではないでしょうか。それでもこどものためを思って、成長ホルモンを打つために、検査や入院を頑張ってきた。それなのに、周りのお母さんからはまさかの『栄養の管理が悪いからあなたの子どもは小さいのではないか』という的外れの言われ方をされてしまった。

いきなりそんなことを言われてびっくりしたり、悲しくなったり、悔しかったりでフリーズしてしまったのではないかと思います。もちろん詳しい事情を説明する必要もありませんが、でも勝手なことを言われて本当に悔しかったんじゃないかと思います。こっちの気も知らないで!ってやつですね。

私の外来でこのお母さんが少しでも本音をこぼすことが出来て良かったとは思いますが、人間顔が皆違うのと同様に、当然身長が高い人・小さい人、やせている人・太った人…様々な人がいるのが当然ですよね。

当たり前のことですが、外見のことを色々と指摘するのは非常にデリカシーのない、下品な行為だと思います。それよりも内面や優れている点を認め合って、よい人間関係を築いていけたらと思います。

このお母さんにもその他の私の外来を『低身長』を主訴に受診される方にはいつもお話ししている事なのですが、身長だけでお子さんを低く評価するようなことがあっては、やはり本末転倒です。自分の外来で見ているお子さんの中には、お母さん・お父さんから『身長が低い』ことでやや自己評価が低くなっているお子さんもいるように思います。そういったお子さんは、自己評価が低くなった影響で、本来ならば発揮されるはずの能力が、発揮できていない可能性もあります。

身長の治療を行っている自分が言うのもなんですが、『見た目で人を判断しない』だけではなく、『色々な価値観で人を判断する』ことを、我々親はこどもたちに教えてあげるべきではないでしょうか。私の周りにも身長は低いけれど、とっても魅力的なドクターが沢山います♪

 

まとめ

・生まれた時の身長、体重でSGAという体質を持っているかどうかがわかる。

・SGA性低身長症の中で、成長ホルモンが保健適応で使えるお子さんがいる。

・とはいっても『身長が低い』だけでご自身のお子さんを判断することは避けてほしい。

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