こんにちはDr.アシュアです。今回は、抗インフルエンザ薬であるタミフルと、インフルエンザワクチンについてお話したいと思います。インフルエンザの流行シーズンになってくると、子の両者については外来で、色々な質問をされます。
特にタミフルを含めた抗インフルエンザ薬については、年々新しい薬剤が発売されたりしていて、近年でも進歩がめざましい分野ですよね。進歩が著しいが故に何が必要なのか、安全性は大丈夫なのか、色々な情報が飛び交っています。世のお母さん・お父さんは、何が本当なのかとても分かりづらくなっているのではないでしょうか。
また、ワクチンについても毎年色々な上昇が出てきます。ワクチンの供給一つとっても年によって多かったり少なかったり…それだけでも毎年大きなニュースになりますよね。今回は、抗インフルエンザ薬のタミフル、インフルエンザワクチンについて、理論的な裏付けのあるお話をしたいと思います。
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目次
タミフルはもはやインフルエンザに必須の薬ではない
WHOが2017年6月にタミフル(=薬剤の正式名称はオセルタミビル)を、
『保険システム上最低限必要な薬』⇒『補足的な薬』
に格下げしたことをご存知でしょうか。
WHOがこの格下げを行った裏には、もちろん理論的な裏付けがあります。
2014年のコクラン・レビューから下記のような報告がでました。
タミフルを早期から内服しても、症状が16.8時間早く軽減するものの、その後の入院率の際に影響しない、喘息のある子どもに対して効果はない、子供に対する予防的内服に関しても効果がない
コクラン・レビュー?と思った方、より深く知りたい方はこちらで概説されていますのでご参照ください。
世の中には日々研究者によって多くの医学論文が出てきますが、『第三者がその中から質の良いものを選抜し、現時点での『本当の真実に近い情報』をまとめてくれたもの』を、システマティックレビューと言います。
コクランはこのシステマティックレビューのうちの一つで、医者であれば必ず知っていると言っても過言でないくらい有名なものです。
話をタミフルに戻しましょう。こどもに重篤な合併症を残しうるインフルエンザ脳症についても、タミフルの早期投与によって予防できるというエビデンスはないということが、コクランレビューでの提言の背景にあるのだと思います。いずれにせよ、インフルエンザになったらとにかくタミフルを!!という時代はもう終わってしまったのだと思います。
タミフルを含めた抗インフルエンザ薬を投与したほうが良い場合とは
2014年に日本小児科学会からのインフルエンザの外来診療において提言が出されていますが、その要旨は4つです
発症48時間以内の投与が原則だが、重症化のリスクが高く、症状が遷延する場合は48時間以降も投与を考慮する
基礎疾患がない場合は医師の判断で投与を考慮する
抗インフルエンザ薬は必須ではない
ここでいう重症化の可能性が高いとされる場合は、患者さんが幼児であったり、基礎疾患を持っていたり、呼吸器症状が強いという定義となっています。
また、その中の基礎疾患があるというのもはかなり幅が広い考え方ですね。
個人的には呼吸器系・心疾患系の病気、または先天性疾患を持っているお子さんは要注意かなと思います。
多くの小児科医が良く経験しているケースだと思いますが、代表的な先天性疾患の一つのダウン症候群の患者さんは、もちろんインフルエンザで重症化しやすいですし、他のRSウイルスなどのウイルス疾患でも重症化しやすいです。
また、医師の判断で抗インフルエンザ薬を使っていいが、必須ではないと。いう何とも歯切れの悪い、自由度の高い提言となっています。
WHOの提言、日本小児科学会の提言からわかる通り、世界のトレンドとしては、タミフルはインフルエンザに対して必須の薬剤ではない、と考えても良さそうです。
ただし、投与を推奨される患者さんがいることももちろん事実ですから、必要な患者さんにしっかり薬剤が届くように我々小児科医は心を砕く必要があります。
インフルエンザワクチンは効果があるのか
さて、話をインフルエンザワクチンにうつしていこうと思います。
まず、そもそも論ですがワクチンの効果とは、いったい何のことを指すのでしょうか。
もちろん、一般的にはワクチンの効果=『病気の発生の予防』でしょう。
麻疹風疹ワクチン、水痘ワクチン、おたふく風邪ワクチンなどなど、これらワクチンの目的は、病気の発生の予防であることは疑いの余地はありません。
しかし、インフルエンザワクチンにおいては、そもそもの目的が一般的なワクチンと若干異なっている節があります。
日本小児科医会から出版されている予防接種マニュアル改訂第3版にもこのように記載があります。
『現在の不活化ワクチンはインフルエンザウイルスの感染を防ぐ働きはありません。発症予防の効果はある一定で認められていますが、総じて70-80%とされています』
さらにこどもではどうかというと
『就学前の小児ではインフルエンザ不活化ワクチンのインフルエンザの発症予防効果は、20-30%程度である』
との記載もあります。この知識については実は一般のお父さん、お母さんには広がっていないようです。
みたいなお話は、外来をやっているとよく耳にします。
まあ確かに発症予防効果20-30%だと、ほぼほぼ発症予防としては破綻している数字ですよね。
ではインフルエンザワクチンは、意味がないのでしょうか。
インフルエンザワクチンを接種する一番の目的は、なにか
インフルエンザワクチンを接種する一番の目的は、それは『インフルエンザを発症した時の重症化予防効果』です。
論文でよく出てくるインフルエンザの重症化の定義としては、主に入院した、肺炎になった、急性脳症になったといったものですが、これらに関しては複数の論文が出ています。
インフルエンザワクチンの効果
入院を90%減少させる
仕事の病欠を43%減らす
N Engl J Med 333. (14): 889-893. 1995
インフルエンザ肺炎のリスクを67%下げる
JAMA 2015 Oct. 5; 1488
またワクチンを接種したこどもへの効果だけではなく、その恩恵を高齢者が受けているという背景もあります
N Engl J Med 357. (14): 1373-1381. 2007
これら論文が掲載されている医学雑誌はインパクトファクターが非常に高い雑誌であり、論文が示す結論が『本物の真実』に近いであろうと推察することが出来ます。
インパクトファクターとは、簡単に言えば、ある医学雑誌が世の中へどれだけ影響力を持っているかを示した数字です。
研究者は自らの研究結果を論文にして、医学雑誌などに投稿する(掲載してくださいと依頼することですね)わけですが、インパクトファクターが高い雑誌は、投稿依頼のあった論文を徹底的に吟味し、質が高いものだけを掲載します。こういった医学雑誌には、そもそも簡単に論文を載せることはできないため、インパクトファクターが高い雑誌に掲載された論文=本物の真実に近い結論を導いた論文である可能性が高い、と言えるわけです。もちろん、個々に論文を読み込む必要はありますけどね。
インパクトファクターは詳しく知りたい方は下記を参照ください。
現在使用されているワクチンにおいては、2011年~2012年シーズンに3-8歳の小児に対して行われた多施設共同無作為比較試験について有用性が実証されており、中等症~重症例を74.2%減少させたと報告されています。
まとめ
重症化のリスクのあるお子さんに抗インフルエンザ薬を使おう
インフルエンザワクチンは幼児の場合は、発症予防薬にはならない
インフルエンザワクチンはインフルエンザの重症化を抑える効果がある
以上となります。参考になれば幸いです。
僕の勤務する病院は常勤の小児科医が10数名いますが、家族全員に毎年インフルエンザワクチンを接種させています。参考までに。