こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第22・23話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。
「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。
漫画の情報については公式HPをご覧ください。
原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。
第1~2集も発売され好評のようです!
前回、もやもや病の5歳の女の子「莉乃ちゃん」と祖母を勇気付けた主人公の鈴懸真心先生でしたが、自身の兄・鈴懸英樹先生と、考え方の違いからもめてしまいました。
真心先生は、患者さんの気持ちが救えるなら「大丈夫」って声をかけてあげてもいいよね、というスタンス。
英樹先生は、最悪の事態もあり得るわけだから、医者が簡単に「大丈夫」というべきではない、というスタンス。でした。
Dr.アシュア的には”自分の領域外の病気の治療方針・治療経過については、責任を持ったコメントが出来ない&想像で物は言えない”と思うので、、鈴懸英樹先生の立場を支持する立場かな~と書きました。英樹先生はなんともドライですよね~、ちょっと患者受けしない所があるかもしれません。
今回は、もやもや病の莉乃ちゃんのお母さんが登場します。莉乃ちゃんは、お母さんに見せたかった鍵盤ハーモニカの演奏をどうやって披露するのでしょうか。
22話、23話も新しい病気の話は出てきていませんので、今回はストーリー解説のみになりそうです。
それでは、見ていきましょう。
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第22・23話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて
もやもや病の5歳の女の子「莉乃ちゃん」の母親は、仕事中に電話で娘の病気のことを知り、すぐに病院に駆けつけました。
母親が病院に着くとすぐに小児外科医・八柳先生、小児科医・真心先生から病状説明を受けることに。
娘の病名はもやもや病であること、足を引きずっていたのは症状の一つであったこと、この病院では治療ができず転院が必要なこと・・・
話を聞き終えた母親は、莉乃ちゃんに付き添っていた祖母を見つけます。
母親は、祖母の”病院を受診したほうが良い”という勧めを話半分で流していたことを思い出し、祖母に謝ろうとします。しかし祖母は全く怒る素振りはなく、むしろ母を支えようと笑顔で話しかけるのでした。
「救急車に乗る前に、莉乃が発表会で練習していた“ありがとうの花”を鍵盤ハーモニカで弾きたいんだって。あなた新しい仕事に就いたばかりで行けなかったでしょ?聞いてくれる?」
莉乃ちゃんは、真心先生をはじめとする、小児医療センターのスタッフに囲まれながら、プレイルームで鍵盤ハーモニカを演奏するのでした。もやもや病の彼女は、鍵盤ハーモニカに息を吹き込むことは出来ません。息を吹き込むのは、なんと祖母に助けてもらうのでした。
莉乃ちゃんと母親は、救急車に乗って転院していきました。小児外科医で主人公の兄・英樹先生は、演奏会には参加せず、静かに救急車を見送っていましたがその表情は硬いままでした。
場面は変わり、真心先生は来たる北広島市総合医療センターへの就職に向け、東京の病院に戻ってきていました。患者さんの引継ぎなどの仕事が残っていたためです。もう桜の季節で、東京の病院で過ごす時間もあとわずかのようです。
そこで真心先生は、以前”腸重積”を治療した小野寺宏太君とお母さんに偶然出会い、お母さんからこう話かけられます。
「病院を変わられるんですね。寂しくなりますね・・・。宏太の事、ずっと診て欲しいお医者さんだと思っていたので・・・」
真心先生は、別れを惜しみつつ、自分が理想の小児科医に近づけているのか自問自答するのでした。
そして以前から元の病院では気の置けない友達同士だった、元同僚の後輩小児科医「ナベ君」とも、お別れをしたのでした。
そして場面は再び北広島に。真心先生は、北広島市総合医療センターに就職し北広島市に転居しました。新しい土地で、新しいアパートで心機一転、真心先生は小さく「よし、がんばるゾ!」と気合を入れるのでした。
北広島市総合医療センターでの勤務が始まったある日のこと、真心先生は自分の兄・英樹先生と外来ですれ違います。
「改めて…今日からよろしくな」と英樹先生。
真心先生は「ここでは自分も兄ちゃんもただの医師。過去は持ちこまない」「俺は小児科医、あんたは小児外科医として、スタッフと団結してベストを尽くそう」「よろしくお願いします」
と笑顔であいさつしたのですが、英樹先生の表情は硬いままでした。
・・・仕事が終わり自分のアパートに帰ってきた真心先生。自分の部屋の前に、なにやらブツブツしゃべっている怪しいフードの男が!
なんとそいつは…東京の病院で一緒に働いていた「ナベ君」!!!! なんと真心先生を追いかけてきたようです‥‥。
東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第22・23話より
莉乃ちゃんとおばあちゃんの鍵盤ハーモニカの演奏会、”ありがとうの花”、いい曲ですよね~。
NHKの「おかあさんといっしょ」で流れている定番曲で、実は2009年9月の曲に発表された曲で、ずーっと歌いつがれている曲の一つだそうです。
僕も自分の子どもが小さいとき(ってまだ一番下は3歳代ですけど)、「おかあさんといっしょ」には相当お世話になりましたが、この曲良く聞いた記憶があります。横山だいすけお兄さん・三谷たくみお姉さんの時代だったかと思います。
この曲とっても歌詞がいいですよね。温かい気持ちになるよい歌です。ちょっとリンクを貼っておきますね~。
うちの病院でも、コロナ禍になる前は小児科内で、楽器が出来る医師・看護師が集まって「病棟ミニコンサート」を開いていました。実は私はギターで伴奏に参加していたりしました。今は出来なくなっちゃいましたけど、、、いずれまた再開したいですね。
そして、鈴懸真心先生は、ようやく北広島市総合医療センターに就職するようです。
今までも普通に北広島市総合医療センターで小児科医として働いていたように見えたのは?・・・なんだったんでしょうか・・・。見学というにはかなりグイグイやってましたよね真心先生…。
一度東京の病院に引継ぎのためもどり、また北広島市総合医療センターに戻ってきた真心先生は、ずいぶんと晴れやかな笑顔で兄・英樹先生に挨拶していましたね。今まで基本的にケンカ腰で突っかかっていた態度がウソのよう!!いったいどうした真心先生!?
東京で宏太君・宏太君ママと再会して、自分の理想とする医師像を思い出したんですかね?
ネチネチと昔のことにこだわっていないで、目の前にいる患者さんのことに集中して仕事をしよう!と、気持ちを新たにした結果の”あの”笑顔なのかもしれませんね。
なんていうか、患者さんを助けているはずの医師が、患者さん自身に励まされる現象。。。リアルワールドでもあるなぁ…となんか、ジンワリきました。
私のケースだと、特に1型糖尿病にかかったお子さんやご家族を診療するときの話になりますが…。
1型糖尿病というのは生活習慣で発症する病気ではないので、ある日突然”インスリン”という注射の薬が無いと生きていかれなくなるという状態にお子さんと、その家族が突き落とされるんですね。
初めは、注射を打ちたくない、なんで自分が…みたいな感じで子どもも荒れるわ、家族も動揺するわで大変なんですが、時間とともに悲嘆の時期は過ぎ、だんだん子どもも家族も前向きになって、元気に退院していくんですよね。
海外と違って、日本では患者さんが少ないので、小学生の患者さんなんかは、もちろんクラスや学年に注射をしながら学校に来ている子どもがいない中、頑張って注射をして生活している。勉強や運動も普通の子と同じレベルで頑張っているんですね。
外来でそういうお子さんやご家族が、日常生活を頑張っている、勉強・運動を元気に頑張る姿を見せてくれると、普段からお疲れ気味の私も元気をもらえるんですよね。
「そうそう、自分はこういう患者さんとかご家族を支えるために小児科医やってるんだよね。頑張らなきゃ!」
と自らの初心に帰ることができるというか、そういう気持ちにしてくれる患者さん・ご家族っているんですよね。ちょっと思い出しました。
ちょっと脱線しました。話をプラタナスの実に戻しましょう。結果として真心先生は、腸重積を診断して救った宏太君と再開したことで、本来の初心にかえることが出来たようです。過去の遺恨がある兄・英樹先生ともお互いプロとしてやっていこうと決意の挨拶になったんですね。
・・・しかし、「改めてよろしく」という兄・英樹先生は全然笑顔じゃない…。めっちゃ真顔。。。。
兄・英樹先生の方は腹に一物抱えるみたいな感じ。今後のお話の中でもこの兄弟、まだまだトラブりそうですね。
そして小物臭ただよう「ナベ君」。もともとは東京での真心先生の同僚で、後輩小児科医とのことでした。
真心先生を追いかけて北海道まで来てしまったようです。これ流れ的には同じ病院で働く感じなんでしょうかね。。。話が長いくらいしか印象にないナベ先生が、これからのお話にどのように絡むのでしょうか…。興味があるような無いような(笑)
ストーリーは色々進んでいるのですが、真心先生は東京と北海道を行ったり来たりで仕事の引継ぎをしていましたよね。今回は「小児科医の引き継ぎ業務」について、自分の体験談を書いておこうと思います。
Dr.アシュアの小児科医の仕事の引継ぎの苦労話
私が今の病院に就職する直前は、こども病院で働いていました。病院を離れる時期になると、当たり前のことですが今まで担当していた患者さんの診療が出来なくなるので、担当患者さんのことを他の先生にお願いしておく必要があります。
「カルテを見ておいてください」
というのは、かなり失礼です。
一般的には、”カルテの内容を一定の書式にまとめておく”のが最低限のマナーになると思います。
特に経過が長い患者さんや、複雑な経過の患者さんの場合は、カルテを追うだけで相当な時間がかかってしまうので、やはり一番分かっている主治医が情報をまとめておかないと、次の主治医の先生はスムーズに診療に入れないですよね。
私がこども病院を離れる時は、カルテのまとめの資料を作成して、次に担当する先生と読み合わせをして、質問に答えて・・・というのを担当患者さん全てで行いました。通常業務を行いつつ+αでやるわけなのでかな~り忙しかった記憶があります。正直、担当患者さんとの別れの時間を惜しむよりも申し送りで忙殺されていました。
…そして、今の病院に就職してきたわけですが、、、、今度は”申し送る側”から、”申し送られる側”になるはずでした・・・。
前任者から「内分泌外来」を受け継ぐ形だったのですが、前任の先生が開業の準備で忙しいのか、引継ぎ資料を作ってくれることが確率的には五分五分くらいだったんです。これには相当驚きました・・・。
前任者の先生は、ずいぶん上の先輩ではあったんですが、知っている先生で関係性も出来ていたこともありけっこうズケズケと申し送り作っといてくださいアピールはしてました。
・・・・そして引継ぎ患者さんの外来の日…
これね、恐怖の外来ですよ??
「もともと入っていた予定の外来で来院した患者さん」に「なぜ来院したか聞く小児科医」というアホ&脂汗必至の初対面の挨拶!!!
これは本当に参りました。こんなん患者さんとしたら、信頼もくそもなくなっちゃいますよね。。本当にひどすぎる…。思い出したら泣けてきた…。
その後、もはや前任の先生が引継ぎ資料を作ってくれないかも…と超心配になった私は、事前に自分でカルテをあさってまとめをつくることにしたのですが。。。ここにさらなる落とし穴が…。
なんと、、、カルテがそもそもあんまり書かれていない上に、暗号みたいになってて分かんねェ・・・・・
だから、カルテを見返しても何の診療をしているのか良く分からない・・・・・。
そして繰り返される恐怖の外来…「もともと入っていた予定の外来で来院した患者さん」に「なぜ来院したか聞く小児科医」の出来上がりですよ(怒)。
当時はさすがのDr.アシュアもキレてましたね…。今度は思い出すほどにムカついてきた・・・。
しかも引継ぎも中途半端に半年くらいで前任者は開業でいなくなってしまったというオチもついているという。
ちなみにこの話は私が苦労したという話ではなくて、どっちかというと引継ぎがしっかり行われていないと患者さんが困るよねって話です。
次の主治医に診療情報が十分に受け継がれていないと、余計な検査を繰り返してしまったり、重要な事項を見落としてしまったりとリスクがすごくあるんですよね。
カルテは万が一訴えられたりして開示請求があれば、他人にも見せる可能性のある資料なわけでとっても重要ですし、そもそもDr.アシュアが倒れたりしたら、誰かがなんとか自分の患者さんを診療しなければならず、その時頼りになるのはカルテだけです。
「カルテは分かりやすく誰が見ても誤解が無いように正確に記すべき」ということも反面教師として学んだ、そんなお話でした。
最後に
今回は、またまたストーリー解説がメインでした。
もやもや病の女の子とのお話がひと段落ついて、真心先生も正式に北広島市総合医療センターに就職したとのことで、小児科医・真心先生と小児外科医・英樹先生のタッグの絵面が増えそうです。まだまだ信頼関係はマイナスからスタートのタッグっぽいですが(笑)
実は、この兄弟の過去の遺恨もまだ漫画の中では明らかになってません。今後のお話でだんだん明らかになってくるのでしょうか。
注目していきたいです。
追記
プラタナスの実 1巻・2巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。
色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。