漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第15,16話を小児科医が解説! 真心先生はウソをついている?

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第15・16話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1集も発売され好評のようです!

 

前回までにビタミンD欠乏でけいれんしてしまったお子さんのお話が一区切りつき、今回からは再び場面転換!

骨髄性白血病の女の子、トモリンのお話に戻ってまいりました。

久々にトモリンの話に戻ってきたので、前のお話を忘れている人も多いのでは?

その辺りの復習と、第14・15話について語っていこうかと思います。

今回は、病気のお話はあまりないので、ストーリー解説中心になりそうです。

それでは見ていきましょう!

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白血病患者の「トモリン」について復習!

急性骨髄性白血病のピアニスト「トモリン」、久々の登場ですね。

第8話が最後の登場だったと思うので、実に7話ぶりの登場になります。

どんな背景のあるお子さんだったのか、ちょっと復習しておこうと思います。

 

トモリンは主人公の鈴懸真心(スズカケ マコ)先生と一緒の北広島市出身で、Youtubeをきっかけにブレイクした若干14歳のピアニスト。Youtubeでの人気は凄まじくフォロワーは330万人!と世界的にも有名人で、ワールドツアーを控えている…何とも規格外の中学生です。

トモリンと北広島市の空港で偶然出会った主人公マコ先生は、トモリンの顔色・腕のアザ・全身状態から、彼女の体に貧血・血小板減少が生じていることを疑いました。

少し動いただけでひどい倦怠感・動悸が起こるなど、明らかに体調が悪かったトモリンは、マコ先生の勧めもあり北広島市総合医療センターで精密検査を受けることにしました。

採血の結果から白血病が疑われたのでしょう。骨髄穿刺の結果、トモリンは「急性骨髄性白血病」と診断されたのでした。

 

ショックを受けるトモリンと母親でしたが、マコ先生の「全力で君と君のご家族と一緒に病気と闘います」という励ましの言葉を受け、病気に立ち向かっていくことを決めたのでした。

 

…というのが、今回のお話の前までの情報だったと思います。

 

これから、トモリンとマコ先生はどのような運命をたどるのでしょうか。。。

 

第15・16話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

 

ある夜、トモリンは悪夢を見ます。

・・・沢山お客さんがいるなか、ピアノを弾き始めるトモリン。トモリンがピアノを弾き始めた途端、体は石になり、崩れて壊れる・・・

うなされ病室で目覚めたともりんは、ベッドの中でふと携帯で検索してしまいます。

(急性骨髄性白血病 生存率…)

色々なWebページを見ているともりん、Webページには色んな数字が踊っています。

(…何%治る、死亡率は何%、副作用が…)

トモリンの額には冷や汗がにじみ、表情が暗くなり、とうとう布団をかぶって丸まってしまうのでした。

 

ある日、トモリンは小児科病棟に置いてある電子ピアノの前で立ち止まり、あの悪夢のことを思い出していました。

と、そこへ唐突に現れたマコ先生「電源入れて弾いてもいいんだよ」と声を掛けますが、トモリンはその気はない様子。

トモリンは、あの悪夢の内容をマコ先生に伝え質問をします。「先生、同じ白血病の子、今まで診たことある?」

マコ先生が「今までに37人診てきた、君は38人目」と答えると、つかさずトモリンが聞きました。

「みんな・・・元気にしてる??」

不安が一杯のトモリンの表情を見たマコ先生は、温かい飲み物を飲みながら少し話そうと提案します。

 

ラウンジのテーブルに腰かけた2人は色々な話をしました。トモリンがピアノを始めたきっかけ等々…。

その中で、マコ先生は、トモリンもお父さんとの関係がうまくいっていないことを知ります。

ともりんは元々はお父さんに教えてもらったピアノがきっかけで成功しましたが、お父さんは娘がYoutubeや雑誌に出たりするのが嫌だったようです。二人は些細な意見の相違から大喧嘩してしまい、もう1年くらいずっと顔を合わせていないとのことでした。

マコ先生は、自分と父親の確執と、トモリンと彼女のお父さんの境遇が少し似ていることに驚き、ある提案をします。

「自分も父さんと向き合ってみるから、トモリンもお父さんと向き合ってみようよ」

「自分がみた37人の白血病の子はみんな元気にしてる。全部、一緒に乗り越えよう」

マコ先生に再び背中を押される形で、トモリンは父親に手紙を書くことにした様です。

 

そして数日後のこと、マコ先生は、病院の前でトモリンのお父さんをつかまえ話をしていました。

自分が娘の主治医であることを伝え、どうやらトモリンからお父さんにあてた手紙を渡すようです。

しかし、マコ先生からトモリンのお父さんへ渡された手紙は、手紙というより、、、どう見ても招待状!

「ともりん復帰LIVE」と書かれた招待状には、招待客「お父さん・お母さん」と書かれており、トモリンの強い意志が感じ取れます。

・・・私は「急性骨髄性白血病」を克服しピアニストとして再起する。その復帰ライブにはお父さん・お母さんを招く・・・と。

驚いた表情で招待状を握りしめるトモリンのお父さん。するとマコ先生、なぜか招待状をすっととりあげてしまうのでした。

マコ先生は言います

「トモリンからこれを渡すように頼まれたけれど、僕から渡すのはあまりに重たすぎる。是非トモリン本人から受け取ってほしい」と。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第15・16話より

どうやらトモリン、自分の病気のこと、今後の経過のことなど不安が一杯の様子。

当たり前ですよね、だって「血液のガン」ですもん。そりゃあ病名でWeb検索したくなる気持ちも分かります

そして、マコ先生、自分が見てきた患者さんのことすべて覚えているんでしょうか・・・。ちょっと凄すぎませんか?

しかも血液腫瘍37人今までに診療してるって、相当な経験ですよね。

血液腫瘍のお子さんの治療はそもそも年単位で時間がかかるから「1人の診療を終えた」ってなるまでに結構時間が必要だと思うんですよ。。

普通の市立病院クラスで働いてきた小児科医とは思えないくらいの経験値だと思います。

血液腫瘍を主に扱っているような専門病院で4-5年くらいがっつり研修しても血液腫瘍の症例30症例以上って、相当難しいような気がします・・・。

マコ先生の経歴が気になる・・・一体何者・・・。

 

そして、マコ先生に励まされたトモリンは、父親に向き合うことを決意して手紙を作ります。

…両親にあてた手紙は、なんと両親だけを招待した復帰ライブの招待状でした。

これは・・・

 

・・・泣いてまうやろ~

 

自分が親なら、、、涙が止まりませんね。。

病気を克服して再びピアニストとして再起できることを願うのみです。

がんばれ、トモリン! がんばれ、マコ先生!

 

この後は、お話の中でちょっと気になった所について、書いていこうと思います。

 

白血病の患者さん37人が全員元気って、本当かな?

今回の話の中で、

ともりんがマコ先生に「今まで白血病の患者さんを何人診たか、みんな元気にしているのか?」と聞いていて、

マコ先生は「37人診てきた、みんな元気にしている」と答えていましたが、、、これは実際本当のことを答えているのでしょうか。

 

Dr.アシュア的には、おそらくマコ先生は「本当のことを言ってはいるが、大事なことを言っていない」と思いました。

 

「みんな病気が治っている」じゃなくて「みんな元気にしている」ですもんね。

 

だから「みんな元気にしている」は行間が抜けていて、

本当は「みんな(が病気が治ったわけではないけど)元気にしている」という意味じゃないかなぁと思います。

 

急性白血病は長期生存率が改善されてきているといっても、急性リンパ性白血病で90%、急性骨髄性白血病で70%と言われています。小児外科  52(5):  434-437  2020

30人以上診療していたなら、経過が悪かったお子さんだってさすがに一人二人はいるのが、真実でしょう

 

多分、マコ先生はトモリンを励ますために、敢えて「全員元気にしている」と答えたんじゃないかなぁ。。。

経過が思わしくなくて今も化学療法頑張っている患者さんも中にはいるけど、その患者さんも元気で前向きに頑張っているよってことで、「全員元気にしている」って答えたのかもしれないし、

そもそもトモリンが「みんなが病気が治ったか?」と聞けず「みんな元気にしているか?」と質問したので、そのまま答えを返したのかもしれないですね。

 

言葉遊びみたいで、何とも言えないですけれど、きっと二人の会話の裏にはそんな事情があるんじゃないかな?と思いました。

 

「病気」についてWebで検索 しちゃうけど… おすすめしません

これね、、してしまいますよね。

小児科でも重症疾患が少ない領域「小児内分泌」を診ている自分でも、「先天性副腎過形成症」とか「1型糖尿病」など、一生ものの病気になってしまったお子さんの両親から「Webで検索したんですけど…」と、外来で聞かれるケースはかな~り多いです。

自分のことでも心配なのに、ましてや自分の子どものことだとより心配なのは、自分も人の親なので良く分かります。

ましてや、今はスマホでインターネットにアクセスすれば色々な情報にすぐに触れられる時代。

「検索したい」という気持ちはやはり抑えられないと思います。

しかし、医療情報についてはWebで検索で安易に情報収集しようとすると、専門的な知識が無いとメンタルがやられると思います。

いくつか理由を書いていきましょう。

その1 Webで出てくる情報は玉石混合

そもそも医療者であっても、医療情報の質の評価を正当に行うことは、意外に難しいです。

医学論文の質などは、正当に評価するとなれば、統計学などに普段から勤しみ、鍛錬している医者じゃないとまずできません。

特に引用文献がないような医療情報は鵜呑みにしてはいけません。根拠を明らかにしてない点だけでかなり怪しいです。

 

その2 その情報はうちの子に当てはめられるのか

例えば「白血病のお子さんは長期生存率が90%」という情報があったとして、白血病の文字だけだと、急性リンパ性白血病のことを言っているのか、急性骨髄性白血病のことを言っているのか分かりません。もしかすると、2つの病気をまとめて白血病と呼んでいるのかもしれません。

その情報が自分のお子さんの状況に使えるかどうかを判断しようと思ったら、主語が正しいかが大事になるわけですけど、こればっかりは元文献を当たってみるほかはないわけです。

それで、そもそも自分のお子さんの病気と違う病気が主語の検討だったなら、その情報は何の意味もなくなりますよね。

 

その3 数字は非常に強い力を持っている

情報が役に立つかどうかという話の前に、死亡率とか副作用の発生率とかいう「数字」は非常に強い力を持っています

ここでいう強い力というのは、正しいとか正しくないとかいう話ではなくて、数字って出てきただけでなんとなく信ぴょう性が上がってしまう怖いパワーがあるんですよ!という意味です。

 

例えば「大部分のお子さんに効く治療です」という言い方と、「85%くらいのお子さんに効く治療です」といういい方を比べてみましょう。

なんとなく、後者の方が合ってる合ってないの前に信ぴょう性が高いような気がしませんか?数字の根拠は示されていないのに。

だから怖いんです。

 

数字には強い力があるので、死亡率〇%とか、この治療は■%は効果があるとか書かれていると、なんだかそれだけでその数字が真実のことを言っているような気がしてきてしまいます。その数字=情報が正しいのか?自分のお子さんの役に立つのか?は、根拠となっている文献を精読する努力を怠っては判断ができないです。

 

その4 人間は自分が信じようと思った情報を信じがち

そして、これはどうしても仕方ないことですが、人間は自分が信じようと思った情報を信じがちです。

 

死亡率に関して言えば、死亡率が高いという情報は信じたくないし、死亡率が低いという情報は信じたいですよね。

もはや自分たちが安心できる情報を検索して信じるみたいな状態になってしまうと、もう訳が分からないです。なんのために情報を集めているんだか分かりません。

 

そしてこういう両親がこういう心理状態に陥ると、ニセ医療がスルリとその心の隙間に入りこんでくるリスクが上がります。

過去に1型糖尿病の子どもの親に「インスリンは毒」と吹き込んで、子どもを衰弱死させた自称祈祷師の事件がありました。

詳細はけいゆう先生のこちらの記事をどうぞ

親や患者さんの治してあげたい、治りたいという気持ちを利用するこういった卑劣な事件は、後を絶ちません。

 

 

トレーニングを受けている医療者は、上で書いているようなことは分かっているので、ある医学情報を手にしたときに、むやみやたらにその情報を信じたりせず、参考程度に留めてその情報の真偽のほどを調べたり、実際に使える情報なのか精査すると思います。

しかし、病気のお子さんを抱えた親御さんたちが心配のままに医学情報を検索するとどうなるでしょうか。。。

情報の質がどうだこうだ言う前に、パワーを持つ数字の魔力にとりつかれてしまい、心を病んでしまったりニセ医療にハマってしまうリスクがあるのではないかと私は思います。

そういった時は、Twitterなどで有名な先生方が書いている根拠に基づいた教科書などを買って読んだ方が、100倍有用な気がしますね。

 

最後に 

病気のお話はほとんどしませんでしたが、気になったことについて少し深読みしてみました。いかがだったでしょうか。

お話としては、鈴懸マコ先生とトモリンは共に自分のお父さんと向き合うことを決めたようで、これから二人ともアクティブに動いていきそうですね。前回少しだけ登場したマコ先生のお兄さんも今後絡んでくるんでしょうか。楽しみです。

今回は、これでお終いにしようと思います。それでは~。

 

追記

2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

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