こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第5・6話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。
「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。
漫画の情報については公式HPをご覧ください。
東元先生にも企画について許可頂いており「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。
今回も第5話が病気のお話がなかったので、5話・6話をまとめて投稿させて頂くこととしました。
第4話でお母さんの髪の毛がからまり指が締まってしまった(ターニケット症候群)の患者さんを助けたマコ先生。
第5話ではお父さんから「一緒に小児科をやらないか?次に会ったらお母さんの墓参りに一緒にいこう」という声かけをされ、マコ先生はお母さんとの思い出を思い出したみたいですね。
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目次
小児科パパママあるある 「呼び出しで休日出勤。自分の子ども泣く…」
マコ先生が子どものころ、お母さんとお兄ちゃんと家で雪遊びをしていた時の思い出が書かれていましたね。
病院からマコ先生のお母さんに呼び出しのコール。子どものころのマコ先生が「ママ、行かないで」と話すと、小児科医のお母さんは子ども達に話しかけました。 病院には病気やケガでお家に帰れない患者さんが沢山いること、何年間も入院している人や生まれつきの病気でお家を知らない人がいること、お母さんはその子ども達をお家に帰してあげたいと思っていること…
ステキですね~。ちゃんと理由を話して出かけるあたりマコ先生のママの器の大きさがうかがえます。。
うぅ…自分も小児科医で、子どもがいるので同じようなシチュエーションの経験があります。
お休みで子ども達と遊んでいるときに病院から電話がかかってくる状況。。。
今は、スマホで色々連絡を取って情報収集すれば直接行かなくても何とかなるケースも多いですけど、自分の専門領域ど真ん中の難しい患者さんで、この状況だと自分が行かないとどうしようもならんっ!というケース、、、やっぱりあるんですよね。。。
そう言う時は、やっぱり子ども達に「パパ行かないで~」と泣きつかれたりすることもありました。辛い気持ちもありつつも病院に急いだ記憶が懐かしい・・。今は、子ども達も育ってきて「パパ、頑張ってね!!」と送り出してくれることも多くなりましたが…。
同級生で会社勤めの友達には「そんな労働環境じゃあ休みとは言えないし医療でブラックだよな」と良く言われます。確かにそうかもしれません。でも、小児科医として自分も専門領域を担当するようになると、「自分ではないと対応できない」というのはプレッシャーでもありますが、同時に大きなやりがいでもありますよね。
そして、マコ先生が自分の小児科医としての矜持を語っていましたが、じ~んときますねぇ。
自分も小児科医療は病気を治すだけではないと思っています。不幸にも病気になり健康と生活が壊れてしまった子どもと親を含めた家族が、(病気が治ればもちろんそれ以上のことはないですが)病気を持ちながらも再び希望をもって生活を立て直していく手助けができるところが、最大の魅力です。
外来で診療をしながら、「中学校に入って部活でとても頑張っています!」「病気で大変だったけど、自分の病気をネタにして夏休みの研究をしてみたら賞がもらえたよ!」なんて話を聞くこともあり、そんな時は自らのことのように喜んでしまいますね~。こども達は、大変な病気を持ちながら、それでも前を向き、なりたい自分やしたいことに向かって努力する姿を時に見せてくれるんですね。そんな姿は神々しくもあり、逆に自分が励まされるというか、浄化されるというか、、「僕も頑張らないとなっ」と思わされます。
当直だったり、いつまでも終わらない外来でクタクタに疲れてしまうことも多いですけど、ふとした時に「あ~小児科医っていいなぁ」と自然に思えることがあるって、ちょっと幸せだなと思います。
6話で登場の新キャラ、天才ピアニスト「トモリン」。何か病気を抱えている!?
6話では新登場のキャラ、弱冠14歳の天才ピアニスト「トモリン」が出てきました。マコ先生と同じくyoutubeで配信をしていたようですが、マコ先生とは違い(笑っちゃいけませんねwww)、youtubeで瞬く間に人気となりフォロワー数も330万人で、ワールドツアーも控えている、スーパービッグな14歳の様ですね。
昔はテレビタレントがいわゆる「有名人」だったわけですが、最近ではインターネットによって世界も小さくなりyoutubeなどのSNSで沢山のフォロワーがいれば、別にテレビなんて出ていなくても十分に有名人といって差し支えない時代が来ていますね。
このピアニスト「トモリン」、マコ先生の父親の病院のある北海道北広島市に住んでいるようですが、出かけるとき「我走了!(中国語で行ってきます)」と中国語がパッと出てくるあたり、親御さんが中国人なんですかね?漫画に出てきたトモリンのお母さんは普通に日本語ペラペラしゃべっている様子でしたし、お父さんが中国人なのかな? 私の子どもの学校にも普通に中国語かな?というようなお名前のお子さんがいたりする時代ですし、今では珍しくない感じですね。
しかし、このトモリンなにか病気を抱えているようです、、、漫画から得られた断片的な情報ですが、、、
症例:天才ピアニスト トモリン
14歳女児
主訴:朝起き上がれない、易疲労感(ひどく疲れやすいという事です)、動悸、息切れ
家族歴:???
内服薬:???
アレルギー:???
といった所でしょうか。。
北広島市の駅構内?でマコ先生が、ライブ演奏をしていたトモリンと偶然出会うわけですが、マコ先生はトモリンと握手した時、「腕にあざがある」ことに気づきます。
これを読むまでは、Dr.アシュア的には10代前半での易疲労感、動悸、息切れなどから「バセドウ病かな~、糖尿病かな~、いやいや心不全で喘鳴ってこともあるだろ…」とか考えながら読んでたわけですが(大分自分の専門領域に偏った鑑別診断ですが・・・)、「あざ」と来たとすると「貧血か!」と思い至りました。
医者が言う「貧血」と一般の人が言う「貧血」の違い
いわゆる医療関係者じゃない方がいう「貧血」と医学的にいう「貧血」はちょっと違います。
先に医学の用語でいう貧血について説明すると、これは赤血球の量が減少していることを示します。
細かいことを言えば赤血球が小さくなっている小球性貧血、赤血球の大きさが正常の正球性貧血、赤血球の大きさが大きい大球性貧血・・・というような分類があるのですが、それは置いといて、単純に「赤血球の量が減少していること」を貧血というのが医学的に正しい言葉の使い方です。
一般の方がいう貧血は、座った状態から急に立ち上がったときに頭がくらくらしたり、目の前が真っ暗になって倒れてしまったというような失神を指していることが多いと思います。もちろん赤血球の量が減少していれば、こういった失神(正しくは起立性低血圧)を起こすことが多くなるので、完全に間違いではありません。
しかし、起立性低血圧による失神は、脳に巡る血液の量が少なくなるような血液の「分布」の異常によって起こるので、血液の量が十分にあっても血管の緊張がゆるんだ状況だと起こってしまいます。例えば、トイレで排便していていきんだ後や精神的な緊張が強い時は、血管の緊張がゆるんでいることがあり、急に立ち上がると、血液の量は十分にあるのに脳に血液を十分回すことが出来なくなり、失神してしまうことがあります。
ちなみに、ここまで赤血球の量が減少する「貧血」について書いてきましたが、貧血でなぜ「朝起き上がれない、易疲労感(ひどく疲れやすいという事です)、動悸、息切れ」といった症状が出てくるのでしょうか。
赤血球は体の色々な臓器や細胞に酸素を運ぶ役割を果たしていることはご存知の方が多いと思います。
その赤血球の量が極端に少なくなってしまうと、赤血球の量の少なさを血の巡りの回数で稼ごうとして、心臓が収縮する回数が極端に増えてきます。これが心拍数の増加や心臓の収縮力の増加になり、胸がドキドキする症状「動悸」が発生します。色々な臓器や細胞へ酸素が上手くめぐらなくなれば、異常な疲労感や息切れという症状も出てくることになります。
貧血だけではトモリンの「あざ」は説明できない
ただ、、、、貧血だけでは、「あざ」は出てきません。
これはおそらく、血小板の減少によるものではないか、と思います。血小板は、赤血球と同じく血液を構成する主要なメンバーの一つで、ケガをして膝を擦りむいた時などに血を止める働きをする細胞です。血小板が極度に低下すると、何もケガをしていないのにすねや腕などに「あざ」が出てきてしまいます。
今回のお話を読んでDr.アシュア的には、赤血球と血小板という二つの主要な血液の構成メンバーが極度に減少しているのではないか??という推論を立てました。さらに考えを進めてみると、血液を作っている根幹のシステムがおかしくなっている、と考えるのが自然だと思います。
それは何か・・・、骨髄ですね。
骨髄がなんらかの原因で血液を作ることが難しくなっているのではないでしょうか。
良くある病気では、やはり「白血病」でしょうかね。いわゆる”血液のがん”です。血液の工場である骨髄の中で白血病のがん細胞が異常増殖してしまう病気ですが、骨髄の正常な機能=血液を作る機能(造血といいます)が障害されてしまうため、赤血球の減少、血小板の減少が起こります。
他の鑑別診断としては、、、骨髄繊維症や、SLEのような免疫系の病気、感染症に続発する血球貪食症候群なども可能性としてはあるでしょうけども。
普通の小児科医の感覚として今の天才ピアニスト トモリンの状態を考えてみると、「緊急で検査をしなければいけませんし、入院で細かく検査や治療を考える必要がある極めて危ない状態」だと思います。
マコ先生も漫画の中で、病名がぶわっ!と思い浮かんでいる絵があり、鑑別診断をしているようですが、おそらくDr.アシュアと同じような感覚で今後のことを心配しているのではないでしょうか。
今回は以上となります。
これから「プラタナスの実」、マコ先生と天才ピアニスト トモリン の話が進んでいきそうですね。
もし白血病だとすれば、数週間ではなんともならない入院が長期化する病気です。ピアニストとしてはかなり致命的なブランクが生じることになります。しかし、昔とは違って白血病はもちろんケースバイケースではあるもののかなり治る病気になってきています。マコ先生のお父さんがやっている小児医療センターで治療する事になるのかしら。
ピアニストとしてキャリアを築きたいトモリン、医者として病気を見過ごせないマコ先生、これからどんな物語が紡がれていくのでしょうか。とても気になります!次回もとっても楽しみです。
追記
2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。
色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。