こんにちわ、アシュアです。身長に対する質問、たくさんありますよね。外来でもよく相談されたり、紹介されたりしている良くある主訴(しゅそ:患者さんのメインの訴えということです)です。
今回は病院で処方される低身長に対する薬剤?と言ってもいいかもしれない『亜鉛』に対するお話。2017年度の小児内分泌学会で、低身長治療に関する亜鉛投与についてのランチョンセミナーを聞いてきたのですが、演者は帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授/学科長の児玉浩子先生!
栄養界では、その名を知らない人はいない超有名人です。小児臨床栄養学という分厚ーい本の著者であり、栄養に困ったことのある小児科医は一度は手に取ったことがあると言ってよい名著です。今回はそのランチョンセミナーからサマライズしてお届けしたいと思います。
目次
2017年3月に亜鉛製剤の『ノベルジン®』に『低亜鉛血症』に対する効能・効果で追加承認が取得された
従来、亜鉛補充療法を行うにはサプリメントを購入する必要があったのですが、2017年3月から病院で低亜鉛血症が認められた場合には薬として『ノベルジン®』という薬剤が処方できるようになりました。もともとウイルソン病という病気に対する薬剤であったノベルジン®が使用できる範囲が広がった。ということになります。
低身長の原因疾患の一つに亜鉛を入れよう
小児内分泌学、という教科書があります。ホルモン関連の病気を主に扱う小児科医がよく読む教科書なのですが、現時点で低身長の項に『亜鉛欠乏』は乗っていません。児玉先生はこの点を指摘していました。
低身長に対する医学的な治療はそれほど方法がなく、一番エビデンスがあるのはもちろん『成長ホルモン』ですが、使用できるのは少数の患者さんだけですし、自費で行うには高すぎるので、結論なかなかできるものではありません。実際に自費で行おうとすると、体格にもよりますが年間100-700万円がかかると言われています。
成長ホルモンが使えない人の中に、亜鉛欠乏の人はかなり多く存在していることが予想されるので、明確な治療効果があるならば、亜鉛製剤は成長ホルモンが使えない子どもたちに、唯一の光明かもしれません。
亜鉛欠乏を疑うケースを理解しよう
亜鉛不足が重度になると皮膚症状が起こります。特に口回り・目周りの皮膚炎の際には亜鉛不足を疑います。
そのほかにもそれほど重度の亜鉛欠乏でなくても、成長障害(低身長・体重増加不良)を起こすこともあるので、下記の症状を参考に亜鉛欠乏を疑ったら病院を受診するのが良いです。
小児で亜鉛不足を疑うケース
皮膚炎
発育不全(体重増加不良、低身長)
下痢
貧血
免疫能低下、易感染性
味覚異常~児玉浩子, 亜鉛栄養治療 2012; 3(1): 4-13. より引用~
低身長の診療の際に、亜鉛を見てもらうことをお勧めします
児玉先生が提示された症例の中で、
6歳の成長ホルモン分泌不全症の患者さんに成長ホルモンを補充していたが、成長が改善しないため亜鉛を調べてみたら低値であった。亜鉛を補充したところ成長が改善した、
というお話がありました。成長ホルモンを投与して成長ホルモンが十分あったとしても、成長に必要な部品(亜鉛を含めた栄養素)が不足していると身長は伸びない、ということなのでしょう。
低身長の診療の際に亜鉛測定をおこなうこと、成長ホルモン治療の効果が芳しくない時に亜鉛測定をおこなうことが大事なのだと思います。
治療の基準の詳細は診療指針に譲りますが、
・血清亜鉛 <60 μg/dL :亜鉛欠乏と診断し治療
・血清亜鉛 60-80 μg/dL:潜在性亜鉛欠乏症
⇒症状がある(低身長を含めて)、ALP低値の場合は補充を検討
としながらも、さらに児玉先生の推奨としては以下のようなコメントでした。
60-70 μg/dL は亜鉛を3-6か月補充し身長の増加が改善しなければ中止
70-80 μg/dL はさらにケースバイケースで低身長以外に亜鉛欠乏の症状があれば補充を検討
また、亜鉛補充の際には、副作用として体内の銅・鉄が低下することがあり、その場合は低下した栄養素の補充を行ったり亜鉛そのものを中止する必要があること、亜鉛補充に関して消化器症状(気持ち悪くなったりする)が出る可能性があることにも言及されていました。変に自分で判断してサプリメントをとるのではなく、病院で処方してもらう方がよさそうですね。
まとめ
・低亜鉛血症に対する治療薬ノベルジンが処方可能になりました
・亜鉛欠乏で身長が伸びにくくなることがあります
・亜鉛欠乏を疑う症状があります
・低身長で病院にかかる場合には、亜鉛を見て頂くことをお勧めします
いかがでしたか?知っているのと知らないのとでは大違いかもしれません。もしお子さんの身長の件で病院を受診することがあれば、主治医の先生に亜鉛のことを訪ねてみると良いと思います。