こんにちは、Dr.アシュアです。
今回は、急性虫垂炎についての論文をご紹介しようと思います。一般的には、"盲腸”と言われる病気です。
盲腸、と言えば、手術!というイメージがあると思います。しかし、病気の状況にもよりますが、急性虫垂炎に対して手術を行わないで、抗菌薬治療だけを行うという選択肢もあります。
『軽い急性虫垂炎で、手術しないで済む、抗菌薬投与だけで退院ができますよ』と言われたとき…ちょっと抗菌薬治療も魅力的に映るのではないかと思います。
でも実際のところ、手術と抗菌薬治療とどちらが成績がいいのでしょうか。今回の論文はそんな疑問に対する研究でした。興味深い結果だったので、共有しようと思います。
まずは、今回の主役に登場してもらいましょう。
JAMA Pediatr. 2017 May 1;171(5):426-434. PMID: 28346589
Comparison of Antibiotic Therapy and Appendectomy for Acute Uncomplicated Appendicitis in Children: A Meta-analysis.
Huang L,et al.
急性虫垂炎に対する抗菌薬治療と手術治療(=虫垂切除術)の比較、という題名です。たくさんの論文を集めて行うメタアナリシスですね。
では、見ていきましょう。
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目次
論文を読む前に!前提の確認!
今回の論文は、急性虫垂炎を2種類に分けており、軽いグループの患者さんについて論じています。定義を確認しておかないと、論文の結果を間違った患者さんに当てはめてしまうリスクがあります。
この論文で扱っている患者さんは、単純な急性虫垂炎 uncomplicated acute appendecitisと定義されたカテゴリーの患者さんです。
虫垂に穴が開いたり、壊疽していたり、膿瘍を作ってしまっている虫垂炎を複雑な急性虫垂炎(complicated acute appendexctis)と定義して、
炎症で虫垂が腫れているが壁構造が問題ないものを単純な急性虫垂炎(uncomplicated acute appendecitis)としています。
ですから、この論文では”発症からあまり時間が経っておらず、病状が軽い急性虫垂炎の患者さん”が対象になっている、と捉えてもらって間違いはないと思います。
なお、特別な注釈がない限り、以降の文章では、単純な急性虫垂炎のことを急性虫垂炎と略して書いていきますので、ご注意のほどをお願いいたします。
背景-Background
すでに成人領域では、このテーマに関しては色々エビデンスが出ています。
合併症のない成人患者の急性虫垂炎に対して抗菌薬治療の有効性と安全性が複数のランダム化比較試験で立証されており、その治療成功率は63%~85%。
Br J Surg. 1995;82(2):166-169.
World J Surg. 2006;30(6):1033-1037. など
メタアナリシスおよび系統的レビューでも、成人領域における急性虫垂炎に対する抗菌薬治療は、効果があるとして結論付けられている。
BMJ. 2012;344:e2156.
Surgery. 2011;150(4):673-683.
Surg Infect (Larchmt). 2012;13(2):74-84. など
成人領域では抗菌薬治療が一つの選択肢になっていると言うことが分かります。しかし、小児に関しては急性虫垂炎の初期治療に抗菌薬を用いてよいかの確固としたエビデンスはありません。
これを背景に、今回著者らは、子どもの急性虫垂炎に対する抗菌薬治療の立ち位置を決めるために、メタアナリシスを行うことを決めました。
目的-Objecitve
今回の研究の目的はとてもシンプルです。
これが目的
小児患者における急性虫垂炎の初期治療として、抗菌薬治療と虫垂切除術のどちらが優れているかを比較検討すること
特に有効性と安全性の点について比較検討する
データソース-Database
2016年4月17日までPubMed、MEDLINE、EMBASE、およびCochrane LibraryデータベースとRCTのCochrane Controlled Trials Registerを2人の著者が独立して検索した。
タイトルと抄録は両方の著者によって検討され、メタアナリシスに適格かどうか決めるためには全文を入手し検討された。漏れがないように、適格性のある研究の参考文献も参照した。
有名なデータベースMEDLINE、EMBASEとともに、Cochraneも検索している点は、包括的でよい印象ですね。
また複数の著者で独立して検索を行う点は理想的ですが、検索の結果がどれくらい一致していたかについては記載はありませんでした。
研究の選択-Study selection
以下のような条件の研究を引っ張ってきたようです。
包含基準
・対象者が5-18歳の小児であること
・非穿孔急性虫垂炎に対する虫垂切除術と抗生物質治療を比較したランダム化比較試験or前方視的な比較対照試験
・アウトカムとして以下に示すものの内2つを含む(抗菌薬治療・虫垂切除術の成功率、合併症、再入院、入院日数、入院に対する総費用、障害のあった日数)
ちなみに、今回検索した論文は、英語で記載された論文のみに制限されていました。この点は包括的に検索をかけると言う意味では少し残念な点でした。
バイアスのリスク評価-Risk of Bias
ランダム化比較試験は、Cochrane Collaborationのバイアスのリスク評価ツールを用いて評価されました。
選択バイアス、パフォーマンスバイアス(参加者の盲検化)、選択バイアス(結果の評価における盲検化)、摩耗バイアス(結果のデータの不完全さの度合い)、報告バイアス、について評価され、各基準は各々、バイアスの低リスク、バイアスの高いリスク、またはバイアスの不確かなリスクとして評価されています。
前方視的比較対照試験=コホート研究の質は、ニューキャッスル-オタワ基準に従って、スコア化されて評価されています。
今回メタアナリシスに含まれた研究は、とても質が高いものでした。
結果-Results
初めの検索では527件の研究が見つかりましたが、諸々の除外を受け、結果的には5件の研究がメタアナリシスに含まれました。
内訳は、4つの単一施設における非ランダム化比較試験、および1つの単一施設におけるランダム化比較試験でした。
5つの研究において、急性虫垂炎(5〜18歳)404人が登録され、抗生物質治療群(n = 168)または虫垂切除群(n = 236)に割り当てられました。今回のメタアナリシスの目的を再掲して、結果を書いていきましょう。
これが論文の目的!
小児患者における急性虫垂炎の初期治療として、抗菌薬治療と虫垂切除術のどちらが優れているかを比較検討すること
【抗菌薬治療の有効性について】
抗菌薬治療群では168例中152例において成功し(90.5%)、虫垂切除群では、236例中235例において治療が成功した(99.5%)。
抗菌薬治療の失敗のリスク比が8.92(95%CI、2.67-29.79;異質性, P = .99; I2 = 0%)だった。
抗菌薬治療群は、成功率は90.5%と高かったのですが、手術群に比べて失敗のリスクが高いと言う結果でした。
ちなみに、”抗菌薬治療の成功”は、48時間以内に外科手術を必要とせず、また治療開始から1か月以内に虫垂炎が再発せずに、症状が消失すること、と定義されました。
”虫垂切除術群の成功”は、虫垂切除術をしたが虫垂炎の所見がなかったり、再手術がないこと、と定義されました。
メタアナリシスに含められた5つの研究のうち4つで、『虫垂に石(糞石と言います)がある患者さんだと、治療失敗のリスクが高い』と報告されていたため、虫垂に石がある患者さんだけ抜き出して、サブグループ解析をしています。
【抗菌薬治療の有効性について-糞石ありのサブグループ解析-】
抗菌薬治療群では、30例中15例が初期治療失敗or虫垂炎の再発があり、虫垂切除群では、19例中治療失敗はなかった。
抗菌薬治療の失敗のリスク比が10.43(95%CI、1.46-74.26;異質性, P = .91; I2 = 0%)だった。
糞石がある症例の場合は、抗菌薬治療の失敗率がかなり高くなることが分かりました。
なお、抗菌薬治療群では、一旦治療できても、その後やっぱり手術になったりするんじゃない?という考えが浮かびますが…
その辺りについてもデータが提示されていました。
抗生物質治療群に割り当てられた168人の患者のうち、1年間のフォローアップで、45人の患者(26.8%)が虫垂切除術を受けた。
その45人全てが虫垂炎だったわけではないようで、27人は術後の摘出した虫垂の病理学的検査によって虫垂炎と診断されていますが、虫垂炎のような症状を繰り返して手術をしたけれど結果的には虫垂炎じゃなかったケースもあったようです。
残りの結果は簡単に示します。
【Secondary Outcomesの結果】
・合併症は、抗菌薬治療群と虫垂切除群で有意差がなかった
・入院費は、抗菌薬治療群で有意に安かった
・入院期間は、抗菌薬治療群の方が有意に長かった
・障害期間は、虫垂切除術群で有意に短かった
※障害期間というのは、症状や痛みで苦しい期間という意味でしょうか。論文中に定義はなかったです。
結論-Conclusions
論文の結論を示します。
このメタアナリシスは、急性の複雑ではない虫垂炎の小児患者に対する初期治療として、虫垂切除術と抗菌薬治療の結果に関する貴重な証拠を提供した。以下のようなことが分かった。
・抗菌薬治療が実行可能で効果的であり、成功率が高い⇒90.5%の治療成功率
・抗菌薬治療は、虫垂切除術の場合よりも治療失敗のリスクが高い
・虫垂石の存在は、抗菌薬治療の失敗率を増加させる
・抗菌薬治療は、虫垂切除術と比較して、合併症を増加させたりはしない
研究の限界点としては、2つが書かれていました。
研究の限界点1 メタアナリシスに含まれた論文数が少ない
まずは、最終的にメタアナリシスに含められた論文が、たったの5つでした。ずいぶん数が少ないので、結果的に出た結論がどれだけ真の真実に近い結果なのかは、注意して考える必要があります。
ただ、含まれた5つの論文の質はとても高かったです。コホート研究の4つは、ニューキャッスル-オタワ基準で8-9点のみで、6点以上が高品質の研究と判断されるとすると、かなり質が高いです。ランダム化比較試験の1つは、Cochrane Collaborationのバイアスのリスク評価ツールを用いて評価されており、こちらも高品質であると結論付けられています。
もっと含まれる論文数が多かったら、よりこのメタアナリシスも評価が高いのに…と残念ですね。
研究の限界点2 1つの論文の観察期間が短い
あとは、5つの研究中4つは、観察期間が1年間だったのですが、1つの研究では平均4.7か月の観察期間でとても短かったため、これがバイアスを引き起こしている可能性は否定できないとありました。
それで結局何がわかったか
今回ご紹介したメタアナリシスでわかったこと、大事だと思ったことを簡単に要約してみます。
Dr.アシュアが考える、このメタアナリシスから分かること
初期の急性虫垂炎では、”抗菌薬治療のみで治療する方針”が選択肢の一つになる
”抗菌薬治療のみで治療”する場合、手術治療よりも治療成功率が低いことは、患者さんへの説明が必須だろう
”抗菌薬治療のみで治療”する場合、手術治療よりも、入院費は安く、入院期間は長く、病悩期間は短くなりそう
超音波検査で、虫垂に石(糞石)がある場合は、手術治療を勧める方が賢明である
※なお、今回の研究結果は、初期の急性虫垂炎で5-18歳のお子さんに当てはめるべきです
糞石があったときに、抗生剤治療を選択するのはまずい!ということはとても勉強になりました。
今回は以上となります。何かのお役に立てれば幸いです。