こんにちは、Dr.アシュアです。今回は、こどもの重症細菌感染症の一つ”尿路感染症”についてお話したいと思います。
お子さんが熱を出し病院を受診した時に”尿路感染症”と診断されて、入院になってしまったというご経験をお持ちのお父さん、お母さんもいるのではないでしょうか。
Uptodateの内容をもとに、今回の投稿では、基本的な内容から、尿路感染症にかかりやすいお子さん(いわゆるリスクファクターですね)について書いていこうと思います。
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目次
尿路とは?尿路感染症とは?
大人もこどもも毎日トイレでおしっこ=尿をしますが、尿が出来て排泄される道のことを“尿路”と言います。
尿路は2つの腎臓、2つの尿路、1つの膀胱、1つの尿道からなります。
細菌は通常これらの尿路には住んでいません。つまり尿路は無菌なのが正常です。
しかし、細菌が尿道をさかのぼって膀胱や腎臓に入ってしまうと感染症を起こします。
“尿路”の“感染症”=尿路感染症と言います。
簡単に説明をすれば、尿路感染症は2つに分類されます。
・熱が出ない尿路感染症=膀胱まで細菌が侵入した状態=下部尿路感染症(Lower urinary tract infection)
・熱がでる尿路感染症=腎臓まで細菌が侵入した状態=上部尿路感染症(Upper urinary tract infection)
どちらも感染症という意味では早く治療したい病気ですが、熱がでる尿路感染症の場合は、早く診断して適確に治療したいものです。
なぜ尿路感染症が怖いか
尿路感染症のうち、熱がでる尿路感染症(=上部尿路感染症)は怖い病気です。早く治療されないと、感染によって腎臓に永続的な損傷が残る可能性がありますし、上部尿路感染症から全身の血液の感染症(菌血症)になる可能性もあります。
上部尿路感染症は重症細菌感染症(severe bacterial infection:SBI)に分類される疾患です。
尿路感染症のリスクファクター
尿路感染症を起こしやすい子供がいます。病気を起こしやすい因子をリスクファクターと言いますが、尿路感染症のリスクファクターを以下に示しました。
年齢 1歳未満の男の子、4歳未満の女の子
大人では、男性より女性の方が尿道が短いため尿路感染症を起こしやすいです。
こどもの場合、男の子にもリスクとなる年齢がある点、そして男女でリスクとなる年齢が違う点は注目ポイントです。
包茎を治療していない男の子
包茎を治療していない男の子は尿路感染症のリスクが4-10倍高いです。
Pediatr Infect Dis J. 2008;27(4):302.
Arch Dis Child. 2005;90(8):853. Epub 2005 May 12.
しかし、それでもほとんどの男の子は尿路感染症を起こしません。
基本的には男の子全員が包茎治療をすべきとは考えられていませんが、ご興味のある方はこちらの投稿もご覧下さい。
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膀胱カテーテルを長期間使用する
異物が人体に入っていることは感染症のリスクとなります。
排尿のために膀胱に人工的な管(カテーテルと言います)が入っている場合には、尿路感染症を起こすリスクが上がります。
先天的に尿路の一部が正しく形成されていない(先天性尿路奇形)
冒頭で尿が出来て体外まで排泄される仕組みを書きましたが、尿路の形が生まれつき特徴的だと、”尿の流れがとどこおる”現象が起こります。
尿路は無菌ですが、それは尿が定期的に流れて細菌の定着を防いでいるためでもあります。尿路の形の生まれつきの変形があると、尿の流れがとどこおるため細菌が定着しやすくなり、尿路感染症を引き起こすことになります。
そういったわけで、尿路感染症を起こした場合は先天性尿路奇形がないかの精密検査が必要となります。
一般的には、腎臓の奇形がないか超音波検査を行い、尿管の奇形がないか造影検査を行っています。
適切に機能しない膀胱がある、便秘がある
膀胱の機能に障害があると尿路感染症のリスクになりますし、繰り返す可能性があります。
また、排尿や排便は脊髄の調整を受けています。脊髄の機能に障害がある場合、尿路感染症や便秘を繰り返すことがあります。
一度でも尿路感染症を起こしたことがある
一度尿路感染症で入院したことがある場合は、そうでないお子さんと比較すると尿路感染症のリスクが上がります。
尿路感染症の症状は?年齢別にわけてみる
尿路感染症の症状はお子さんの年齢によって異なります。Uptodateでは以下のように場合分けされて記述されていました。
尿路感染症の症状(2歳以上)
・排尿時の痛み
・頻繁に排尿する必要がある
・下腹部や背中の痛み
・発熱
2,3歳くらいのお子さんが正確に”痛み”を表現するのはかなり困難だと思います。
実際には上記の症状は就学前くらいから自分で訴えられる、と捉えておいても良いでしょう。
尿路感染症の症状(2歳未満)
・発熱以外に症状がない
・嘔吐や下痢
・機嫌が悪かったり、過敏性が上がる
・食欲がない(のみが悪い)
症状がない発熱の時に”尿路感染症”を疑う、というのは小児科医の良くある格言です。
しかし、例えば風邪でも熱だけから始まり、翌日から鼻水・咳が出てくるといった経過は良くあります。さらに熱が出て2-3時間で病院を受診したお子さんは、尿路感染症のように何も症状がないことも良くあります。
ではそういったケースで全例尿路感染症の検索を行うか、というとそうではありません。
我々小児科医は、問診に診察を加えて、「本当にこのお子さんに尿路感染症の検索が必要なのか」を考えていきます。
尿路感染症の診断については、また今後触れられたらと考えています。
まとめ
尿路感染症とはなにか、尿路感染症のリスクファクター、尿路感染症の症状についてまとめてみました。
尿路感染症自体は、もちろんむか~しからある病気なのですが、分かっていない・決まっていないことが実は結構多いです。
今後その辺りについても触れていけたらと考えています。今回は以上となります。